研究課題/領域番号 |
23K26479
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補助金の研究課題番号 |
23H01786 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分28010:ナノ構造化学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
上松 太郎 大阪大学, 大学院工学研究科, 准教授 (20598619)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
19,110千円 (直接経費: 14,700千円、間接経費: 4,410千円)
2025年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 10,790千円 (直接経費: 8,300千円、間接経費: 2,490千円)
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キーワード | 量子ドット / カドミウムフリー / 電界発光素子 / 硫化銀インジウム / 多元系 / バンド端発光 / 硫化銀インジウムガリウム / 電界発光 |
研究開始時の研究の概要 |
研究実施者は、カドミウムを使用しない新たなタイプの多成分系量子ドットの高性能化を達成し、材料の実用化に向けた努力を続けている。本研究課題では、種となるナノ粒子に、原子を順番に添加する新しいコンセプトによる多成分ナノ粒子合成に挑戦し、高い光学特性と産業レベルのスケーラブル反応の両立を目指す。さらに、青から赤までの可視光全域にわたる発光を実現し、その成果を基に、高性能エレクトロルミネッセンスデバイスの開発を行う。
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研究実績の概要 |
半導体ナノ粒子(量子ドット)は、ここ数年のディスプレイの波長変換部への搭載により、身近な存在となった。さらに、2023年のノーベル化学賞は量子ドットの黎明期の開発に対して授与された。しかし、カドミウム(Cd)化合物として開発された量子ドットを、そのままの形で広く民生用途に使用することは困難であり、代替材料の開発が進められている。
硫化銀インジウム (AgInS2) 量子ドットは、3種類以上の元素で構成され、「多成分系」と総称されるCdフリー材料の1つである。元々発光スペクトル幅が広く、単色性の面で劣る材料であったが、AgInS2の上に硫化ガリウム (GaSy) シェルを被覆することで、バンド間遷移による発光スペクトル狭小化に成功した。本研究は、この成果をもとに、発光の多色化や合成方法の改善によって、AgInS2/GaSyコア/シェル構造を基本とする量子ドットを、実用的な発光材料へと発展させることを目指して実施している。
AgInS2は、AgとInという反応の異なる2種類の金属元素を含む硫化物であるため、化学合成の過程において、Ag2SやIn2S3などの目的外ナノ粒子が多く生成していた。目的物の選択的g合成を目指し、AgInS2を一度に得るのではなく、一度発生させたAg2S微粒子を転換し、AgInS2を得るという全く新しい方法を考案した。この合成戦略は期待通りに進行し、AgInS2や、AgInS2とAgGaS2の固溶体(AIGS)ナノ粒子、Cuを含む5成分組成のCAIGSナノ粒子が、希望の組成比で選択的に得られるようになった。得られたナノ粒子にGaSyシェルを形成することで、青色から赤色の範囲で単色性に優れた発光を得られるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の開始直前に、Ag2Sを種結晶とした結晶転換による多成分量子ドット合成の基本コンセプトが実現した。しかし、この反応のメカニズムや結晶転換反応の適用範囲は、未だ明らかではなかった。反応中間体であるAg2Sの生成過程に着目し、AgInS2やAIGSへの転換が起こらない温度範囲を特定した。この温度域で十分な時間反応させると、生成収率は最大で80%にまで向上した。この高い生成収率は、将来の実用化および量産時に余裕を持って対応できることを示しており、多元素からなるナノ材料の合成面での課題を克服しうるものである。
また、In-Ga比の調整により、黄色から緑色にバンド端発光する量子ドットが得られていたが、Ga比を高めることで青色発光に成功した。さらに、銅を導入することで赤色発光を実現し、これはCuの自己トラップ励起子状態を介した伝導帯-アクセプター間遷移によるものである。赤色発光は発光スペクトル幅が広いが、国際照明委員会(CIE)の色基準を満たす鮮やかな赤色を実現している。
得られた量子ドットを量子ドットLED素子に導入し、光励起だけでなく電界発光も得た。しかし、耐久性の面では従来のカドミウム系量子ドットに劣る点が明らかになった。その原因は、表面配位子やGaSyシェルの保護層にある。これを解決するため、ナノ粒子をGaSy材料に埋め込む実験を行い、初期の結果で発光輝度の大幅な向上が得られた。今後は、発光効率をさらに向上させるために埋め込み反応や界面欠陥の抑制を試みる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、硫化銀インジウムガリウム(AIGS)量子ドットの発光効率と耐久性向上を目指す。特に、硫化ガリウム(GaSy)シェル被覆の化学反応のメカニズム解明を中心に、コア/シェル界面の質を向上させることが目標である。
現状、AIGS量子ドットの発光量子収率は緑色領域で60%に留まり、青色領域ではさらに低下する。これはGaSyシェル形成メカニズムが十分に理解されていないためであり、コア/シェル界面における非発光性欠陥が残っているためではないかと推測している。昨年度、シェル形成中に銀が脱離していることに気が付いた。銀の含有量が少ない場合に発光効率が向上することから、良好な界面形成と何らかの関係があると考えており、そのメカニズムを詳細に解析する。
高効率な量子ドットLEDや、実用的な波長変換材料としての耐久性向上に注力して研究を実施する。これにより、照明やディスプレイ技術の進展が期待される。GaSyシェル上へのオーバーコーティングや、別の元素の硫化物を用いた新しいアプローチを探求し、コア/マルチシェル構造やコア/シェル/マトリクス構造を実現することにより、耐久性の向上や量子ドットLED素子内での電子伝導性を向上させる。
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