研究課題/領域番号 |
23K25969
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補助金の研究課題番号 |
23H01273 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分17040:固体地球科学関連
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
土屋 旬 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 教授 (00527608)
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研究分担者 |
出倉 春彦 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 講師 (90700146)
佐野 亜沙美 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 研究主幹 (30547104)
志賀 基之 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, システム計算科学センター, 研究主幹 (40370407)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
17,550千円 (直接経費: 13,500千円、間接経費: 4,050千円)
2025年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2024年度: 5,980千円 (直接経費: 4,600千円、間接経費: 1,380千円)
2023年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
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キーワード | 水素同位体効果 / 第一原理 / 高圧実験 / 含水鉱物 / 量子効果 / 高圧 |
研究開始時の研究の概要 |
水素は原子質量が小さいため, その原子核の強い量子性が鉱物の構造や物性に無視できない影響を与える場合があることが知られている. 本研究では水素原子核の量子効果を考慮した第一原理経路積分分子動力学計算法を用い, 高圧下における鉱物の構造や物性に与える水素同位体効果の解明を行う. その結果を高圧中性子回折実験および光学測定と比較することで, 理論予測の検証を行う. さらに第一原理経路積分分子動力学計算法を用いた自由エネルギー計算法の開発を行い, 鉱物における水素同位体効果を解明する枠組みを確立し, 地球の海洋の起源を含めた水素同位体分別効果に関する研究を展開する.
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研究実績の概要 |
高圧下において、氷VII相からX相に至る相転移は水素の静的無秩序状態から動的無秩序状態を経て対称水素結合状態へ至ると考えられており、多くの高圧実験・理論計算等により状態方程式や物性が調べられてきた。特にVII相の状態方程式に関しては約40-60 GPa付近において圧縮率の増加が報告され、水素の動的無秩序状態に起因すると指摘されている。この動的無秩序状態においては、水素のトンネル効果が重要である可能性がある。 今年度は、氷VII 相からX相に至る水素の状態変化を詳細に調べるために、原子核の量子効果も考慮した第一原理経路積分分子動力学計算(PIMD)を行った。さらに、原子核の量子効果を考慮しない通常の第一原理分子動力学計算(AIMD)も行い、AIMD、PIMDによる氷VII相の弾性定数と、ブリルアン散乱実験から得られた弾性定数を比較した。AIMD、PIMD、実験値のいずれも、低圧力条件では静的0Kにおける弾性定数とほぼ平行な変化を示し、これは温度条件の違いによってのみ説明できると考えられる。一方、加圧にともないPIMD、ブリルアン散乱、AIMDの結果は、それぞれ40, 60, 70 GPaで静的0 Kの値から逸脱し増加することが判明した。これらの弾性定数の増加は、水素原子の動的挙動に起因すると考えられる。AIMDとPIMDの結果を比較すると、原子核の量子効果は動的無秩序相の弾性定数の増加に大きく寄与(300K・70GPa付近で約20%)していることも判明した。このような原子核の量子効果が常温条件においても弾性というマクロな物性に大きな影響を与えていることを論文(Tsuhciya et al. 2024, Physical Review Research, in press.)にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1.研究代表者と分担者(出倉)の協働により第一原理経路積分分子動力学計算の実行体制を整えた。研究分担者(志賀)のサポートにより、オープンソース・ソフトウェア「PIMD」のスパコン上でのコンパイルとチューニングを行った(土屋・出倉)。 2.1.を用いて本研究対象の代表例とも言うべき氷高圧相の状態方程式と弾性に及ぼす原子核の量子効果について、既存の理論および実験結果や原子核量子効果を含めない計算結果との比較を行い、計算の精度や有効性について確認した。これにより常温における氷高圧相の弾性特性に水素原子核の量子効果が大きな影響を及ぼしているという極めて興味深い結果が得られた。これらの結果はPhys. Rev. Res.誌に論文発表を行った。 3.研究分担者(志賀)により量子振動スペクトル計算を実装するなど、PIMDコード開発を進展させた。研究分担者(志賀)との議論およびプログラムの提供を受け、自由エネルギー計算の実行に向けて、温度と量子効果を考慮した氷の振動特性の計算に着手した(出倉)。この計算に関してもすでに結果が得られつつある。 4.理論計算の有効性を検証するため、実験により重水素化した水酸化物を合成し分光スペクトル測定を行い重水素化による振動スペクトルの変化を調べた。また高温高圧実験による鉱物の同位体比測定にむけて、測定のために必要な標準試料を準備した(佐野)。
以上いずれの点においても順調に研究が進展しており、当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
1.氷高圧相の弾性特性の計算において原子核、特に水素原子核の量子効果が重要であることが判明した。今後、PIMDコードに機械学習ポテンシャルを実装して、計算を高速化し(志賀)、同様に含水鉱物(δ-AlOOH、含水H相等)についても同様の計算を行いそれぞれの系において原子核量子効果がどの程度重要であるかについて調べる(土屋・出倉)。 2.原子核の量子効果を考慮した自由エネルギー計算のために、まずは氷高圧相の振動特性の計算を実行し、実験値(赤外・ラマン分光測定)との比較を行う予定である(出倉)。計算条件や精度等の確認後、鉱物に対しても同様の計算を行う(土屋・出倉)。この振動計算と準調和近似により自由エネルギーを見積もる(土屋・出倉)。 3.2.において開発した自由エネルギー計算法により水素同位体分別効果について実験との比較が容易な系において研究に着手する(土屋・出倉)。 4.高温高圧実験を行い、合成した試料についての同位体比の測定を進めることで、マントル条件下において同位体比の変動が起きうるかを探る(佐野)。 5. 上記3.4.の比較により理論計算の有効性を確かめる(全員)。
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