研究課題/領域番号 |
23K26609
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補助金の研究課題番号 |
23H01916 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分32010:基礎物理化学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
押切 友也 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (60704567)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
19,110千円 (直接経費: 14,700千円、間接経費: 4,410千円)
2025年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2024年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 11,310千円 (直接経費: 8,700千円、間接経費: 2,610千円)
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キーワード | プラズモン / 強結合 / 近接場 / 光反応場 / 量子コヒーレンス / ホットキャリア / モード結合 / 光化学反応 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究で実施するのは、プラズモンナノ粒子間の量子コヒーレント相互作用を用いた光学・光化学特性制御である。プラズモン粒子がその配列として特性を示すためには、それぞれが独立に振る舞うのではなく、集団として同期して振る舞う必要がある。強結合状態においては結合前の状態同士が混成し、その双方の性質を併せ持ち、数百nmにおよぶコヒーレント範囲を有し、同時に強結合下では表面での光化学反応量子収率が増大する。 本研究の核心は、コヒーレント相互作用下にあるプラズモンナノ粒子の配列を制御することで独立のナノ粒子では発現し得ない特性、特に高効率光化学反応への寄与を目指すことにある。
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研究実績の概要 |
本研究では、量子収率の向上が、強結合によるコヒーレント相互作用に由来することを仮説とし、それを実証することを目的とする。コヒーレント範囲内にあるナノ粒子が量子的な重ね合わせ状態にあるならば、個々のナノ粒子が協奏して入射光を捕集した後、最も有利な反応経路を通ることができる。従って、コヒーレントなナノ粒子数が増えるほど反応効率が向上することが期待される。2023年度までに、量子コヒーレンスが光-物質相互作用に与える影響について以下の成果を得た。 第1に、酸化チタンと金反射フィルムから成る薄膜型ファブリ・ペロー(FP)ナノ共振器の上に、金ナノディスクを配置した強結合電極に置いて、金ナノディスクから酸化チタンへのホットエレクトロンの注入効率が増大することが示された。この実験結果について、量子コヒーレンスに基づく異なる金ナノディスク間の相互作用の結果、コヒーレンス範囲内で最も反応が進行しやすい点が選択される、という理論的説明が成された。 第2に、粒子数密度を最大化するため、自己組織化的に最密充填で金ナノ粒子をFPナノ共振器上に配置することで、LSPRとFPナノ共振器との結合強度が極めて大きい、超強結合条件を達成した。この超結合条件のデバイスに色素分子を吸着し、表面増強ラマン計測に適用したところ、超強結合デバイスの広範囲にわたってばらつきの小さく、再現性の良いラマン信号が得られることが明らかとなった。 第3に上記FPナノ共振器を、パラボラ型の金属反射曲面の上に誘電体相を満たした新規共振器構造を設計し、その上にLSPRを示す金属ナノ構造を配置した新規集光デバイスを提案した。 2024年度は主に量子コヒーレンスが界面での電荷移動に与える影響について、より系統的に検討する。また、設計したパラボラ型共振器の実装に向け、構造試作を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2023年度までに、量子コヒーレンスが光-物質相互作用に与える影響について多方面にわたる実験・理論的成果を得た。 第1に、酸化チタンと金反射膜から成る薄膜型ファブリ・ペロー(FP)ナノ共振器の上に、金ナノディスクを異なる粒子数密度で配置し、金ナノディスクの局在プラズモン(LSPR)とFPナノ共振器との強結合を形成し、その粒子数密度依存性について検討した。その結果、粒子数密度が増大すると、光吸収効率そのものは変わらないにもかかわらず、金ナノディスクから酸化チタンへのホットエレクトロンの注入効率が増大することが示された。この実験結果について、量子コヒーレンスに基づく異なる金ナノディスク間の相互作用の結果、コヒーレンス範囲内で最も反応が進行しやすい点が選択される、という理論的説明が成された。 第2に、上記と同様の観点で、粒子数密度を最大化するため、自己組織化的に最密充填で金ナノ粒子をFPナノ共振器上に配置することで、LSPRとFPナノ共振器との結合強度が極めて大きい、超強結合条件を達成した。この超結合条件のデバイスに色素分子を吸着し、表面増強ラマン計測に適用したところ、超強結合デバイスの広範囲にわたってばらつきの小さなラマン信号が得られることが明らかとなった。これはコヒーレンス範囲内からのラマン散乱が平均化されて放射される機序に起因すると考えられ、コヒーレンス相互作用の分光分析・イメージングへの道が開かれた。 第3に上記FPナノ共振器を、パラボラ型の金属反射曲面の上に誘電体相を満たした新規共振器構造を設計し、その上にLSPRを示す金属ナノ構造を配置した新規集光デバイスを提案した。FP共振器と比して、パラボラ型共振器はその集光点で入射光電場が飛躍的に増大し、さらに、コヒーレンス相互作用が存在することを電磁界計算により示した。 以上より本研究では想定を上回る成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は主に下記の点に注力する。 量子コヒーレンスが界面での電荷移動に与える影響について、より系統的に検討する。例えば、コヒーレンス範囲内に反応が進行しやすいLSPR粒子を意図的に設置することで、能動的に反応点を制御する。たとえば、ダンピングレートが異なる異金属や異形粒子を配置することで上記条件を達成する。そのための方法論として、二重露光電子線描画法や、ナノインプリントによる位置合わせを活用する。また、従来ではLSPRを示す金属からn型半導体へのホットエレクトロン移動のみが研究対象であったが、p型半導体へのホットホール移動についても超高速分光を用いて分析する。 設計したパラボラ型共振器の実装に向け、構造試作を行う。具体的には、フォトリソグラフィによって作製した円筒型フォトレジストを変性させ、凸型曲面構造を作製する。これをエッチング、構造転写を経て、凹型曲面構造を作製し、金属反射層、誘電体層を構築する。作製した構造の光学・光電気化学特性を計測し、高効率光捕集が人工光合成をはじめとする多電子反応に与える影響について検討する。
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