研究課題/領域番号 |
23K26406
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補助金の研究課題番号 |
23H01713 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分26040:構造材料および機能材料関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
光原 昌寿 九州大学, 総合理工学研究院, 准教授 (10514218)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,720千円 (直接経費: 14,400千円、間接経費: 4,320千円)
2025年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2024年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 7,150千円 (直接経費: 5,500千円、間接経費: 1,650千円)
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キーワード | フェライト系耐熱鋼 / 金属間化合物 / クリープ / 高温強度 / 組織解析 |
研究開始時の研究の概要 |
発電プラントなどで実用されている高強度な高Crフェライト系耐熱鋼は、炭化物を多く含むマルテンサイト組織とすることが常識とされている。しかし、炭化物とマルテンサイト組織は高温で安定な組織とはいえず、それらによる析出強化と転位強化は変形中に徐々に失われていく。本研究では、このような高温で不安定な組織から脱却し、「フェライトを母相とし金属間化合物で強化された耐熱鋼の開発」を行う。そのために、Fe-W系金属間化合物で強化されたフェライト単相耐熱鋼の合金設計・組織デザインと強化理論の構築を行い、高温での延性向上のための結晶粒微細化手法の確立と粒界上析出物デザインの提案を行う。
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研究実績の概要 |
発電プラントなどで実用されている高強度な高Crフェライト系耐熱鋼は、炭化物を多く含むマルテンサイト組織とすることが常識とされている。しかし、炭化物とマルテンサイト組織は高温で安定な組織とはいえず、それらによる析出強化と転位強化は変形中に徐々に失われていく。本研究では、このような高温で不安定な組織から脱却し、「フェライトを母相とし金属間化合物で強化された耐熱鋼の開発」を行う。そのために、金属間化合物で強化されたフェライト単相耐熱鋼の合金設計・組織デザインと強化理論の構築を行い、超高強度フェライト系耐熱鋼の設計指針を明示する。 2023年度は、[1]開発鋼の基本構成元素についての検討を行った。耐酸化性向上のためのクロム、金属間化合物形成元素であるタングステン、磁気変態点の上昇によるクリープ強度向上効果を持つコバルトなどの添加元素に着目して合金を作製し、平衡状態の熱力学計算結果から導かれる適切な温度範囲での加工と熱処理を施した。その結果、微細で熱的に安定な金属間化合物相がフェライト母相に分散した合金作製に成功した。また、その合金の時効熱処理を実施し、クリープ変形中の強化相となり得る金属間化合物相の熱的安定性について調査した。 また、本研究では、[2]母相結晶粒径の制御についての検討も行う。フェライト単相であることを基本とする本鋼では、その製造条件によっては、数百μmほどの粗大な結晶粒となることが想定される。その場合、クリープ変形中に結晶粒界近傍で優先的な損傷の発生と連結が生じ、鋼の早期破断につながる恐れがある。それを防ぐ手段として、「結晶粒の微細化」と「析出相による結晶粒界の被覆」が挙げられる。2023年度は、特に、高温でオーステナイト化させることによる相変態を利用した結晶粒径の調整について検討を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画において、2023年度には研究項目[1]としてフェライト単相耐熱鋼の合金設計・組織デザインを確立させ、2024年度から実施する高温力学特性評価に繋げることとした。また、作製した各鋼種における強化相の析出状態を使用温度範囲で調査し、最適な析出状態を得ることのできる熱処理と合金元素の関係を系統的に調査することとした。 研究項目[2]として、クリープ変形中の延性向上を目的とした結晶粒径制御または結晶粒界近傍の組織制御を行うための研究課題を設定した。2023年度は、高融点析出物や相変態を利用した結晶粒径制御について検討を開始することを計画した。 [1]について、2023年度は、クロム、タングステン、コバルトの添加量などを調整した数種類の合金を作製し、熱処理を施した後に、微細組織を走査型電子顕微鏡と後方散乱電子回折法により評価した。母相の結晶粒径と強化相の定量測定を行い、本研究で目指すべき微細組織を達成しうる化学組成について絞り込みを行った。さらには、析出物の組織制御に関する基礎的知見の獲得のため、フェライト母相と金属間化合物相の結晶方位関係についても解析した。 [2]について、2023年度は、高温でオーステナイト化させることによる相変態を利用した結晶粒径の調整についての成果が得られた。 合金の焼きならし温度を調整することでオーステナイト体積率を変化させ、その後の相変態で生成するフェライトの結晶粒径を制御することを試みた。結果として、フェライトの結晶粒径を焼きならし温度により変化させることができるという結果を得たものの、焼きならし温度の低下に伴って強化相の析出と粗大化が生じることがわかった。その結果として、ターゲットとする温度範囲において強化能を失うことが懸念され、焼きならし温度の調整による組織制御法は、本研究の目的達成に対して、相応しい方法ではないとの結論に至った。
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今後の研究の推進方策 |
研究項目[1]について、2023年度の研究成果から、本研究課題の目標を達成するためのいくつかの合金組成は決定された。2024年度以降は、それら合金に対してクリープ試験を実施し、高温力学特性の評価を行う。また、試験後の試料の組織評価を実施して、クリープ変形の様式を明らかにするとともに、変形中の微細組織の変化を調査する。具体的には、結晶粒径、強化相分散状態、転位下部組織などの変化を詳細に解析する。それらの結果をもとに、作製した合金の高温強度と強化を理解し、さらなる強化に向けた組織デザインについて検討する。加えて、2024年度以降では、強化相の析出形態に対する予ひずみの効果を調査する。製造後の試験体に対して、5から10%程度の冷間圧延により予ひずみを付与した状態での時効析出実験を行い、強化相の析出状態変化を調査する。 研究項目[2]について、2023年度の成果として、結晶粒径制御に対する相変態の利用は不適であることがわかった。2024年度以降では、高融点析出物や動的再結晶、研究項目[3]で検討する種々の添加元素の調整により、結晶粒径の制御または結晶粒界近傍の組織デザインが可能であるか、引き続き調査を継続する。 研究項目[3]として、2024年度以降では、より高温で、微細かつ安定に強化相として利用するため、金属間化合物内の原子サイトを置換しうる合金元素の少量添加を検討する。例えば、Ti, Nb, Taを約1%加えた鋼種を作製し、研究項目[1]と同様の時効析出実験とクリープ試験を実施する。 以上の研究遂行内容は、本研究開始時の実施計画におおむね沿ったものであり、本研究の進捗状況は極めて順調である。
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