研究課題/領域番号 |
23K25797
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補助金の研究課題番号 |
23H01100 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分13020:半導体、光物性および原子物理関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
川上 洋平 東北大学, 理学研究科, 准教授 (60731172)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
19,110千円 (直接経費: 14,700千円、間接経費: 4,410千円)
2025年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2024年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2023年度: 10,010千円 (直接経費: 7,700千円、間接経費: 2,310千円)
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キーワード | 時間分解分光 / 超高速ダイナミクス / ポンプ-プローブ測定 / 強相関電子系 / 光強電場効果 / 少数サイクル光パルス / サブフェムト秒ダイナミクス |
研究開始時の研究の概要 |
高温超伝導や強誘電性、強磁性など、強相関電子系を特徴づける豊かな電気的・磁気的性質は、電子間のクーロン反発やスピン-軌道相互作用、交換相互作用などの微視的な相互作用を起源に発現する。このような量子多体効果はフェムト~アト秒周期の光強電磁場の下でどのようなふるまいを示すのだろうか?微視的相互作用の時間スケールに匹敵するサブフェムト秒精度のポンプ-プローブ実験系を構築し、これを用いた時間領域分光から、光強電磁場下における多体電子のダイナミクスを明らかにする。
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研究実績の概要 |
多体電子のサブフェムト秒ダイナミクスを観測するための、超精密ポンプ-プローブ実験システムの要素技術開発を行った。従来型のシステムでは自由空間における光路長操作によってポンプ-プローブ遅延時間を制御するのに対し、本手法では複屈折結晶を利用して遅延時間を操作する。安定性と制御精度の向上によって、アト秒精度でのポンプ-プローブ実験が期待できる。本年度は、楔形の複屈折結晶を用いてポンプ-プローブ光学系を試作し、少数サイクル赤外光を用いて動作検証を行った。主な検証内容を以下に挙げる。 1)一般的に、超短光パルスは媒質の透過に伴いパルス幅が伸長する。本研究で用いる少数サイクル赤外光も例外ではなく、複屈折結晶を用いる本手法では本質的な課題となる。パルス圧縮のための光学系を見直し、複屈折結晶の透過後も少数サイクルの赤外光パルスを実現できることを確認した。 2)本研究では、複屈折結晶における群速度の異方性を利用して遅延時間を操作する。このとき、ポンプ-プローブパルス対の遅延時間の決定は、自由空間におけるそれほど容易ではない。パルス対のスペクトル干渉測定によって遅延時間を実測し、期待どおりの精度(50アト秒以下)での動作を確認した。 3)同軸配置のポンプ光とプローブ光の強度を独立に制御するための機構を検討した。複屈折結晶の透過に伴う偏光分離特性に注目し、減光フィルタと波長板の組み合わせによって、ポンプ光とプローブ光の強度を独立に制御できることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度に予定していた、サブフェムト秒ポンプ-プローブ実験の要素技術開発がおおむね順調に進んでいるため。 本研究の特徴は、一般的な自由空間における光学遅延機構の代わりに複屈折結晶を用いることで、アト秒精度でのポンプ-プローブ実験を目指す点にある。遅延時間の精度の飛躍的な向上が期待できる反面、解決すべき課題も少なくない。本年度はまず、楔形の複屈折結晶を用いて試作光学系を作成し、要素技術の開発に取り組んだ。 1)複屈折結晶の利用がアト秒精度の遅延時間操作の要である。しかし同時に、複屈折結晶を透過することで極短光パルスのパルス幅が伸長してしまう。そのため、パルス幅の伸長を補償することが第一の課題であった。パルス圧縮(群遅延分散補償)光学系の見直しにより、少数サイクル赤外パルスでのポンプ-プローブ実験の見通しを立てることができた。 2)光が光速で伝搬する自由空間におけるポンプ-プローブ実験では、遅延時間はポンプ光とプローブ光の光路長の差だけで決まる。一方、複屈折結晶を用いた本手法では、異方的な群速度と結晶の厚さの2つのパラメータが本質的に重要となる。すなわち、遅延時間の校正は従来手法ほど容易ではなく、これが第二の課題であった。パルス対のスペクトル干渉測定によって遅延時間を実測し、設計どおりの精度(50アト秒以下)での遅延時間操作が可能なことを確認した。 3)一般的にポンプ-プローブ実験では、ポンプ光とプローブ光の強度を独立に制御する必要がある。本手法ではポンプ光とプローブ光が同軸光路を通るため、従来手法で良く用いられる、各々の光路に異なる減光フィルタを挿入する方法が利用できない。すなわち、ポンプ光とプローブ光の強度の独立制御が第三の課題であった。減光フィルタと波長板を組み合わせて利用することで、ポンプ光とプローブ光の強度を独立に制御できることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた要素技術を用いて、サブフェムト秒ポンプ-プローブ実験の光学系を完成させる。さらに、ポンプ-プローブ測定のデータ収集機構を整備し、強相関電子系物質を対象としたポンプ-プローブ実験を試みる。その際、信号の収集に関する課題を想定している。すなわち、ポンプ光とプローブ光が同軸配置となる本手法では、プローブ光の選択検出が容易ではない。重要な技術的課題であるものの、実際に用いる対象試料の大きさや表面粗さにも関係するため、実験の都度、試行錯誤が必要となる。ポンプ光とプローブ光の偏光や強度の組み合わせを踏まえ、実験条件を模索しながら研究を推進する。具体的には、主に以下の実験を計画している。 1)非従来型の有機超伝導体κ型BEDT-TTF塩を対象に、これまでの研究で示唆されている電荷移動の同期現象(周期6フェムト秒)やフェムト秒無散乱電流(< 6フェムト秒)の実時間ダイナミクスの観測を試みる。極超短赤外光パルスが駆動する多体電子のサブフェムト秒ダイナミクスを捉えることで、これらの光強電場効果の起源に迫りたい。 2)電子相関を起源とする新しいタイプの強誘電体α型BEDT-TTF塩を対象に、強誘電分極のフェムト秒~アト秒操作の可能性を検証する。強誘電分極を“どれくらい高速に操作できるのか”という基本的な問いにアプローチする。 3)銅酸化物高温超伝導体の代表物質YBa2Cu3Oyを対象に、非平衡多体電子のサブフェムト秒ダイナミクスの観測を試みる。光生成する準粒子の超高速ダイナミクスの観測を通して、準粒子の生成機構や超伝導発現に寄与する相互作用の理解を目指す。
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