研究課題/領域番号 |
23K26538
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補助金の研究課題番号 |
23H01845 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29020:薄膜および表面界面物性関連
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
畠山 温 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70345073)
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研究分担者 |
石川 潔 兵庫県立大学, 理学研究科, 准教授 (00212837)
内藤 智也 国立研究開発法人理化学研究所, 数理創造プログラム, 基礎科学特別研究員 (40962915)
浅川 寛太 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50817046)
臼井 博明 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任教授 (60176667)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
19,370千円 (直接経費: 14,900千円、間接経費: 4,470千円)
2025年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2024年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2023年度: 14,690千円 (直接経費: 11,300千円、間接経費: 3,390千円)
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キーワード | スピン / スピン緩和防止膜 / 有機薄膜 / 原子表面相互作用 |
研究開始時の研究の概要 |
アルカリ金属原子は光ポンピングにより高スピン偏極できるため,原子時計や原子磁力計などスピンが関連する量子技術で重要な役割を果たす.そのスピン偏極を,原子気体が入っている容器の壁に衝突した時の緩和から守るのが,パラフィンなどのスピン緩和防止膜である.ただその膜の機能には不明な点が多く,特にスピン緩和に決定的に効く原子の表面滞在時間は不明確である.最近の研究で,膜に入射した原子のうちごく一部は滞在時間が極端に長いことが示唆され,このわずかな原子が防止機能を決めている可能性が出てきた.本研究では長滞在時間の原子は膜内部に入り込んでいるとの仮説を立て,その原子状態の理解を実験,理論の両面から目指す.
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研究実績の概要 |
本研究の学術的問いである「気体アルカリ金属原子のスピン緩和を防止するパラフィンなどのコーティングの機能において,アルカリ金属原子の膜内部への侵入が重要な役割を果たしているのではないか」に答えるため,研究目的を具体的に次の3つに項目分けしている.[目的1]アルカリ金属原子のダイナミクスパラメータ(侵入確率,拡散係数)を決定する.[目的2]パラフィン中のアルカリ金属原子の電子・スピン状態を理解する.[目的3]パラフィン中でアルカリ金属原子の電子・スピン状態の制御可能性を調べる.この目的を達成するために,以下の3つの実験テーマと1つの理論テーマを立てて研究に取り組み,次の成果を得た. 【実験A:極薄膜原子ビーム照射実験】(主に目的1に対応):成膜条件を精査し10nm程度の膜厚パラフィン膜を作製した.原子ビーム散乱実験を行い,基板に堆積する原子が XPSで検出できないほと侵入確率が小さいという予備結果を得た.散乱した原子も測定し,速度分布やスピン状態の解析を進め,散乱過程の理解を進めた. 【実験B:NMR計測実験】(主に目的23に対応):パラフィン中にセシウム原子を分散した試料を作製し,パラフィン中にあると思われるセシウムイオン由来のNMR信号の取得に成功した.また,中性アルカリ金属原子と周囲の原子との相互作用に関する基盤データの取得も行った. 【実験C:パラフィントラップ実験】(主に目的23に対応):目的を達成するための独自のイオントラップ装置を作製し,パラフィンや他の微粒子のトラップに成功した.トラップした微粒子の観察や運動制御のための装置開発を進めた. 【理論:第一原理計算】(主に目的2に対応) :基盤となる原子系に対する第一原理計算の進展を図りつつ,パラフィン中のアルカリ金属原子のエネルギーポテンシャルや電子状態を理解するための計算手法の検討や予備的な計算を進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおよそ4つに区分される研究課題のいずれにおいても,年度当初の到達目標を概ね達成できている.現在のところ研究計画の大きな変更は必要なく,1年目のペースで2年目以降も研究を進めて行けばよい.
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今後の研究の推進方策 |
実験Aでは1年目から取り組んでいる侵入確率や拡散係数などの情報を得る.それをもとに膜中への浸透の状況を見極め,実験条件を設定した上で他の実験を進める.実験Bでは試料作製条件のさらなる精査と作製技術の改善を行った上で,遊離したCs+,有機分子の水素などと置換したCs,またはCsH,CsOHなど,有機分子との反応生成物を区別しながらNMR計測を行い,パラフィン内部での原子状態の統一的な理解を得る.特に温度による膜の状態(有機分子固体,液体とその中間相)と信号の関係に注目する.中性のセシウム原子に対しては超微細構造のマイクロ波分光を試みる.実験Cでは,イオントラップされたパラフィンに取り込まれると期待されるアルカリ金属原子の光学計測あるいはマイクロ波計測に挑戦する.特に光学的な検出ができれば,低磁場下での光ポンピング実験や磁気共鳴実験が可能になり,光操作への道も開ける.実験B,Cにより膜中でのスピン緩和時間も調べることにより,膜のスピン緩和防止機能向上ができるかも検証する.理論は1年目で検証を進めた手法に基づき, パラフィン中のアルカリ金属原子の状態についての第一原理計算をスーパーコンピュータ等の大型計算機を用いて実行して,実験結果の予言と解釈をする.
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