研究課題/領域番号 |
23K26524
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補助金の研究課題番号 |
23H01831 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29010:応用物性関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡本 佳比古 東京大学, 物性研究所, 教授 (90435636)
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研究分担者 |
矢島 健 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (10597800)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,850千円 (直接経費: 14,500千円、間接経費: 4,350千円)
2025年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2024年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 11,180千円 (直接経費: 8,600千円、間接経費: 2,580千円)
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キーワード | 磁場誘起歪 / 磁歪 / 反強磁性体 / クロム化合物 / 体積機能 / 磁場中体積変化 / Cr化合物磁性体 |
研究開始時の研究の概要 |
反強磁性体に着目した新材料探索により、巨大な磁場誘起歪を示す新材料を開発する。磁場中で物体の形状や大きさが変化する現象は磁歪(磁場誘起歪)と呼ばれる。その開拓には長い歴史があるが、一方、現状では反強磁性体における磁場誘起歪現象はほとんど未開拓といえる。室温付近で磁気秩序を示すクロム化合物反強磁性体や強いスピン軌道結合が働く幾何学的フラストレート磁性体に着目し網羅的な材料探索を行うことで、巨大な磁場誘起歪を示す新材料の開拓に挑む。これにより、磁歪材料=強磁性体という常識を覆し材料探索の幅を広げ、磁歪のより広範な実用に繋がる次世代の実用材料候補を提示することを目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では、Cr化合物を中心とする反強磁性体に着目することで、これまでにない巨大な磁場誘起歪を示す反強磁性体の新材料を開拓することを目標とする。2023年度に、Cr2Te3、Cr3Te4、Cr5Te6といったCr-Teの二元系物質と、これらの物質のCrサイトをVやTiなどの遷移金属元素に置換した物質の焼結体試料を合成し、歪ゲージ法を用いて磁場中歪測定を行った。系統的に化学組成を変化させた焼結体試料を合成し、磁場中歪測定および磁気特性測定を行うことで、Cr-Te二元系物質の磁場誘起歪性能の最適化を目指した。その結果、無置換のCr3Te4が室温付近において最も大きな磁場中体積変化を示すことを明らかにした。その体積変化の大きさは、9 Tの磁場を印加したときに1000 ppmを超える。また、低温粉末X線回折実験により、この巨大な磁場中体積変化が、磁気秩序に伴う異方的な格子変形と材料組織効果の組み合わせという新しい発現機構によって生じている可能性が高いことを見出した。これは、新材料探索にとって有力な指針となりうる成果である。 Cr化合物磁性体以外では、ランタノイド元素Lnの4f電子が磁性を担う反強磁性体の新しい舞台として、三元テルル化物NaLnTe2に着目した。これまで、いずれのランタノイド元素においても物性実験を可能なNaLnTe2の試料は合成されておらず、磁気的性質は未解明だった。本研究では、Ln = Pr, Nb, TbにおいてNaLnTe2焼結体試料の合成に初めて成功し、その磁気的性質を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の研究計画として、I. 巨大な磁場誘起歪を示す反強磁性体の新材料開拓、II. 巨大磁場誘起歪の発現機構の解明、III. 磁場誘起歪性能の検証、の3つの方針を掲げた。このうち、IおよびIIについては、2023年度において進捗があった。Iに関しては、Cr3Te4およびCr2Te3の焼結体試料が、室温を含む広い温度範囲で巨大な磁場誘起体積変化を示すことを明らかにした。先行研究において見出されてきたZnCr2Se4、LiInCr4S8、AgCrS2に続く、巨大な磁場誘起歪を示すCr化合物磁性体である。Cr3Te4は、これらの3つの物質と異なり、室温付近を含む幅広い温度領域において大きな体積変化を示すという特徴をもつ。磁歪アクチュエータなどの応用の観点から、より有望な新材料候補といえる。IIに関して、これらのCrテルル化物焼結体における巨大な磁場誘起体積変化が、これまでにない新しい機構に基づいていることが示唆された点を挙げる。Cr3Te4とCr2Te3は強磁性体であるが、巨大な磁場誘起体積変化は、強磁性相における磁区の整列により生じていない。また、インバー合金のように磁気体積効果によるものでもない。これらのCrテルル化物における巨大な磁場誘起体積変化は、磁気秩序に伴う異方的な格子変形と材料組織効果が組み合わさった新しい機構により生じたことを、低温粉末X線回折実験を通して明らかにした。今後の新材料探索の指針となりうる成果と考える。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画I. 巨大な磁場誘起歪を示す反強磁性体の新材料開拓については、さらなる高い磁場誘起歪性能を示す新材料の候補として、Cr-Sb二元系物質やCu-Cr-Te三元系物質に着目する。例えばCr-Sb二元系物質には、室温を超える高温領域で磁気秩序を示す磁性体があり、強い磁気-格子結合をもつ磁気秩序相転移に起因する巨大な磁場誘起体積変化の舞台となる可能性が高い。また、2023年度に磁気的性質が解明されたNaLnTe2についても磁場誘起歪測定を行い、磁場中体積変化性能を検証する。 研究計画II. 巨大磁場誘起歪の発現機構の解明については、2023年度に引き続き、Cr-Te二元系物質における巨大な磁場誘起体積変化の発現機構の解明を目指す。これまで、本物質系では磁場中の回折実験を行われておらず、材料組織効果が関与した新しい機構による磁場誘起体積変化に関する直接的な証拠は得られていない。例えば、磁場中の粉末回折実験を行うことにより、本物質系に現れる巨大な磁場中体積変化の発現機構により直接的に迫ることができる。 研究計画III. 磁場誘起歪性能の検証については、Cr-Te二元系物質を用いた複合試料による性能検証を中心に行う。複合試料においても高い性能が維持されるかどうかは、磁場誘起歪機能の応用の観点から重要である。一方で、Cr-Te二元系物質における巨大な磁場誘起体積変化は材料組織効果によって生じているため、粉末化して複合試料とした場合にどの程度の性能が維持されるかは実験的に検証される必要がある。Cr3Te4やCr2Te3の粉末試料を合成し、これをエポキシ樹脂や各種の金属と複合した材料を用いて、磁場誘起体積変化性能を検証する。
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