研究課題/領域番号 |
23K26098
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補助金の研究課題番号 |
23H01403 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分21010:電力工学関連
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
勝木 淳 熊本大学, 産業ナノマテリアル研究所, 教授 (80233758)
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研究分担者 |
佐々木 満 熊本大学, 産業ナノマテリアル研究所, 准教授 (40363519)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,850千円 (直接経費: 14,500千円、間接経費: 4,350千円)
2025年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2024年度: 6,890千円 (直接経費: 5,300千円、間接経費: 1,590千円)
2023年度: 8,320千円 (直接経費: 6,400千円、間接経費: 1,920千円)
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キーワード | 電気パルス / 細胞膜透過性制御 / 非加熱食品プロセス / 抽出 / 超高電界パルス / 細胞膜易透化 / 細胞壁破砕 / 細胞内分子非破壊抽出 / 食品加工 / 細胞膜透過性 / 物質輸送 / 誘電特性 / 非加熱食品加工 |
研究開始時の研究の概要 |
細胞膜を非加熱的に変性させうる強い電気パルスは、新しい食品プロセスとして期待されるものの、細胞への作用と効果については不明な点が多い。本研究では、電気パルスで生じる細胞膜や細胞壁の変性、膜を介した物質輸送のメカニズム、およびそれらの生体構造や環境因子への依存性を明らかにする。その上で、農作物の成分抽出や物質含浸などの現行プロセスの高度化のほか、細胞内機能性物質の非破壊抽出や選択抽出など、新しい食品プロセスとしての可能性を探求する。
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研究実績の概要 |
新しい食品プロセスとして期待される強い電気パルスの細胞への作用と効果について、細胞膜や細胞壁の変性、膜を介した物質輸送の機序、およびそれらの生体構造や環境因子への依存性を明らかにし、その上で、農作物の成分抽出などの現行プロセスの高度化のほか、細胞内機能性物質の非破壊抽出や選択抽出など、新しい食品プロセスとしての可能性を探求する。2023年度に取組んだ次の3つの課題は概ね計画通りに実施した。 (1)電気パルスの細胞への物理作用と膜を介した物質輸送の機序解明:人工細胞の作製方法、人工細胞への膜電位付与法、細胞膜の観察法、およびCaイオンの動態可視化法を確立した。その上で、電気パルス印加後の細胞膜様態変化およびCaイオンの動態の膜電位や電気パルス因子への依存性を明らかにし、電気パルスの細胞膜への物理作用および介膜イオン輸送の機序を提案した。この成果を国際会議で発表した。 (2)微生物に対する電気パルスの効果と膜を介した物質輸送、および微生物の誘電特性解析:酵母および非病原性かつ外殻構造が異なる3種類の細菌を用い、電気パルス印加後の細胞膜透過性および細胞壁の様態変化を蛍光顕微鏡で可視化する方法を確立した。これにより、電気パルスの膜透過性や細胞壁への影響がパルス因子に依存し、かつ微生物の種類にも依存することが明らかとなった。この成果を国際会議で発表した。 (3)酵母から放出される物質の化学分析および抽出法としての可能性検討:液体クロマトグラフィーとBCA法を用いて酵母から放出されたタンパク質を定量し、これらのパルス因子への依存性を調べた。その結果、70 kV/cmを超える電気パルスによってタンパク質量が急激に増加することがわかった。(2)の結果および数値計算を併せて考察すると、70 kV/cmの電界はタンパク質が透過し得るような細胞壁の変性が生じると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度に計画した3つの課題は以下のようにおおむね達成された。 (1)電気パルスの細胞への物理作用と膜を介した物質輸送の機序解明: 準備として、DOPCやDPPCからなる人工細胞の作製法、Kイオンイオノフォアであるバリノマイシンを用いて人工細胞に正/負の膜電位を与える方法を確立したこと、高速蛍光共焦点顕微鏡下で細胞膜に電気パルスを印加するシステムを構築し、蛍光分子を用いてCaイオンの動態を可視化する方法を確立した。以上をもって、電気パルスの細胞への物理作用とそれに伴う現象の理解を深め、その操作因子への依存性を明らかにするという目的を達成した。 (2)酵母や非病原性細菌のグラム陰性菌(エンテロバクター菌、クレブシエラ菌)とグラム陽性菌(リステリア菌)などの微生物に対する電気パルスの効果と膜を介した物質輸送、および微生物の誘電特性解析:酵母および非病原性かつ外殻構造が異なる3種類の細菌を用い、電気パルス印加後の細胞膜透過性および細胞壁の様態変化を蛍光顕微鏡で可視化する方法を確立した。さらにインピーダンス法を用いて電気パルスによる微生物の状態を推定する方法を確立した。以上をもって、電気パルスによる膜透過性や細胞壁変性が電気パルス因子に依存し、かつ微生物種類にも依存することが明らかとなり、当初の目的を達成した。 (3)電気パルスを印加した酵母から放出される物質の化学分析および物質抽出法としての可能性検討:電気泳動、液体クロマトグラフィー、およびBCA法を用いて酵母から放出されたタンパク質を同定、定量し、これらのパルス因子への依存性を明らかにし、目的を達成した。さらに、70 kV/cmを超える電気パルスによってタンパク質抽出量が急激に増加することと、これと細胞壁の変性と関連性について明らかにし、予想を超える知見が得られた。 (1)(2)(3)の成果はそれぞれ学術論文で発表予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、2023年度の成果を踏まえ、当初計画の通りに次の内容を実施する。 (1)2023年度に構築した細胞イメージング装置や実験方法を用いて、DOPCやDPPCなどの脂質からなる人工細胞に対する解析を行う。また、pH、導電率や温度などの環境因子への依存性についても調べる。さらに、GFPを用いて、電気パルス印加後にタンパク質が細胞に取り込まれる様子を可視化する方法を確立し、その制御を試みる。 (2)エンテロバクター菌やリステリア菌などの細菌や酵母などの大きさや外壁構造が異なる単細胞微生物を対象として、電気パルスの効果と膜を介した物質輸送、誘電特性の変化を調べる。このことにより、人工細胞との違いや外壁構造の影響を明らかにする。必要に応じて、大きさや外殻構造が異なる緑藻類等の微生物も用いる。 (3)微生物懸濁液を連続的に処理可能な電気パルス処理装置を構築する(高電圧電源を購入予定)。確立済みの物質分析法を用いて、電気パルス印加に伴って微生物から外液に放出されるタンパク質などの物質の同定と定量を行う。また、放出物質について、パルス因子や温度などの環境因子への依存性を調べる。このことにより、細胞内成分抽出などの応用展開を検討する。 (4)細胞の集合体としての農作物への作用と効果を調べる。このために、大容量の電気パルス印加槽を製作する。まずはジャガイモを対象として、電気パルス印加後の誘電物性の測定、漏出物の成分分析、細胞レベルでの組織形態観察により、電気パルスの効果およびその因子への依存性を明らかにする。状況に応じて他の農作物についても調べる。
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