研究課題/領域番号 |
23K26555
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補助金の研究課題番号 |
23H01862 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分30010:結晶工学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
佐崎 元 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (60261509)
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研究分担者 |
長嶋 剣 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (60436079)
村田 憲一郎 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (60646272)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,720千円 (直接経費: 14,400千円、間接経費: 4,320千円)
2025年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2024年度: 4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2023年度: 10,400千円 (直接経費: 8,000千円、間接経費: 2,400千円)
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キーワード | ice / structural changes / outermost surface layers / growth kinetics / ultra-high temperature / 氷 / 構造変化 / 最外表面分子層 / 単位ステップ / 成長カイネティクス / 超高温 / 氷結晶 / 表面構造 / その場観察 / 高分解光学顕微鏡 |
研究開始時の研究の概要 |
金属や半導体などの結晶は,1000°Cを超える様な融点直下の超高温下で成長させるため,結晶の成長過程を分子レベルで直接観察することは容易ではない.一方,氷結晶の場合にはその融点(0°C)直下の温度で,氷結晶の単位ステップ(水1分子高さ: 0.4 nm)を高分解光学顕微鏡を用いて直接観察することができる.そのため,氷結晶をモデル材料として選び,結晶の最外表面分子層の構造変化と成長カイネティクスの相関を明らかにする.具体的には, (1)-100~0°Cの幅広い温度下で氷結晶表面上の単位ステップの直接観察実験,および(2)ロータリーポンプで到達可能な程度の真空環境中で同様の観察実験を行う.
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研究実績の概要 |
令和5(2023)年度には,次の3点の開発および研究を行った. 1)低温観察チャンバーシステムの作製:-20~0°Cの温度領域で±0.05°Cの温度精度で氷結晶の温度を制御できる観察チャンバーシステム(既に1台現有)を新たに1台作製した. 2)極低温観察チャンバーシステムの作製:-140~-20°Cの極めて幅広い温度領域で±0.1°Cの温度精度で氷結晶の温度を制御できる観察チャンバーシステムを全く新たに設計・開発した. (1)開発第1号機:ロータリー式真空ポンプによる減圧を利用して液体窒素を送液することで,無酸素銅製のステージを冷却した.また,銅ステージにヒーターを取り付け,液体窒素の送液量とヒーターの加熱量を精密に制御することで温度を制御した.しかし,減圧された配管内部での液体窒素の昇華に伴い,温度が低下し液体窒素が固化する現象が頻発した.これを防ぐために,配管に外部から十分な量の熱が常に伝わる構造とした.その結果,本チャンバーは-90°Cまで温度を下げた状態で,チャンバー内部に約10°Cの温度分布ができてしまうことがわかり,開発を断念した.ステージが外部と比較的多く熱接触していたことが,温度分布発生の原因であると考えられた. (2)開発第2号機:そこで,次にステージと外部との接触面積を,力学的な強度が確保できる限りにおいて最小にすることで温度分布の改善を試みた.その結果,温度を-140°Cまで低下させることに成功したとともに,-140°C時におけるステージ内の温度分布を0.8°C以内に抑え,ほぼ均一な温度分布を実現することにも成功した. 3)1)2)で作製した両観察チャンバー中で氷結晶を成長させ,氷結晶表面上の単位ステップをレーザー共焦点微分干渉顕微鏡を用いてその場観察することにも成功した.今後,様々な温度領域で単位ステップの形状や成長ダイナミクスを観察・計量する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5(2023)年度に行った開発・研究の中では,極低温観察チャンバーシステム(-140~-20°Cの極めて幅広い温度領域で±0.1°Cの温度精度で氷結晶の温度を制御できる)の作製が最も困難であった.特に,開発1号機においては,減圧された配管内部での液体窒素の昇華に伴う温度低下による液体窒素の固化を防ぐことに予想外の長時間を要した.また,開発2号機においても,力学的強度を保ちながら,熱接触を最低限に抑えることに長時間を要した.そのため,本来であれば2023年度中に行うはずであった3)様々な温度下での氷結晶の表面観察にほとんど時間を割くことができなかった.しかし,最も困難な技術的問題を全て解決できたとともに,氷結晶表面の単位ステップを直接光学観察できることも確認できたので,技術的な困難はもう残っていない.そのため,令和6(2024)年度には,様々な温度領域下での観察実験を行い,目的を達することができるものと予想している.
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今後の研究の推進方策 |
1)様々な温度領域下での単位ステップのその場観察:こちらについては,令和5(2023)年度に技術的な困難をほぼすべて克服できた.そのため,令和6(2024)年度には,順調な観察実験を行うことができると予想している. 2)窒素ガスが及ぼす効果について:これまで我々は,全圧1気圧の窒素ガス中で全ての観察実験を行ってきた.しかし,これまでの他グループが行ってきた氷結晶の観察・計測実験の結果を比較検討するうちに,窒素ガスが氷結晶の成長に大きな影響を及ぼす可能性があることが明らかになってきた.結晶成長中の物質輸送過程において,水蒸気分子の体積拡散に1気圧の窒素ガスが大きな影響を及ぼすことは自明である.しかし,それに加えて,窒素ガスは水蒸気分子のステップへの取り込みを大きく阻害して成長カイネティクスを低下させているのではないか,という可能性が新たに浮上してきた.もし,窒素ガスがその様な影響を及ぼすのであれば,地上から成層圏に至る幅広い圧力の窒素中で進行する天然の雪・氷の結晶成長において,これまで見落とされていた重要な因子を発見したことになり,その寄与は大変大きい.そのため,令和6(2024)年度には,ロータリーポンプ程度で到達可能な程度の真空環境中で氷の気相成長を観察するためのチャンバーを新たに作製し,真空環境中での単位ステップの前進カイネティクスを計測する実験を新たに行う.この項目(2)は,本研究課題を申請した時点では全く予想していなかった課題であるが,結晶の最外表面層の効果を総合的に理解するためには必須の研究項目であるため,実施する必要がある.
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