研究課題/領域番号 |
23K26501
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補助金の研究課題番号 |
23H01808 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分28030:ナノ材料科学関連
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
梅山 有和 兵庫県立大学, 工学研究科, 教授 (30378806)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
19,240千円 (直接経費: 14,800千円、間接経費: 4,440千円)
2025年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2024年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2023年度: 12,220千円 (直接経費: 9,400千円、間接経費: 2,820千円)
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キーワード | 二硫化モリブデン / ボールミル / ピレン / ポルフィリン / アントラセン / 電荷移動励起状態 / エクシプレックス発光 / 化学修飾 / 過渡吸収 / 固相反応 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、大スケールでの半導体原子層材料の共有結合修飾を可能とする手法として、ボールミルによる固相反応を用いる。それにより、半導体原子層材料表面にピレンやアントラセン、ポルフィリンなどの光機能性分子を共有結合連結した、光機能化半導体原子層材料を創出する。それらの構造と光ダイナミクスの相関を明らかにし、光誘起電子移動およびエネルギー移動過程を支配する化学的学理の基盤を構築する。その知見を基に、水分解水素発生反応光触媒や有機系太陽電池などの光エネルギー変換系の高効率化を達成する。
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研究実績の概要 |
本研究では、MoS2、フォスフォレンやアンチモネンなどの半導体原子層状材料と、光機能性有機分子との固相反応による大スケールでの共有結合連結複合化を行い、構造の明確な種々の光機能化半導体原子層材料を創出する。その中で、光・電子機能に焦点をあて、光エネルギー変換応用においてそのシナジー効果をいかに最大化することができるか、という学術的な問いを解明することを目的としている。つまり、光機能化半導体原子層材料の構造と光ダイナミクスの相関を明らかにすることで、光誘起電子移動およびエネルギー移動過程を支配する化学的学理の基盤を構築することを目指している。 我々はこれまでに、ボールミルを用いた固相反応により、マレイミド誘導体をMoS2ナノシートに共有結合修飾することに既に成功した。さらに、ブロモベンジルマレイミドを修飾したMoS2ナノシート(Br-Bn-MoS2)とピレンボロン酸エステルとのカップリング反応により、ピレン修飾MoS2ナノシート(Py-Bn-MoS2)の合成に成功した。本年度は、Py-Bn-MoS2の詳細な構造同定や、光ダイナミクスの解明を行った。Py-Bn-MoS2の発光スペクトルは、高極性溶媒中で長波長シフトするソルバトクロミズムを示し、電荷移動励起状態からの発光であることが示唆された。これは、有機化合物とMoS2を始めとした二次元ナノシートとの間でCT発光が観察された初めての例である。また発光寿命および過渡吸収スペクトル測定から、電荷移動励起状態の寿命は2.7ns程度であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DMF中での発光スペクトルでは、Py-Bn-MoS2はピレン参照化合物(1-フェニルピレン、Py-Ph)よりも長波長側にブロードな発光を示し、その寿命は2.7 nsであった。またこの発光は、高極性溶媒中で長波長シフトする傾向を示した。これらの結果は、Py-Bn-MoS2の発光がMoS2とピレンの間で形成された電荷移動(CT)励起状態に由来することを示している。これは、有機化合物とMoS2を始めとした二次元ナノシートとの間でCT発光が観察された初めての例である。さらに、そのCT発光の量子収率は、トルエン溶液中で68%と極めて高いことがわかった。 またDMF中にて、主にピレン部位を励起(345 nm)したPy-Bn-MoS2の過渡吸収スペクトルを測定したところ、870 nmあたりに極大を有するブロードな吸収が観測された。同様な吸収は、Br-Bn-MoS2やPy-Phの過渡吸収スペクトルでは観測されないため、Py-Bn-MoS2においてピレン励起状態とMoS2の相互作用により形成された過渡種に由来することが示唆された。また、その過渡種の寿命は2.8 nsと見積もられた。これは、Py-Bn-MoS2の発光寿命とよく一致することから、その過渡種はMoS2とピレンの間で形成されたCT励起状態に帰属できる。またCT励起状態の生成速度から、CT励起状態が効率よく形成していることがわかった。 これらの成果は研究実施計画にしたがって得られたものであり、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ピレン以外の光機能性分子とMoS2ナノシートの連結を行う。たとえば、ピレンと同じ多環式芳香族炭化水素であるアントラセンを、位置選択的にMoS2に連結する。連結位置が変化することで、アントラセンとMoS2の距離や角度が変化し、光物性に影響を及ぼす可能性がある。また、ピレンよりも電子供与性と光補修能が高いポルフィリンを共有結合連結したMoS2の創出を行う。さらに、MoS2ナノシート以外の半導体原子層材料として、WS2ナノシートなどを用いる。 次に、それら光機能化半導体原子層材料の構造及び基礎的な光学的・電気化学的性質を調べる。さらに、光励起による電子移動やエネルギー移動の効率を調べるため、過渡吸収スペクトルや、蛍光寿命の測定を行う。光触媒や光電変換素子材料として用いるには、光機能性分子から半導体原子層材料への効率の良い電子移動と、生成した電荷分離状態の長寿命化が重要となる。光機能性分子の構造や、半導体原子層材料との間の架橋構造として、どの構造を用いた場合により高効率かつ長寿命な電荷分離状態の形成が可能になるか、光機能化半導体原子層材料の構造と光ダイナミクスの相関を解明する。
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