研究課題/領域番号 |
23K25901
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補助金の研究課題番号 |
23H01205 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15020:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する実験
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
麻生 洋一 国立天文台, 重力波プロジェクト, 准教授 (10568174)
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研究分担者 |
松本 伸之 学習院大学, 理学部, 准教授 (30750294)
阿久津 智忠 国立天文台, 重力波プロジェクト, 助教 (40564274)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,850千円 (直接経費: 14,500千円、間接経費: 4,350千円)
2025年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2024年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 8,840千円 (直接経費: 6,800千円、間接経費: 2,040千円)
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キーワード | 重力波 / 量子雑音 |
研究開始時の研究の概要 |
これまでに観測されている100太陽質量よりもさらに重いブラックホール連星からの重力波を検出するためには、検出器の低周波感度を向上す る必要がある。スピードメーターは、量子輻射圧雑音を低減し低周波感度を向上する方法である。特に最近提案された偏光循環型スピードメー ター(PCSM)は、実現可能性の高い方法として注目されている。本研究では、PCSM を実装するために必要不可欠な、偏光打ち返し鏡の位置と角 度を制御する方法を提案し、その実証実験を行う。
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研究実績の概要 |
本研究では、Polarization Circulation Speed Meter(PCSM)を用いた新型のスピードメーター型重力波検出器の原理実証を目指している。PCSMは、従来型重力波検出器にPolarization Circulation Cavity(PCC)を追加することで構築可能であり、大幅な改造が不要であるという利点を持つ。しかし、PCCの長さという新たな制御すべき自由度が加わるため、PCSMの実現性に関しては、その実証実験が必要とされていた。 今年度は、テーブルトップでの実験セットアップを構築した。まずは、メインの光共振器をPDH法で制御することに成功した。その状態で、PCCの長さを手動で最適な位置に調整し、重力波に対する応答(伝達関数)を測定した。結果は、モデルの計算と一致し、この干渉計が実際にスピードメーター型重力波検出器として機能していることが示された。 伝達関数の測定には、メイン共振器のエンドミラーから重力波信号を模したサイドバンドを入射した。そのための、位相ロック制御も実装した。また伝達関数測定を行う短い時間ではPCCの長さが十分安定なため、その制御を行う必要はなかったが、長時間の観測運転を行うためには、PCC長のフィードバック制御が必要になる。その制御手法として、我々はRFサイドバンド法と、Dual-Retardance法の2つを提案している。現状、RFサイドバンド法を用いてPCCの制御(ロック)する準備を進めている。また、Dual-Retardance法に用いる倍波レーザーの準備も行った。 今年度の成果により、世界初となるPCSMの原理検証が行えた。今後は、PCC長の制御を実装し、その性能確認などを行う。さらにメイン光共振器の鏡を軽量懸架鏡へと変更することで、輻射圧雑音低減効果を実際に検証するための検討も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の最低限の目標は、PCSM型重力波検出器のテーブルトッププロトタイプを固定鏡で構築し、その伝達関数が理論と一致することを確認することである。今年度はそのために必要な光学系を構築し、メイン光共振器をロックすることまでを目標として実験を進めてきた。 光学系の構築が順調に進んだため、当初の予定より早くPCCの構築を行い、さらに伝達関数測定に必要なサイドバンド注入部分の構築も完了した。現状、メイン光共振器をロックするための周波数フィードバックループと、メインレーザーとサイドバンド注入レーザーを位相ロックするためのフィードバックループが同時に動作する状態になっている。ここまで来ると、PCCの長さを手動で調節することで、PCSMとしての短時間動作が可能になる。伝達関数の測定はその短時間のうちに完了するため、今年度実際に実施することができた。その結果、理論的に予想される伝達関数と測定結果がきれいに一致した。これは、本研究全体の目標を初年度においてクリアできたことを意味する。 もちろん、上記は最低限の目標である。PCC長さのフィードバック制御ができていない現状では、長時間の運転は難しい。実際の重力波検出器に応用するためには、PCC長さの制御を実現することが必要不可欠である。そのために、RFサイドバンド法とDual-Retardance法によるPCC制御の準備も進めている。いずれにしても、研究は当初の予定よりも早く進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度にPCSMの伝達関数による原理検証まで進めることができたので、次に必要なのはPCCのフィードバックによる安定制御である。そのためには、RFサイドバンド法とDual-Retardance法という2つの方法があり、両方を試してその性能を確認・比較するつもりである。まずは、現状のセットアップのまま試すことのできるRFサイドバンド法を実装する。制御の安定度を増すために、フィードバックフィルターを単純なアナログローパスフィルターから、FPGAを用いた高次IIRフィルターへと切り替えていく予定である。また、Dual-Retardance法で必要な緑色レーザーの準備も進めている。このレーザーと現在使っているメインレーザーをPLLで位相ロックし、PCMの背面から入射することで、PCC長さの制御を行う。 PCC長さの制御が実現された後は、スピードメーターの最大の利点である輻射圧雑音の低減について、古典的輻射圧変調を用いて検証することを検討している。そのためには、メイン光共振器の鏡のうち一つを数十mg程度の極軽量ミラーへと変更する必要がある。これには、研究分担者松本の持つ技術を活用する。また、メイン光共振器は真空槽の中に設置し、適切な防振装置を用いる必要がある。本来、輻射圧雑音低減の実証は、本研究で個体鏡による原理検証を終えた後のステップとして考えていたことである。従って、この検証を本研究の期間中に完全に実現するのは難しいかもしれないが、もし実現すればインパクトのある成果となるため、精力的に進めていきたい。
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