研究課題/領域番号 |
23K26540
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補助金の研究課題番号 |
23H01847 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29020:薄膜および表面界面物性関連
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
大野 真也 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (00377095)
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研究分担者 |
宮内 良広 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群), 応用科学群, 准教授 (70467124)
吉越 章隆 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究主幹 (00283490)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
19,240千円 (直接経費: 14,800千円、間接経費: 4,440千円)
2025年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2024年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 11,700千円 (直接経費: 9,000千円、間接経費: 2,700千円)
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キーワード | ナノ光学計測 / 層状半導体 / 有機分子 / X線分光計測 / 第一原理計算 |
研究開始時の研究の概要 |
層状半導体ナノスケール構造の局所光学応答を捉える光学測定系の構築と改良を開始した。高精度での試料作製に必要な超高真空システムを合わせて整備中である。測定対象として、CVDグラフェン、TMDフレーク試料などを選択し基礎物性測定を進める。光学計測上の困難は、ドメイン境界やエッジ構造など局所構造からの信号を高精度で検出することである。このため、試料の精密な位置決めと高分解能化を確立させる。更に、放射光光源を用いたX線分光計測(光電子分光、X線吸収)、プローブ顕微鏡(STM,AFM)、汎用光学顕微手法(Raman,PL)を活用する。また、第一原理計算/量子化学計算を活用し光学スペクトルを解釈する。
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研究実績の概要 |
層状半導体の物性研究において、エッジ構造、ドメイン境界、ヘテロ接合、スタッキング角などの諸要素(本申請では、構造的対称性の破れと総称する)が超伝導など多彩な物性を生み出すことから注目されている。本研究では、CVDグラフェンに着目して研究を進めている。CVDグラフェンは、多結晶ドメインを有しドメイン境界には5員環、7員環が存在する。先行研究より、ドメイン境界位置の可視化が困難であることが指摘されている。本研究では、フタロシアニン分子およびオリゴチオフェン分子の吸着ナノスケール構造を利用したドメイン境界、点欠陥等の基板の非一様性の解析を進めた。申請時点で予備的結果を得ていたが、原子間力顕微鏡(AFM)他、複数の顕微手法を駆使しその知見をさらに精密化することができた。本課題を進める上で、構造的対称性の破れ位置の特定が前提として重要であることを強調しておく。次に、光学計測手法について位置決め精度を高精度化し本課題に即した改良を計画通り進めた。一つの成果は、2種類の遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)の単層フレーク試料を貼り合わせたヘテロ構造を作製しそれらの接合角を精密に定量化し、それに特有の光学スペクトルについて端緒となる実験データを得たことである。これらの主要な研究の進展を補足して以下3点の研究を進めた。(1)有機分子を利用した上記ドメイン境界可視化の背景となるグラフェン-有機分子間の相互作用を明らかにするため、放射光X線光電子分光(SR-XPS)を用いた精密な界面電子状態の解析を進めた。(2)同系の局所的な相互作用を明らかにするため、低温走査トンネル顕微鏡(LT-STM)を用いた走査トンネル分光(STS)研究を開始した。(3)グラフェン-有機分子間の相互作用について第一原理計算/量子化学計算を合わせて進めた。これら、当初計画に沿った実験および理論解析をさらに推進する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題では、層状半導体ナノスケール構造が示す特異な光学特性を解明することを主眼としている。当初計画通り光学計測手法の高精度化を実現し、層状半導体の構造的対称性破れ(エッジ構造、ドメイン境界、ヘテロ接合、スタッキング角など)をターゲットとする研究を開始した。また層状半導体として、CVDグラフェン(以下、CVD-Gr)および4種類の遷移金属ダイカルコゲナイド(以下、TMD)について同時に研究を推進できる態勢を整備した。特に、異なるTMDのヘテロ構造を作製しそのスタッキング角を精密評価した。これにより、モアレ構造の光学応答を解明する端緒が得られた。また、CVD-Gr上に形成される有機分子の特異なナノスケール構造と発光特性の相関について新たな知見を得た。これらの研究の進展に伴い、ナノスケール構造の原子レベルでの構造と電子状態との対応を予め明確にすることが光学応答解明の基盤として重要であることをあらためて認識した。そこで、低温(液体窒素温度)での走査トンネル分光による測定環境を整備した。現状はCVD-Gr基板の予備測定段階であるが、層状半導体-有機分子間の相互作用を解明し、ドーピング効果等による層状半導体の光学応答の変調を捉えることを目標としている。また、紫外光電子分光の測定環境を新たに整備し、有機分子の配向を含めた相関を解明し得る態勢とするための装置整備を進めている。更に、層状半導体の伝導に着目したFETの作製とその特性評価を開始した。ナノスケール構造の光学応答の解明を目指し、構造、電子状態、励起過程(光学応答)の相互関係の理解を深化させるべく実験環境を総合的に整備することが要請されており、そのための装置整備を着実に進めている。一方、測定試料毎に構造とそれが示す物性に一定のばらつきが見られる。よって、ナノスケール構造物性の解明に向けてより多くの定量的な解析が望まれる。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度に、以下の諸点に着目し本課題を継続推進する予定である。 (1)CVDグラフェンと有機分子との相互作用をAFM/STM,XPSその他の表面分析手法を継続して利用し明らかにする。現状では、ドメイン境界や点欠陥への個別の分子の選択的吸着の状況は十分に把握できておらず、多数の分子が構成する集団的クラスター構造が下地基板の構造的非一様性を反映して特異なナノスケール構造を現出させるという知見が明らかにされている段階である。よって、よりミクロな構造把握を進めることが必要である。次に、価電子状態に着目した研究が必須である。ひとつは、グラフェン基板のバンド分散の把握である。この点について、光電子運動量顕微鏡(PMM)による予備的知見を得ているが、更に有機分子との相互作用を含めた解析を進める予定である。また、紫外光電子分光(UPS)測定装置の整備を進めている。UPS測定により、グラフェン-有機分子間の相互作用について、例えば有機分子配向と電荷移動との相関などをより精密に定量化できる可能性がある。 (2)研究対象として、層状半導体のフレーク試料の研究を合わせて推進する。現状において、フレーク試料の接合角(スタッキング角)を系統的に変化させ、その特異な物性(モアレ構造物性)を探索する研究が世界的に急速に進展している。本研究では、独自の顕微光学手法を適用させることで先進的な研究展開を模索する。現状において、以下に述べるように試料作製面の効率化を課題としている。まず、フレーク試料への有機分子によるドーピングを模索しているが、多数の分子候補から有力な組み合わせを見出す必要がある。次に、ヘテロ構造の作製に成功しているがスタッキング角を系統的に変化させた試料作製をより効率的に進める必要がある。
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