研究課題/領域番号 |
23K26546
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補助金の研究課題番号 |
23H01853 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29020:薄膜および表面界面物性関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
高山 あかり 早稲田大学, 理工学術院, 准教授 (70722338)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,850千円 (直接経費: 14,500千円、間接経費: 4,350千円)
2025年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
2024年度: 5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
2023年度: 7,930千円 (直接経費: 6,100千円、間接経費: 1,830千円)
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キーワード | ヘテロ積層界面 / ヘテロ接合界面 / トポロジカル半金属 / スピン / 自在積層 / 原子層薄膜 / スピン軌道相互作用 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,Rashba・トポロジカル型スピン偏極電子状態をもつV族半金属Sb, Biを用いた“テーラーメイドな積層構造材料”を新たに作成・体系化し,これらの構造解析と物性測定手法を確立するとともに,その構造決定と電子状態の解明を行うことを目的とする.電子回折やSTMによる試料作製・評価,種々の光電子分光による電子状態測定とバンド計算,陽電子回折とX線CTR散乱を組み合わせた構造解析から,2次元面内では結晶周期をもつが3次元方向において長周期あるいは非周期の構造をとるような薄膜積層構造から得られた新たな知見をもとに,新規積層材料から創発され新奇量子現象の学理構築を目指す.
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研究実績の概要 |
本研究では,Rashba・トポロジカル型スピン偏極電子状態をもつV族半金属Sb, Biを用いた“テーラーメイドな積層構造材料”を新たに作成・体系化し,これらの構造解析と物性測定手法を確立するとともに,その構造決定と電子状態の解明を行うことを目的として研究を行った.本年度は,全反射高エネルギー陽電子回折(TRHEPD)を用いて,Bi(111)薄膜および,Bi薄膜上のSb超薄膜の構造解析を行った.構造解析の結果,Bi薄膜の面内格子定数は4.38Åの構造モデルが実験値を最もよく再現した.また,面内格子定数を変化させた構造モデルとの比較を行った結果,バルクBiの格子定数(4.54Å)では実験結果が再現されないことがわかった.この結果は,Biがトポロジー的に非自明であることを示唆している.次に,Bi(111)上のSb超薄膜の構造解析を行った.電子回折により,格子定数の異なるBi上にSb薄膜が成長することを確認した.構造解析の結果,Bi上のSb薄膜の面内格子定数は4.08Åと見積もられた.この値は電子回折から見積もられた値と一致した.このことから,Sb薄膜はBiとは異なる格子定数をもちながらもエピタキシャル成長することを示している. 本年度はBi/Sb/Biのサンドイッチ構造の作製も行い,その表面電子状態の観測および界面での成長過程の様子の観察も行った.結論として,このサンドイッチ構造は作製可能であること,さらにSb上でもBi薄膜はエピタキシャルに高品質で成長することを低速電子回折および走査トンネル電子顕微鏡測定により明らかにした.また,ARPES実験においても,Sb薄膜上のBi薄膜の表面電子状態が,元来のBi薄膜の表面電子状態と相違ないことを確認した.Bi上のSb薄膜,Sb上のBi薄膜の両方の作製が可能であったことから,ミルフィール構造も十分に作製可能であることが示すことができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究目標として設定したBiおよびSb薄膜のトポロジカル相転移の実証および歪みによる相転移の詳細決定を達成した.作製した試料の品質は,電子回折(LEED, RHEED),走査トンネル電子顕微鏡(STM)による表面観察の結果から評価した.全反射陽電子回折(THRPED)の構造解析では,電子回折およびSTMの結果も踏まえた上で決定した.また,計画を少し前倒ししてSb薄膜およびBi薄膜を3次元方向に任意の厚さでミルフィーユのように積層させたテーラーメイドの積層構造を作製に着手した.本研究の結果から,Bi/Sb/Biサンドイッチ構造の作製が可能であることに加え,Bi超薄膜の作製方法についても新たな知見を得た.Bi薄膜は,成膜に一般的に用いられる半導体基板上では通常6ML以上でしか成長せず,特に超薄膜領域では薄膜の均一性に問題があったが,本研究の結果からはSb薄膜上ではBi超薄膜が一様に成長していたことから,構造自由度が高いヘテロ積層構造の作製も期待できる結果となった.以上,研究自体は順調に進んでおり,これらの結果は日本物理学会で発表し,学部学生の卒業研究としてまとめることができた.また,本年度の研究結果により,バンド計算のための構造モデルの提案はできたが,決定した構造モデルでは界面で格子不整合をもつ構造であることから,バンド計算では巨大格子系を考慮する必要が示された.バンド計算のための構造設定を連携研究者と行った.また,2年目に予定している断面TEM観察による構造緩和の様子やその境界の実空間観察を行うための試料加工方法について,所属大学の附属機関の技術者と意見交換を行い,試料加工の詳細を検討した.
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今後の研究の推進方策 |
2年目はより複雑なミルフィーユ構造の作製とその表面構造観察および電子状態の測定を行う。最初は単純な積層構造を繰り返し構造から研究を行い,徐々に長周期構造,非周期構造へと拡張し,安定して存在する新規積層構造の開発と体系化を目指す.界面電子状態については、1年目と同様に放射光を用いたARPESおよびスピン分解ARPESにより決定する。また,断面TEM観察による構造緩和の様子やその境界の実空間観察を行う.作製した試料の界面の状態は電子回折およびSTMによる観察を行い、原子スケールで安定した界面構造となるヘテロ接合面の作製を目指す。また、2年目ではバンド計算について着手する。格子緩和を含む構造では複雑かつ高精度,あるいは新手法を用いた計算が必要であることから、連携研究者と議論して適切な構造モデルを設定する。積層構造では、層が厚くなり、TRHPEDだけでは埋もれた界面の構造情報は得ることができなくなるため,X線CTR散乱法を用いた構造解析を行う.この構造解析は主に3年目に計画しているが、その準備のための打ち合わせや測定装置の改良に2年目に行う。これらの研究遂行のため、引き続き各放射光施設やスーパーコンピュータの利用申請を行う。また、Bi超薄膜の作製の可能性が示されたことから、Bi超薄膜のトポロジカル物性についても研究を行う。作製が難しいとされていた6BL以下の厚さのBi超薄膜の電子状態については未だ明らかになっていない点が多くあるため、本研究ではその詳細について解明する。Bi超薄膜の作製と物性解明によって、1~2BLのBi超薄膜を定期的に含む構造も研究対象となるため、ミルフィーユ構造の設計も再度検討する。
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