研究課題/領域番号 |
23K26614
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補助金の研究課題番号 |
23H01921 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分32010:基礎物理化学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
倉重 佑輝 京都大学, 理学研究科, 准教授 (30510242)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,460千円 (直接経費: 14,200千円、間接経費: 4,260千円)
2027年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2026年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2025年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2024年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2023年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
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キーワード | 量子化学計算 / テンソルネットワーク / 電子状態理論 / 高性能計算 / 量子ダイナミクス / 時間依存変分原理 |
研究開始時の研究の概要 |
光照射後の分子の運動や緩和過程など、電子状態と原子核の運動が強く相関する領域の量子ダイナミクスの計算手法を新たに開発し、従来手法から指数関数的な高速化を達成することで数十原子系に対する第一原理的な核波束ダイナミクス計算を実現する。励起直後の核波束運動はその後の光反応の進路を決定づけるなど、光化学反応の本質的な理解のために重要であるが、量子系特有の指数関数的な次元増大の問題に阻まれ、多原子系への応用が限られている。そこで本研究では電子状態において成功を収めたテンソルネットワーク理論を核波束の問題に展開し、核波束がどのような形式に縮約可能な数理的構造を持つのか、その本質を明らかにする。
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研究実績の概要 |
金属錯体の光誘起スピン転移・光緩和過程や電と原子核の運動が強く相関するPECT現象などについて、極端なモデル化を避けた核波束ダイナミクスを実行し深い洞察を与えるような理論解析を実現するために、次元が自由度(原子数)の増加に対して指数関数的に増大する従来の一粒子基底の直積形式を用いる核波動関数の表現方法に対して、テンソルネットワーク形式を導入した核波束ダイナミクスの新たな計算手法の開発を進めた。具体的にはテンソルネットワーク形式の一つであるtensor-train形式を用いて全ての自由度間の相関を許しつつ次元の指数関数的増大を回避する手法を開発した。テンソルネットワーク形式の核波動関数の時間依存シュレディンガー方程式に基づく時間発展法には、近年開発されたtangent空間射影分割法を採用し、電子状態理論の研究の知見を生かして高効率なsweepアルゴリズムの実装を実現した。また、核波束ダイナミクス特有の多体ポテンシャルの表現について、従来の調和近似を超える非調和効果を取り入れるためにモード間カップリング、すなわち多体効果を取り入れた効率的な多体ポテンシャルの計算とその超局面上での高効率な時間発展手法を開発した。さらに非調和効果が現れる実際の分子系にたいしては、ab initio 量子化学計算から平衡構造付近での一次微分や二次微分を元に構築した高次多項式ポテンシャルや、モード方向に沿った離散点からグリッド基底を用いた高次ポテンシャルなど、種々の手法を開発・実装を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度、計画通りに核波束ダイナミクスの新たな計算手法の開発を進めることができた。特に、テンソルネットワーク形式を用いた核波動関数の表現方法について、次元の指数関数的増大を回避する手法を開発し、その有効性を示すことができた。また電子状態などハミルトニアンが二体項までしか含まない問題には現れない、核波束ダイナミクスに特有の多体ポテンシャルの表現方法についても、従来の調和近似を超える非調和効果を取り入れるための効率的な多体ポテンシャルの計算手法を複数開発することができた。なかでも非調和効果が現れる実際の分子系にたいしては、ab initio 量子化学計算から平衡構造付近での一次微分や二次微分を元に構築した高次多項式ポテンシャルや、モード方向に沿った離散点からグリッド基底を用いた高次ポテンシャルなど、種々の手法を開発・実装を行い、水分子クラスタなど多自由度系に適用することで、赤外吸収分光実験との比較から手法の信頼性と共に有効性を示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、開発した核波束ダイナミクスの新たな計算手法の幅広い分子系の問題に適用するために、より柔軟かつバーサタイルなポテンシャル関数の計算手法の開発を進める。一つは、多体ポテンシャルの構築のための ab initio 量子化学計算によるサンプリングとそれをもとにした柔軟かつテンソルネットワーク型核波動関数に適したポテンシャル関数系の開発である。現在の多体展開とその打ち切りにより構築した多体ポテンシャルは従来の一粒子関数直積型の核波動関数の場合は問題にならないが、より高効率なテンソルネットワーク型核波動関数の場合はその項の数の多さが多項式オーダであっても実際上のボトルネックとなっている。そこでポテンシャルの表現にもテンソルネットワーク形式を導入することにより、核波動関数表現との相乗効果による圧倒的な高速化を目指す。
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