研究課題/領域番号 |
23K26675
|
補助金の研究課題番号 |
23H01982 (2023)
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分34020:分析化学関連
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
上野 貢生 北海道大学, 理学研究院, 教授 (00431346)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
18,850千円 (直接経費: 14,500千円、間接経費: 4,350千円)
2025年度: 6,110千円 (直接経費: 4,700千円、間接経費: 1,410千円)
2024年度: 6,110千円 (直接経費: 4,700千円、間接経費: 1,410千円)
2023年度: 6,630千円 (直接経費: 5,100千円、間接経費: 1,530千円)
|
キーワード | コヒーレントフォノン / 音響フォノン / アフィニティーセンサー / プラズモン / 時間分解計測 / 時間分解測定 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,数10ピコ秒の周期で高速に振動する金のナノ構造体を用いて,物質が金表面に吸着した際に振動数が変調される現象を利用して,新しいアフィニティーセンサーを構築する。金属ナノ構造体のコヒーレント音響フォノン計測に関する研究では,物質の弾性率(ヤング率)や熱伝導性など,結晶の物理的性質を議論することに留まっている。それは,構造のサイズや形状により見かけ上の音響フォノンシグナルが変化するため,定量的な解釈が困難であるためである。一方,本研究では金ナノ構造のサイズや形状を厳密に制御することができるため,物質が金表面に吸着した際に音響フォノンシグナルが変調される機構を系統的に明らかにする。
|
研究実績の概要 |
本研究では、物質が吸着した際のコヒーレント音響フォノンシグナルの変化によるアフィニティーセンサーを構築することを目的としている。本研究を推進するためには、最適な周波数の音響フォノンを示す金ナノ構造の設計と物質が吸着した際に音響フォノンが変調される現象の原理を解明する必要がある。そこで、令和5年度は、過渡吸収測定システムの構築と種々の構造設計や構造サイズでコヒーレント音響フォノン計測を行って、その特性を系統的に明らかにすることに専念した。まず、パルス幅17 fsのフェムト秒チタンサファイアレーザーを2つのビームに分割し、ポンプ-プローブ測定系を構築した。金のキャリアを直接励起するためにポンプ光を400 nmとした。一方、プローブ光はプラズモン共鳴バンドの波長シフトに基づくエクスティンクション値の変化を読み取るため800 nmを用いた。また、ロックイン検出を行うことで、最もS/N比の高い金のキャリアダイナミクスとフォノン-フォノン散乱過程におけるコヒーレント音響フォノンシグナルが観測されることが明らかになった。構造の形状やサイズ依存性を測定したところ、プラズモン共鳴スペクトルが若干レーザーと離調している条件で最も音響フォノンシグナルのS/N比が向上することがわかった。異方性の形状を有する構造では、対称振動モードや呼吸振動モードなども同時に観測されるため、フーリエ変換により取り除くことはできるものの、本研究にとっては得られるビートシグナルがプラスに働くわけではないことから、異方性の無い単一構造が最適であることが明らかになった。音響フォノンシグナルの構造サイズ依存性が明確に観測された。しかし、周波数変化は構造サイズに対して系統的な変化であり、金の音速に由来することが確認された。また、原子層堆積装置を用いてアルミナを金の上に成膜すると音響フォノンシグナルの規則的な変化が観測された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度の研究目標は、最適な周波数の音響フォノンシグナルを示す金ナノ構造の設計と物質が吸着した際にコヒーレント音響フォノンシグナルがどのように変化することを系統的に明らかにすることであった。種々の構造設計で金ナノ構造を作製し、コヒーレント音響フォノン測定を行ったところ、シグナルの特徴などがそれぞれあることがわかり、結果として単一の等方的な構造が最も本研究に適していることが明らかになった。また、サイズ依存性の実験から構造サイズと振動周期は比例の関係にあり、その傾きが金の音速と等しかったことから、高度ナノ加工技術によって作製した金ナノ構造がメカニズムの解明やバイオセンシング技術において適していることが明らかとなった。したがって、従来のサイズや形状の分布を有する金属ナノ微粒子を基板上に配置して測定する方法に比べて、定量的な測定が可能となる。また、原子層堆積装置を用いてアルミナを2 nmずつ成膜していったところ、系統的な周波数変化が観測され、令和5年度における当初の研究計画を達成した。さらに、当初予定はしていなかったが、様々な基板に対応するため、反射型の測定システムを構築することにも成功し、透過型と同様のパフォーマンスで測定可能であることを確認した。
|
今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、金属ナノ構造の形状がコヒーレント音響フォノンシグナルに与える影響を明らかにしたが、今後は、金属ナノ構造に物質が吸着した際に、金属ナノ構造の形状がコヒーレント音響フォノンシグナルに与える影響を明らかにする。一方、単純な金ナノブロック構造の上面や側面のみにアルミナを積層させた構造も微細加工技術(スパッタリング、ドライエッチング)を駆使して作製を行い、コヒーレント音響フォノンを系統的に計測する。物質が吸着した位置によって周波数がどのように変化するかを明らかにして、振動モードの帰属を行う。また、アルミナとはヤング率の異なる材料を吸着させた際のコヒーレント音響フォノン計測を行って、界面でのヤング率の変化がどの程度周波数変化に影響を及ぼすかについて明らかにし、原理解明を行う。さらに、質量密度がコヒーレント音響フォノンシグナルに与える影響についても検討する。最終的には、分子のアフィニティーを利用したタンパク質の高感度検出を行うため、ビオチン-ストレプトアビジン等の抗原抗体反応系を用いてコヒーレント音響フォノンシグナルの変化を検出し、アフィニティーセンサーとしての有用性を明らかにする予定である。
|