研究課題/領域番号 |
23K26086
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補助金の研究課題番号 |
23H01391 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分21010:電力工学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小野 亮 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (90323443)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
19,240千円 (直接経費: 14,800千円、間接経費: 4,440千円)
2025年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2024年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2023年度: 12,740千円 (直接経費: 9,800千円、間接経費: 2,940千円)
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キーワード | プラズマ医療 / がん治療 / 免疫治療 / 再発抑制 / 抗PD-1抗体 |
研究開始時の研究の概要 |
放電プラズマで癌や創傷を治療するプラズマ医療において、申請者は先行研究で、マウスの腫瘍にプラズマを照射するとマウスの抗腫瘍免疫が高まり、プラズマ照射部位の腫瘍のみならず、全身の腫瘍が退縮することを示した。さらにその後の研究で、プラズマを腫瘍ではなく背中などの非腫瘍部に照射しても、同様の効果が得られる現象を発見した。本研究では、このプラズマがん治療について、マウスを用いた動物実験および、プラズマの計測とシミュレーションを通して、治療効果の検証および原理解明を行う。
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研究実績の概要 |
本年度は、ストリーマ放電照射による抗腫瘍効果を調べるための、2つのマウス実験モデルを作成した。1つ目は、腫瘍切除後の局所再発抑制効果の検証モデルである。マウスメラノーマ細胞B16F10腫瘍をマウス皮下に生成し、これを不完全切除後に局所再発させ、腫瘍切除直後にストリーマ放電を10分間照射することで局所再発を有意に半減させるモデルを確立した。2つ目は、免疫チェックポイント阻害剤の抗PD-1抗体に対するストリーマ放電照射の併用効果検証モデルである。マウス大腸がん細胞colon26腫瘍をマウス皮下に生成し、このマウスに効き目が不十分になる程度の低用量の抗PD-1抗体を投与する。このマウスの腫瘍をさらにプラズマ照射すると、単独ではほとんど効き目の無かった抗PD-1抗体に対して有意に相乗効果を与える動物実験モデルである。抗PD-1抗体、あるいはストリーマ放電単独では効き目がないものの、両者を併用すると抗腫瘍効果があらわれる動物実験モデルの開発に成功した。 Colon26担癌マウスの正常組織にストリーマ放電を照射する正常組織照射モデルに対しては、腫瘍内の免疫細胞群を調べるフローサイトメトリー(FACS)計測を実施し、CD8 T細胞や樹状細胞などの免疫反応活性化を表すいくつかのタンパク質発現の観測に成功した。さらに、抗PD-1抗体併用実験でもFACS計測を実施し、プラズマ照射の効果を表す何らかの信号が見えつつある状況である。 ストリーマ放電の電子密度および電子エネルギー分布の計測も実施した。放電および計測の安定化に半年ほど時間がかかり、まだ十分な測定結果は得られていないものの、データ取得に向けて着実に実験を進めることができた。また、ストリーマ放電のシミュレーションも行い、その機構に関する知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、2種類のマウス動物実験モデルの開発に成功した。ストリーマ放電照射による局所再発抑制モデルおよび、抗PD-1抗体への併用による相乗効果検証モデルである。通常、動物実験モデルの開発には多くの時間を要し、数年単位の時間がかかることもある。その中で、2種類の動物実験モデルの開発に成功したことは、本研究が順調に進んでいることを示している。また、正常組織照射のFACS計測では、これまでプラズマ照射による差がほとんど見られない実験が2年ほど続いていたが、FACS計測のタイミングおよび測定対象となるタンパク質の見直しなどにより、本年度にようやくプラズマ照射の効果を見ることができた。また、抗PD-1抗体併用実験においてもFACS計測を初めて実施し、プラズマ照射の効果が何か見えそうな感触を得ている。こちらも順調に進んでいる。 一方、局所再発実験の原理解明実験も行ったが、こちらはまだ期待した結果が得られていない。免疫不全マウスを用いて免疫の寄与の有無を調べる実験では、まだはっきりした結果が得られていない。また、プラズマで発生する活性種、電界、電流の中で電界と電流を省き、活性種だけを与えることを意図した真空紫外光照射実験も行ったが、こちらもまだはっきりした結果が得られていない。 ストリーマ放電の計測は鋭意進めており、特に放電の安定化が難しい実験であるため苦労したため、当初予定よりは遅れている。しかしようやく放電安定化の方法を会得し、電子密度および電子エネルギー分布の実験結果も得られつつあり、今後は順調に進むものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
(i) 正常組織照射、(ii) 局所再発抑制、(iii) 抗PD-1抗体併用の3つの動物実験モデルについて、原理解明を進めていく。(i)と(iii)についてはFACS計測を軸に進める。(ii)についてはこれから検討するが、免疫が作用しているのか、あるいはプラズマの直接効果により腫瘍切除痕のミクロながん細胞残滓が不活化されているのか、そこの区別から進めていく予定である。この他、ストリーマ放電で腫瘍特異的な免疫が得られているかも調べる。具体的にはB16F10腫瘍にストリーマ放電を照射し、そのときに発生するB16F10特異的なCD8 T細胞の存在の有無をMHCテトラマーで測定する。 これまでは動物実験が主体だったが、今後は細胞実験も精力的に取り組む予定である。細胞不活化実験の他に、原理解明につながる細胞実験も行いたいと考えている。これまで共同研究を行っていた、東京大学先端科学技術センターの免疫の専門家である柳井秀元先生に加えて、放射線医療の専門家である放射線医科学研究所とも共同研究を始めることを検討しており、先端的な細胞実験に共同で取り組むことを計画している。 プラズマ計測については、共同研究を行っている先生方の助けを借りながら、現在行っている電子密度および電子エネルギー分布計測に加えて、電界計測や活性種計測も行っていく予定である。また、腫瘍照射に用いているストリーマ放電の特性を計測することも検討しており、さらにマウスにプラズマ照射したときの放電の様子を高速度かつ高感度に測定することも計画している。
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