研究課題/領域番号 |
23K26687
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補助金の研究課題番号 |
23H01994 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分34020:分析化学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
池羽田 晶文 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品研究部門, グループ長 (40342745)
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研究分担者 |
瀬角 美穂 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 食品研究部門, 研究員 (40885026)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
16,900千円 (直接経費: 13,000千円、間接経費: 3,900千円)
2025年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2024年度: 7,020千円 (直接経費: 5,400千円、間接経費: 1,620千円)
2023年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
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キーワード | 酵母抽出液 / 糖代謝振動 / 近赤外分光法 / 1H-NMR / 量子化学計算 / 解糖振動系 |
研究開始時の研究の概要 |
近赤外分光法は生体関連物質との相性がよく,リアルタイム計測手法にふさわしい.しかし原理の理解が不十分なため信頼性が求められる分野への進展が滞っている.本研究では酵母細胞をベースに,糖代謝や呼吸などキネティクスが明らかな代謝反応過程のスペクトル計測を行い,近赤外分析の背後で動作する検量モデルの波長特性を説明する.また時系列データを多変量解析によって分解し,既知の反応時定数等と比較することで各要素の同定を進める.さらに定量NMR測定や代謝流束均衡解析,候補となる化合物の量子化学計算等により,これまで未知であった近赤外スペクトルの類型分離と各吸収ピークの帰属を実現する.
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研究実績の概要 |
生体のリアルタイム計測手法が望まれているが,振動分光法の中でも最も普及している近赤外分光法はその候補としてふさわしい.ほぼ全ての有機物に感度があるため生体関連物質との相性がよく,食品・農産物分野では様々な迅速定量・判別分析に利用される.しかし,近赤外スペクトルは吸収ピークの帰属が進んでおらず,このため高い信頼性が求められる分野への進展が滞っている.そこで本研究では代謝物とその反応を基軸に,近赤外分析計の背後で動作する検量モデルの示す波長特性について明らかにする.実験の対象にはキネティクスが明らかな酵母の糖代謝,特に振動解糖反応過程を用いる.ここで観測される周期的な濃度の増減は数理モデルによって説明され,位相の異なるいくつかの代謝物群に分類できることが知られている.酵母抽出液に糖を加えて2時間程度,約10分周期の振動反応を近赤外スペクトルによって経時的に追跡し,多変量解析によって位相の異なるスペクトルパターンの分離を試みた.また同じ反応を1H-NMRでも測定し,位相の異なる明確な3群とその化合物を特定することができた.また,候補となる化合物の量子化学計算等により,これまで未知であった近赤外スペクトルの類型分離と各吸収ピークの帰属を試みた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先ず安定した振動解糖反応の計測ができる分光用バッチセルの検討を行った.気泡の影響を避けるため直立型の薄型セルを用い,可視・近赤外スペクトル(FOSS-XDS, 20,000-4,000 cm-1)と,基準となるNADHの紫外吸収強度(340 nm, Ocean Optics HR4000)を交互に測定できる装置を作成した.本システムを用いて酵母抽出液の経時測定を実施し,得られた可視・近赤外スペクトルを説明変数,NADHの吸収を目的変数としてPLS回帰モデルが成立するかを確認した.結果的に振動反応を再現することは可能であり,潜在変数には振動に同期する成分が現れることを確認した.次に1H-NMRスペクトルを用いて同様に振動解糖系の経時変化測定を行った.これによって数理モデルから予測されていた化合物の位相差を,初めて実験的に明らかにすることができた.以上の内容は第83回分析化学討論会(富山大学),SciX2023(Reno, US)において報告した.また近赤外スペクトルは倍音・結合音であるため,その元の基本音の変化を調べるためFT-IRによる経時変化測定も行った.なおここでスペクトルの安定化のため窒素発生機を新規に導入した.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の大目的は近赤外分光法を生体のリアルタイム計測手法として利用できるようにすることだが,このためには各化合物による吸収ピークの帰属や,多変量解析を使用する際の妥当性指標となるスペクトルパターンを明らかにすることである.近赤外分光法で定量分析を行う際に最も多く利用されるPLS回帰分析により,単調な糖の減少や主の振動とその逆位相のスペクトル成分は分離できたが,それ以外の位相成分は分離できなかった.これはPLS回帰が直行成分への分解を基調とするためと考えられる.このため今後は振動の拘束条件を付加したMCR-ALSなどの新規のスペクトル分解解析法を試みる.一方で1H-NMRシグナル,FT-IRによる基本音の変化と量子化学計算によって近赤外スペクトルの帰属を進め,同位相の代謝物群が示すスペクトル類型を明らかにする.
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