研究課題/領域番号 |
23K26631
|
補助金の研究課題番号 |
23H01938 (2023)
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分32020:機能物性化学関連
|
研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
中嶋 琢也 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 教授 (70379543)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
18,850千円 (直接経費: 14,500千円、間接経費: 4,350千円)
2026年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2025年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2024年度: 3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2023年度: 7,280千円 (直接経費: 5,600千円、間接経費: 1,680千円)
|
キーワード | 金属クラスター / イオン / 発光 / 精密合成 |
研究開始時の研究の概要 |
特定数の配位子と金属原子から構成される金属クラスターは、バルクの金属とは異なる特異的な物性を発現する。その物性は離散的なエネルギー準位を取る超原子軌道に基づく電子構造に由来し、クラスターの組成・原子配列などの構造因子に依存する。一方、多くのクラスターが有するイオン性の特徴にはあまり注目されていない。本研究では、金属クラスターの荷電状態が重要な構造因子となり得ることを提案し、イオン対工学に基づく機能物性設計の方法論を確立することを目的とする。適切な対イオンの選択により、電荷の局在状態を通じて、金属クラスター静電場(広がり、異方性など)を制御し、超原子軌道を含めたエネルギー準位へアプローチする。
|
研究実績の概要 |
金属、半導体はナノサイズ特有の物性を示す。また、ある一定数の金属原子と有機配位子から自己組織的に形成される金属クラスターは、構造・物性ともにナノ粒子や金属錯体とは異なる性質を示す。特有の電子構造を有し、離散化した準位間の電子遷移に基づく光学特性を示す。本研究では、金属クラスターの荷電状態が重要な構造因子となり得ることを提案し、イオン対工学に基づく機能物性設計の方法論を確立することを目的とする。今年度は、アニオン性銀29クラスターとカチオン性銀(I)錯体の複合化に取り組み、以下の成果を得た。 銀29原子とジチオレート配位子12分子からなるAg29クラスターは,量子収率1%程度の赤色発光(680 nm)を示す。このAg29クラスターをピリジン中に分散し、銀(I)錯体を添加したところ、発光波長が770 nmの近赤外域まで長波長シフトし、また、量子収率が40%程度まで増強することを見出した。X線結晶構造解析から、Ag29クラスターの周囲がAg(I)錯体で位置選択的に修飾され、表面にカチオン性の錯体を提示した構造へと変化していることが明らかとなった。さらに、fs~ns過渡吸収測定、時間・温度依存発光測定から、励起状態において、数100 ps程度で構造緩和が起きていることが示唆された。すなわち、電荷移動性の励起状態により、電荷密度が上昇したクラスターコアに周囲のAg(I)カチオンがより近接するような構造緩和が起こり、LMCT励起状態を安定化させる。これにより、新しい励起状態を形成し、強発光性の近赤外発光を示すことを明らかにした。LMCTは多くのクラスターに見られる機構であり、本手法の幅広い適用が期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イオン対構造形成が位置選択的に進行することを見出した。さらに、イオン対形成による発光特性の変化について、その機構を解明することに成功した。これらは当初予想していなかった知見であり、研究の発展性に利する成果を得られた。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き、-3価のイオン性を有し、発光性を示すAg29クラスターを中心に検討を行う。イオン半径の異なる種々の対イオンを有するAg29クラスターについて調製と物性評価を行う。テトラヒドロホウ酸のアルカリ金属塩(Li+, Na+,K+, Cs+)を還元剤として用いることで、対カチオンを変えたAg29クラスターを合成する。これらについて、結晶化条件を検討し、すべてのクラスターについてX線結晶構造解析を行うことで、これら対カチオンの局在構造と光物性(吸収・発光)の相関を明らかにする。一方、励起状態においては、Ag29クラスターのシェル構造が収縮する可能性が示唆されている。特に、クラスターのシェルにおいては、配位子がらせん配置を有することが分かっており、キラル構造特有の励起状態緩和構造が期待される。そこで、エナンチオマー分離を検討し、分離できたサンプルについて、キラル励起状態の特性に関して、円偏光発光(CPL)測定を行う。 X線結晶構造を元に、量子化学計算(DFT、TDDFT計算)を実施し、その電荷分布と光学遷移に関わる各超原子軌道の形状ならびにエネルギー変化の相関について評価する。すでに、超原子軌道形状を再現するDFT計算の条件については知見を得ている。これらの励起状態における緩和構造についても検討し、キラルな構造緩和に関して理論的な考察を行う。さらに、結合した金属イオン(カチオン)を起点とした表面固定錯体を形成し、クラスター周縁空間への構造・機能拡張を行う。チオールやチオレートに親和性を示す、Au+,Cu+, Cu+, Hg2+, Zn2+, Cd2+, Fe2+をはじめとする金属塩の添加による光学特性の変化を評価する。さらに、キラル配位子などの機能性配位子を配位したこれらの金属錯体イオンを用いることで、クラスター上に拡張配位空間を構築する。
|