研究課題/領域番号 |
23K26370
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補助金の研究課題番号 |
23H01677 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26020:無機材料および物性関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山田 高広 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (10358260)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
19,110千円 (直接経費: 14,700千円、間接経費: 4,410千円)
2026年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2025年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2024年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2023年度: 11,180千円 (直接経費: 8,600千円、間接経費: 2,580千円)
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キーワード | 金属窒化物 / 低温合成 / 固体窒素源 / 単結晶 / メタセシス反応 / 単結晶粒 |
研究開始時の研究の概要 |
金属窒化物は窒素やアンモニアなどの気体を窒素源とした種々の高温プロセスにより単結晶や薄膜,粉末が合成されており,サイズや品質,成長結晶面の制御,コストや安全面などに関する課題が山積している.本課題では,固体窒素源を用いた新しい合成法を開発することで,これらの問題点を解決し,デバイス基板に用いるセンチメートルオーダーのバルク単結晶から焼結原料や触媒利用に適したマイクロからナノメートルオーダーの粒径や形態の制御された粉末試料を合成することに挑む.
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研究実績の概要 |
初年度は,硬質・強靭性材料である遷移金属窒化物(NbNとMo2N等)の金属窒化物の単結晶育成と形態を制御した粉末合成に挑戦した.具体的には,我々が開発した『金属酸化物と固体窒素源であるBNを金属Naとともに加熱する手法(合成法A)』と,本課題で開発を目指している『ナトリウム金属酸塩を原料に用いる新たな合成法(合成法B)』を用いて,前述の金属窒化物の合成を試みた.その結果,どちらの手法においてもNbNとMo2Nの単結晶粒や微粒子を合成することができた.また,合成法Bでは加熱時間や加熱温度を変化させることで,各金属窒化物の多形(ε-NbNとδ-ΝbN,およびα-Mo2Nとβ-Mo2N)を作り分けることに成功した. 試料中の生成相や組成分析結果より,両合成手法におけるNbNやMo2Nの生成反応式を明らかにし,その反応機構は,両合成手法ともにナトリムホウ酸塩の生成を伴った,ある種の金属酸化物とBNとのアニオンの交換反応であることが明らかになった.ただし,ナトリムホウ酸塩の組成や結晶性は合成手法により大きく異なることが分かった. 本手法(合成法B)で合成されたδ-ΝbN粉末は,超伝導性が既報どおりに17 Kで観測された.また,ε-NbNの単相試料は2.0 Kまで反磁性を示さなかった.ε-NbNは,超伝導性(転移温度11.6 K)の有無について実験と理論の両面から議論されている窒化物であり,純良な試料を用いた実験的検証が必要とされている.本研究の結果はε-NbNが超伝導性を示さないことを支持するものであった. 金属Naを必要としない合成手法である合成法Bは,これまで合成に成功していたTiNに加え,NbNとMo2Nの合成にも適用できたことから,より簡便で工業的応用性の高い合成プロセスと発展する可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は,我々が開発した『金属酸化物と固体窒素源であるBNを金属Naとともに加熱する手法(合成法A)』を用いてMo2N(α相およびβ相)を700-900℃で合成することができた.これらのことは,合成法Aが金属窒化物の単結晶や粉末の合成に高い汎用性を有しているだけでなく,低温合成法としても有用であることを示すものである.一方,同手法を用いてAlNやGaNの合成を試みたが,現時点でその合成には成功しておらず,引き続き,異なる条件下での合成を行なっていく必要がある. 本課題で開発を目指している『ナトリウム金属酸塩を原料に用いる新たな合成法(合成法B)』は,金属Naを必要としないため,より簡便な工業的応用性の高い合成プロセスとなり得るものと考えている.この手法でもNbNやMo2Nの結晶粒や微粉末を低温で合成できたことから,合成法Bも金属窒化物の単結晶や粉末の低温合成に高い汎用性を有していることが明らかになった.さらに,合成条件を精査することで,ε-NbNとδ-ΝbN,およびα-Mo2Nとβ-Mo2Nの各相(多形)の純良な試料を作り分けることにも成功した.合成法Bは,準安定な窒化物の合成に適していることが強く示唆され,今後,その要因を解明し,他の金属窒化物においても実証することが必要であると考えている.これらの研究成果の大半は,研究代表者と学生とともに秋から春にかけて複数の学会で発表することができた. 本合成手法の大きな特徴の一つは,合成温度が比較的低温にも関わらず,一部の金属窒化物が20-100μm程度の単結晶粒として生成することである.本年度は金属窒化物の単結晶育成に挑戦した,現時点で得られている窒化物の結晶サイズは100μmオーダーであり,機械的強度などの諸特性が評価できるミリメートルサイズにまで成長させることは実現できておらず,来年度以降の課題としたい.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,固体窒素源である BNと金属酸化物を金属Naとともに加熱することで金属窒化物を合成する手法を用いて,CrやWなどの窒化物の合成に取り組み,本手法で合成できる金属窒化物の実例を増やしながら,金属窒化物の結晶粒もしくは特徴的な形態を有した粒子が得られる原料や合成条件を精査する.生成した金属窒化物については,それらの反応機構を明らかにしながら,結晶粒の育成や粉末粒子の形態制御を試みる. また,本手法の利点の一つである低温合成法を活かし,単相や単結晶を得ることが困難な金属窒化物の低温安定相や準安定相の合成も試み,得られた結晶相については,結晶構造や物性,材料特性を明らかにする. 初年度で発展させることができたNaを含む金属酸化物とBNのみを原料に用いて金属窒化物を合成する新しい合成法を,産業応用に適した簡便な合成プロセスに発展させる.具体的には,この手法でも上記のCrやWなどの窒化物の合成に取り組みながら,この手法で得られる生成物やその反応機構を明らかにし,前述の金属Naを用いる合成手法と比較しすることで,その利点を明確にする. BN以外の固体窒素源の探索を行うだけでなく,本課題の合成手法の反応機構であるメタセシス反応を活用し,窒化物以外の非酸化物を合成することも試み,得られる生成物の結晶相や形態を調べる. 初年度に設備備品として導入・設置した粉末X線回折装置を引き続き活用しながら研究を進めていく.次年度は大気中で不安定な試料の測定が行えるよう,不活性ガス雰囲気で試料を簡便に密封し,バックグランドの原因となる散乱を軽減してXRDが測定できる試料セルを設計・導入する.これにより,試料中の大気不安定な結晶相を精度良く同定することを可能にし,本課題で開発する各種合成法の反応機構の解明の大きな一助とする.
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