研究課題
基盤研究(B)
初期宇宙において急速に激しい星形成を行った大質量銀河は、なぜ短期間のうちに星形成を止めたのか。その後の長い宇宙史において、なぜ大質量銀河は再び星形成を起こさなかったのか。電波銀河がその鍵を握ると考えられているが、初期宇宙における電波銀河は探査が進んでおらず、そのため電波銀河が大質量銀河の進化に及ぼした影響は謎である。そこで本研究では、広域多波長サーベイデータを用いて初期宇宙における電波銀河を系統的に探査する。発見した電波銀河の多波長データに対してSED解析を行い、電波銀河の星質量と初期宇宙における星形成史を解明する。その結果を踏まえ、大質量銀河における星形成活動の阻害の物理を暴く。
2024年度からサーベイデータの一部が利用可能になるEuclid宇宙望遠鏡のデータ解析に向けた準備として、計画初年度にあたる令和5年度には、HSC-SSPサーベイやUNIONSサーベイといった先行の広域サーベイのデータを用いた準備研究を進めた。特にEuclid宇宙望遠鏡の広域サーベイ観測の天域に合わせて実施されているUNIONSサーベイにより取得されつつある可視測光データは、Euclidサーベイデータと合わせることで多様なサイエンスが可能になるものである。本研究では、UNIONSサーベイで取得されたデータを用いて、u-dropout選択の手法により、赤方偏移3程度の電波銀河を多数選択できることを示した。またWISE中間赤外線サーベイのデータと組み合わせたSED解析により、選択した電波銀河について、誤差は大きいものの星質量や星形成率といった物理量を推定できることを示した。このサンプルに対して、計画2年目以降にEuclid近赤外線サーベイの測光データを組み合わせることで、遠方電波銀河の理解を飛躍的に深められると期待できる。更に、UNIONSサーベイとWISEサーベイのデータの組み合わせから、Dust-Obscured Galaxies (DOGs)と呼ばれる活動的な銀河の選択およびSED解析も行った。DOGsのSED解析により、これまで指摘されていた3つの種族(bump DOGs, power-law DOGs, blue-excess DOGs)のどれとも異なる新たな種族が存在することを発見し、この種族が銀河と巨大ブラックホールの共進化シナリオにおいて興味深い進化段階にある可能性を見出した。この種族についても、Euclid近赤外線データと組み合わせることで、大質量銀河の進化の統一的描像構築に重要な新知見を得ることができると期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
Euclidサーベイの天域と合わせて実施中のUNIONSサーベイのデータを用いた準備研究により、遠方電波銀河やDOGsといった、大質量銀河の進化を考える上で重要な銀河種族の選択を進めることができている点は、当初計画の通りである。この準備研究の中で、これまで指摘されていた3つの種族(bump DOGs, power-law DOGs, blue-excess DOGs)のどれとも異なる新たな種族が存在することを発見できたことは、当初計画では想定していなかったものである。大質量銀河の進化という文脈で、この種族にどのような意義があるかについては、計画2年目以降の分光観測でスペクトルを取得して詳細解析しなければ結論付けられないものの、現時点での解釈としてはこの新種族は銀河と巨大ブラックホールの共進化シナリオにおいて興味深い進化段階にあると考えている。そうした予想外の発見まで得られているということから、本研究は当初の計画以上の進展を示しているといえる。
Euclidサーベイの測光データは計画2年目の末頃から利用可能になる見込みであり、それまではHSC-SSPデータおよびUNIONSデータを用いた天体選択の続きを行う。特に電波銀河については、計画初年度に赤方偏移3の天体に主に着目していたが、これを他の赤方偏移にも広げる。更に、電波銀河およびDust-Obscured Galaxiesのいずれに関しても、選択された天体の中で特に興味深いものについて、分光フォローアップ観測を実施し、スペクトル特性および物理状態の調査を進める。Euclidサーベイのデータが利用可能になれば、これまで選択してきた天体のSED解析にEuclidサーベイの近赤外線測光データを組み込むことで、電波銀河やDust-Obscured Galaxiesの大質量銀河進化という観点における意義を解明する。
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すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (17件) (うち国際共著 15件、 査読あり 17件、 オープンアクセス 11件) 学会発表 (32件) (うち国際学会 18件、 招待講演 1件)
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