研究課題/領域番号 |
23K26670
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補助金の研究課題番号 |
23H01977 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分34010:無機・錯体化学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
恩田 健 九州大学, 理学研究院, 教授 (60272712)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
19,240千円 (直接経費: 14,800千円、間接経費: 4,440千円)
2025年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2024年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2023年度: 11,960千円 (直接経費: 9,200千円、間接経費: 2,760千円)
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キーワード | 光化学 / 超高速分光 / 人工光合成 / 半導体光触媒 / 時間分解赤外分光 / 有機発光ダイオード / 時間分解分光 / 不均一固体 / 有機発光体 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、パルスレーザーを用いた過渡吸収分光装置を改良し、光散乱の影響を排した可視過渡吸収スペクトルおよび時間分解赤外振動スペクトルを測定できる装置を製作する。そのために、高繰り返しフェムト秒レーザーを用いた時間分解フーリエ変換分光装置を開発しする。さらにこれらの装置の応用例として、金属錯体と粉体酸化物半導体との複合系を取り上げ、吸着構造やその環境が金属錯体の光化学過程に与える影響、その光化学過程と金属錯体-半導体間の電荷移動の関係などを明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究では、パルスレーザーを用いた過渡吸収分光装置を改良し、光散乱の影響を排した可視過渡吸収スペクトルおよび時間分解赤外振動スペクトルを測定できる装置を製作することを目的としている。応用の面で広く用いられている不均一固体試料では、その波長に近いサイズの構造乱れによる散乱や光の干渉によって空間的パターンが複雑化している。そのため、このような測定で一般的に用いられる白色光をプローブ光とし、回折格子、多チャンネル検出器でスペクトルを得るポンプ・プローブ時間分解測定では、乱れた空間パターンと回折格子による波長依存した空間パターンが重なり、スペクトル解析が困難となる。この解決のため初年度は、補償光学系や高速掃引狭帯域光を利用することを計画していた。しかしその後、別予算との合算で、安定した高繰り返しフェムト秒光源を購入できることとなり、その発注、立ち上げを行った。そこでこの光源を活かし、本研究目的を達成する手段として新たにフーリエ変換分光法を用いた時間分解分光法の装置開発を行うことし、本年度はそのための装置設計および部品の購入を行った。また並行して従来型の過渡吸収分光装置を利用した計測も行った。試料粒径や強い信号を選択することによって散乱光によるバックグラウンドが乗りつつも解析可能な信号を得ることに成功した。具体的な成果としては、窒素ドープタンタル粉体とルテニウム錯体の複合体を用いたCO2光還元系の大気中での時間分解赤外計測を行い、COおよび光キャリアのダイナミクスを明らかにした。さらに有機発光ダイオード発光体として用いられる熱活性化遅延蛍光分子の固体粉末試料の時間分解赤外計測も行い、項間交差に伴う構造変化が溶液中とは大きく異なることを見出した。これらの成果は、次年度以降に研究目的を達成するための重要な基礎となるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度、購入、立ち上げを行ったフェムト秒光源Yb:KGWレーザーは、これまで用いてきた光源であるチタンサファイアフェムト秒レーザーに比べ、繰り返し周波数が高く、出力が安定している。そこでこの光源を用いれば、本研究目的を達成する手段としてフーリエ変換(FT)分光法が利用できることを思いついた。FT分光法は、空間的に分散させる回折格子を用いない分光法であるため散乱光に強いことが知られている。また連続光光源を用いた装置は広く普及しており、顕微や全反射など様々なオプションも市販されている。そのため当初の研究計画よりも、より汎用的な装置を作製できることが期待される。従来型のパルスレーザーを用いた場合、このような測定をすることは繰り返い周波数の関係できなかった。これに対して、十分繰り返し周波数の高いパルスレーザーを用いれば、信号系の工夫をすることにフーリエ変換分光も可能となる。そこで、具体的に本レーザー光源で利用できるフーリエ変換分光光度計の設計をメーカーと相談して行った。さらに、フーリエ変換分光法を有効に活用するためには、光源のスペクトル幅をできるだけ広帯域にする必要がある。そこで、Yb:KGWレーザーの出力から広帯域中赤外パルス光を発生させる方法の検討も行った。以上のことから当初の研究計画とは異なるが研究目的達成という点では順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、設計したフーリエ変換分光光度計および広帯域中赤外パルス光を発生させるための光学部品の購入を行い、これらを用いて実際に時間分解フーリエ時間分解装置の製作を行う予定である。広帯域中赤外パルス光の発生は、中空ファイバーを用いた自己位相変調により広帯域近赤外光を発生させ、赤外用非線形光学結晶によって光整流を行う方法が有力である。また可視光においてフーリエ変換分光法を行うことも検討しており、すでにそのための干渉計の購入と連続光光源を用いて計測のためのプログラム開発も行っている。これを利用するための可視光広帯域来源としては、フィラメンテーションを用いた方法を試す予定である。 一方、測定対象としては、本年度も行った人工光合成系に使われる金属錯体-粉体酸化物半導体複合系の光化学過程を中心とする。窒素ドープタンタルとルテニウム錯体の粉体複合体を用いたCO2光還元系では、本年度行った大気中での測定のノウハウを活かし、実際の反応系に近い懸濁溶液中での計測を行い、反応過程の実時間解明をめざす。さらに二酸化チタンにコバルトポルフィリンを吸着させた電極を用いた色素増感電気化学セルによる水の光酸化系を新たに対象とし、電気化学セルを用いた測定をめざす予定である。
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