研究課題/領域番号 |
23K25760
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補助金の研究課題番号 |
23H01063 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分10040:実験心理学関連
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研究機関 | 静岡社会健康医学大学院大学 |
研究代表者 |
古川 茂人 静岡社会健康医学大学院大学, 社会健康医学研究科, 教授 (90396169)
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研究分担者 |
高木 明 地方独立行政法人静岡県立病院機構静岡県立総合病院(救急診療部、循環器病診療部、がん診療部、臨床診療部, 臨床診療部, 副院長 (10175424)
柏野 牧夫 日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所, 柏野多様脳特別研究室, フェロー (30396163)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,850千円 (直接経費: 14,500千円、間接経費: 4,350千円)
2026年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2025年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2024年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2023年度: 8,840千円 (直接経費: 6,800千円、間接経費: 2,040千円)
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キーワード | 人工内耳 / 聴覚 / 発達 / 振幅変調 / 変調フィルタ / 計算モデル |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、ヒトの聴覚系における振幅変調情報処理機構(特に変調フィルタとフィルタ出力の統合・分析)について、その成り立ちが生後の神経発達過程での入力信号への適応による可能性を検証する。このために聴覚系への入力信号が健聴者とは顕著に異なる人工内耳(CI)装用者に着目する。さまざまな装用履歴を持つ対象者について、その変調フィルタ特性を心理物理学的に計測し、変調フィルタ特性と聴覚発達過程での入力信号との関連性を明らかにする。個々人の自然音知覚成績を自然音処理への最適化の指標とみなして、上で得られた個人差を評価する。さらに、聴覚系の計算シミュレーションによって、得られた知見の計算論的な裏付けを得る。
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研究実績の概要 |
本研究は、ヒトの聴覚系における振幅変調情報処理機構(特に変調フィルタとフィルタ出力の統合・分析)について、その成り立ちが生後の神経発達過程での入力信号への適応によるものであることを検証する。このため、聴覚系への入力信号が健聴者とは顕著に異なる人工内耳(CI)装用者に着目する。2023年度は変調フィルタ特性(変調周波数選択性)を推定する心理物理学的手法を、CI装用者への適用するための予備実験を行った。CI装用者に対しても、健聴者と同様な刺激やプロトコルを用いることで、変調周波数選択性を示唆する結果が得られることを確認した。ただし、体系的な実験に移行する前に、詳細な実験パラメータの適切な手法、実験の効率化、CIパラメータの設定に課題があることがわかった。 また、心理物理学的な変調フィルタに関する計算モデルを構築する一環としての予備検討も行った。研究代表者らが発展させた深層学習(DNN)モデルを聴覚系モデルとみなし、心理物理実験を模擬した刺激に対する内部表現(各素子または層の応答)を分析した。その結果、特定の変調周波数については、人に近い形の変調周波数選択性を示す層があることが分かった。これは使用するDNNモデルが本研究でも有効であることを示唆するものである。ただし、人の結果と比較するためには手法の調整が必要であるほか、模擬的なCI入力を実装していく必要がある。DNNを用いた別の検討としては、CI入力からピッチ推定を行うモデルを構築した。それにより、現在普及しているCI刺激に含まれるピッチ情報について、その上限を推定することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の柱の一つは、装用開始時期の異なるCI装用者について、変調フィルタ特性を心理物理学的手法により推定することである。この心理物理学的手法は健聴者を対象とした過去の研究である程度確立されているが、CI装用者へ適用できるかは不明でった。2023年度はでは、1名のCI装用者に対して予備実験を行い、健聴者と同様な手法が適用できることが確認できた。同時に、技術的な課題(効率性、刺激パラメータの選択)が具体的に明らかとなった。この技術的な課題の解決には至っていないものの、総じてほぼ予定通りの進捗といえる。 研究代表者らが発展させたDNNモデルを聴覚系モデルとみなし、心理物理実験を模擬した刺激に対する各素子または層の応答を分析し、変調周波数選択性等に関する表現を探索することを目的としていた。その結果、特定の変調周波数については、人に近い形の変調周波数選択性を示す層があることが分かった。これは使用するDNNモデルが本研究でも有効であることを示唆するものである。これは年度当初の計画にほぼ従うものである。当初の予定外の実績としては、CI入力信号に含まれるピッチ情報がDNNによって抽出できることが明らかとなった。この推定精度は、CI装用者のピッチ知覚能力の上限を示すものと考えられる。今後計算モデルと実際の装用者の知覚を比較する際には、その上限値は有効な指標となるかもしれない。
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今後の研究の推進方策 |
心理物理学実験において解決すべき課題には、(1)実験の効率化(教示、刺激構成の工夫、検査パラメータの最小化)、(2)刺激パラメータの選択、があげられる。いずれも健聴者を対象とした検討で解決できる可能性があり、また、健聴者のほうが効率的に実験を行えることから、第一段階として健聴者を対象とした実験を行うこととする。これにより、課題の解決と実験プロトコルの整理をねらう。そのうえで、より制御された条件でCI装用者を対象とした実験を行う。 並行して、変調フィルタの特性の差が、語音知覚などに及ぼす影響を計算モデルと心理実験によって検討する。これにより、変調分析特性と語音・環境音の知覚との関連性を明らかにする。 DNNモデルを用いた検討においては、これまでは聴覚末梢の情報表現は十分に模擬されていなかった。今後は、健聴耳またはCI刺激における末梢表現を入力として実装することで、その入力様式が聴覚中枢に対応するモデル内部表現に与える影響を明らかにしていくこととする。
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