研究課題/領域番号 |
23K26682
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補助金の研究課題番号 |
23H01989 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分34020:分析化学関連
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
井原 敏博 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 教授 (40253489)
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研究分担者 |
勝田 陽介 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 准教授 (50632460)
北村 裕介 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 助教 (80433019)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,720千円 (直接経費: 14,400千円、間接経費: 4,320千円)
2025年度: 5,980千円 (直接経費: 4,600千円、間接経費: 1,380千円)
2024年度: 6,110千円 (直接経費: 4,700千円、間接経費: 1,410千円)
2023年度: 6,630千円 (直接経費: 5,100千円、間接経費: 1,530千円)
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キーワード | DNA / RNA / CTC / EV / リキッドバイオプシー / 血液循環腫瘍細胞 / 細胞外小胞 / エクソソーム / 非侵襲診断 / アプタマー / EVs / DNAサーキット / 選択的凝集分離 |
研究開始時の研究の概要 |
体液循環型の核酸、特にCTCとEVsはいずれも脂質膜の閉じた空間に細胞の特徴となる分子群を搭載して血中を循環しているため研究対象として非常に注目されている。高度な構造プログラミングが可能な核酸の性質を利用して、血中を循環するCTC、またはEVsを選択的に架橋することで、熟練の技術、高額な分析機器等を用いない簡便かつ低侵襲のがん診断法を提案する。血液、唾液、尿などを用いた低侵襲的なリキッドバイオプシーでがんを迅速かつ高精度で判定できれば、我が国の検診率の向上に寄与し、また予後を頻繁にモニターすることで治療法の決定・方針変更を早めることができ、がんによる死亡率を減らすことが期待できる。
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研究実績の概要 |
がんは遺伝子変異に起因する疾患であるので、血中を循環している核酸を対象としたリキッドバイオプシーが注目を集めている。血中に存在する核酸としては、CTC(血中循環がん細胞: circulating tumor cells)やEVs(エクソソームなどの細胞外小胞: extracellular vesicles)などがある。この両者のサイズは大きく異なるが、いずれも脂質膜の閉じた空間に細胞の特徴となる分子群を搭載して血中を循環しているため汚染されることなく産生(親)細胞・組織に関する多くの情報をそのまま保持している。 これらの体液循環型の核酸、特にCTCとEVsは研究対象として非常に注目されており、様々な精製・回収法が提案されている。リキッドバイオプシーによるがんの早期発見、治療法の決定、がん治療の予後のモニタリングのために有望な分析対象であるが、短時間で簡便、確実に実施可能な手法が確立されているとは言い難い。さらに、産生組織、産生細胞の直接同定、または特定の産生組織・細胞に絞ったCTC、およびEVsの選択的回収に関する研究は未踏の領域である。 初年度は、当研究室においてこれまでも取り扱ってきたCTCを特異的に認識するためのアプタマー、およびDNAサーキットを利用したCTCの検出法に関する基礎的検討を行った。さらに、細胞溶液からのEVsの回収、溶液保存、および濃度測定などEVsを再現性良く取り扱うための基礎的な技術、実験方法を確立することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度はがん細胞由来のEVsやCTCを特異的に凝集させるために、まず使用するアプタマー、およびその実験条件を確定するために培養細胞を用いた基礎検討を行った。1×10^5個のMDA-MB-453(ヒト乳がん細胞)とHEK-293T(ヒト胎児腎細胞)に、エントロピー駆動型のDNAサーキット(EDC)を動作させるためのタグとなる配列を付与した抗EpCAMアプタマーを添加し、洗浄後、マスク/トリガー二本鎖を添加した。その後、上澄みを回収しEDCのためのタンデム二本鎖複合体と燃料DNAの混合溶液に添加した。がん患者の血液サンプルを用いた実験においては、抗EpCAMアプタマー修飾がん細胞捕捉フィルターに患者の血液1 mLを通液した。その後、フィルター上に捕捉した細胞にタグ付き抗EpCAMアプタマーを添加しEDCを動作させた。 MDA-MB-453において目視可能な増幅発光が得られた。一方、アプタマーの配列をスクランブル化したタグ付きDNAを添加した場合には増幅はみられなかった。HEK-293Tではいずれの場合においても発光は得られなかった。以上の結果より、がん細胞に結合した抗EpCAMアプタマーを介し、特異的に発光を増幅できることがわかった。 続いて胃食道接合部がん患者の血液1 mLを用いてDNAサーキット実験を行ったところ、目視識別可能な増幅発光が得られた。その後、経時的な観察を行ったところ、治療による病態の変化やフィルターに捕捉されたCTCの数と、得られる増幅発光に相関が確認されることがわかった。他、スキルス胃がんの切除後、腹膜播種が確認された患者の血液を用いた場合でも、同様に増幅発光が得られた。一方、健常者の血液では増幅発光は得られなかった。
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今後の研究の推進方策 |
幾つかのがん細胞、および正常細胞からそれぞれEVsを取得(調製)し、EVsへのアプタマーの選択的結合、ECDによるシグナル増幅、およびアプタマーを用いた特定のEVsの選択的凝集が可能かの基礎検討を行う。 初年度の検討により、抗EpCAMアプタマーはがん細胞(CTC)に特異的に結合することが確認できたので、PD-L1、CD44、CD24などを標的として本系に使用することの可能なアプタマーの種類を増やす。EVsの表面には、産生細胞由来のタンパク質が提示されていることが期待できるが、相関を確認するために産生細胞とそこから調整したEVsへの同じアプタマーの結合挙動を観察する。次いで、異なる細胞、例えばがん細胞由来、および正常細胞由来のEVsを、蛍光ラベル化したコレステロールを用いてそれぞれ異なる蛍光色でラベル化し、種々の条件下における蛍光性アプタマーの結合選択性を評価する。 EVs表面に結合させるアプタマーの適当な末端にタグ配列を導入し、そこをきっかけにして(または、その配列との鎖交換反応でリリースされた短い配列をきっかけにして)ECDを走らせ、シグナル増幅の可能性を評価する。さらに、標的タンパク質のEVs上における密度を感知したproximity発動型の鎖交換に基づく特異的結合、さらにそこからはじまるECD等が可能かについても評価を行う。さらに、EVsの特異的凝集反応の検討を行う。
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