研究課題/領域番号 |
23K26144
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補助金の研究課題番号 |
23H01450 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分21050:電気電子材料工学関連
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
寺井 慶和 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (90360049)
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研究分担者 |
新海 聡子 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 准教授 (90374785)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,460千円 (直接経費: 14,200千円、間接経費: 4,260千円)
2025年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2024年度: 7,020千円 (直接経費: 5,400千円、間接経費: 1,620千円)
2023年度: 7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
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キーワード | シリサイド半導体 / シリコン光エレクトロニクス / バンド構造制御 |
研究開始時の研究の概要 |
シリコン(Si)にはない優れた光学機能を示す鉄シリサイド半導体(β-FeSi2)は、既存のSiデバイスとの融合により、Society 5.0社会の基盤となる情報通信、セキュリティー、自動運転モビリティ等への応用が期待される物質である。本研究では、Fe、Siの選択的同族元素置換によりβ-FeSi2のバンド構造と状態密度をダイナミックに変化させ、電子構造の精密制御と光学機能の向上を図ることを目的とする。本研究により、シリサイド半導体の課題が解決され、現存のシリコンテクノロジーへの新たな光機能追加や、Si系光機能デバイスの新展開が拓ける。
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研究実績の概要 |
シリコン(Si)にはない優れた光学機能を示す鉄シリサイド半導体(β-FeSi2)は、既存のSiデバイスとの融合により、Society 5.0社会の基盤となる情報通信、セキュリティー、自動運転モビリティ等で使用する光電変換素子材料として期待されている。これまで研究代表者は、世界最高値の移動度を示すβ-FeSi2薄膜の作製に成功し、電気伝導機構の解明、発光強度増強機構の解明、ひずみ評価技術の構築、バンド構造評価に関する研究業績を積み重ねてきた。その研究過程で、Fe-Siの二元系シリサイドでは光学機能の向上は困難と判断し、本研究ではFe、Siの選択的同族元素置換によりβ-FeSi2のバンド構造と状態密度をダイナミックに変化させ、電子構造の精密制御と光学機能の向上を図ることを目的としている。事前の第一原理計算の結果、β-FeSi2のFeまたはSiサイトを選択的に同族元素で置換した混晶系β-FeSi2膜でバンド構造制御が達成できる指針を得ている。 本年度は、研究代表者が有するβ-FeSi2の薄膜成長技術を駆使し、Feの同族元素であるRuを添加したβ-FeSi2薄膜の作製を試みた。その結果、FeサイトのRu選択置換を達成するとともに、約60%まで置換した高Ru濃度β-FeSi2薄膜の作製にはじめて成功した。そして、それらRu添加β-FeSi2の電気伝導特性を評価した結果、Ru濃度40%程度までは、β-FeSi2と同程度の高電子移動度を示すことを明らかにした。また、関連研究として、Ru-Si二元系物質であるRu2Si3も作製し、その光電変換素子の作製と分光感度特性も評価した。よって、おおむね研究計画通りの結果が得られたと判断でき、今後はバンド構造評価を実施していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、β-FeSi2におけるFeサイトの選択的同族元素置換を確かめるため、Ru添加β-FeSi2薄膜の作製を行った。その結果、x = 0.71までのβ-(Fe1-xRux)Si2多結晶薄膜の作製にはじめて成功した。そして、そのβ-(Fe1-xRux)Si2多結晶薄膜の電気伝導特性を評価した結果、x=0.4までの多結晶薄膜は、x=0のβ-FeSi2薄膜と同程度の低電子密度(10^16 cm^-3)かつ高移動度(290 cm2/Vs)を示すことを明らかにした。電気伝導特性の温度依存性においても、x=0のβ-FeSi2で観測されるバンド伝導から局在伝導への遷移が観測されたことから、x = 0-0.4のRu濃度領域ではRuは等電子的にFeサイトを置換していると判断された。一方、Ru-Si二元系シリサイドであるRu2Si3にも着目し、n型Ru2Si3/p型Siヘテロ構造からなる光電変換素子を作製し、Ru2Si3層が短波赤外(SWIR)領域の光吸収層として機能することを明らかにした。この研究成果から、β-FeSi2とRu2Si3の中間的性質を持つと期待され、β-(Fe1-xRux)Si2も光電変換素子として機能することを示唆するものである。さらに、14族半導体における「ひずみによるバンド構造制御」という新たな観点に着目し、β-FeSi2をひずみピン層として機能させ、ひずみGeを作製する研究にも着手した。その結果、Ge on Siの3倍近いひずみを得ることに成功し、Geの直接遷移化に向けた新たな指針が得られた。この成果は、Geとβ-(Fe1-xRux)Si2のヘテロ構造を用いたバンド構造制御の可能性を示すものである。以上の進捗状況から、おおむね研究は順調に進んでいると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
本年度作製に成功した高品質Ru添加β-(Fe1-xRux)Si2多結晶薄膜の研究を継続する。結晶構造評価とラマン分光測定により、FeサイトのRu選択置換のメカニズムを明らかにするとともに、Ru添加によるバンド構造変化を光変調反射率測定および光伝導測定により詳細に評価する。また、現在作製しているRu添加β-FeSi2は多結晶であるため、バンド構造評価する際に粒界の影響が懸念される。そのため、結晶配向性を向上するための薄膜作製技術を探索する予定である。このRu添加薄膜の研究と平行して、Ru以外の同族元素置換についても検証する。事前の第一原理計算の結果、β-FeSi2のFeサイトを選択的に同族元素のRu, Osで置換、またはSiの一部を炭素(C), スズ(Sn)で置換した混晶系β-FeSi2膜でバンド構造の直接遷移化が達成できる指針を得ている。よって、Os, C, Snを添加したβ-FeSi2薄膜の作製を試みる。作製した試料において、偏光ラマン測定、高分解能XRD測定、光変調反射率測定そしてフォトルミネッセンス測定を行い、元素変更に伴うバンド構造変調を評価し、β-FeSi2のバンド構造制御に適した同族元素を明らかにする予定である。
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