研究課題/領域番号 |
23K26707
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補助金の研究課題番号 |
23H02014 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分35010:高分子化学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
田中 敬二 九州大学, 工学研究院, 教授 (20325509)
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研究分担者 |
盛満 裕真 九州大学, 工学研究院, 助教 (60961696)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,720千円 (直接経費: 14,400千円、間接経費: 4,320千円)
2025年度: 6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2024年度: 6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 5,980千円 (直接経費: 4,600千円、間接経費: 1,380千円)
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キーワード | 表面・界面 / 分子鎖凝集状態 / 分子鎖ダイナミクス / 分子鎖流動性 / 絡み合い |
研究開始時の研究の概要 |
Society 5.0を実現・加速する高分子は異種相界面を多く含む。高分子界面では材料内部と比較してエネルギー状態が異なるため、その構造・物性をバルク試料からの知見に基づき予測することは困難である。本研究では、ナノクリープ試験に基づき固体界面におけるセグメント運動(ガラス転移領域)に関する検討を時空間スケールの大きな流動領域まで拡張する。具体的には、固体界面近傍にある高分子鎖は、流動するか、絡み合うか、トレイン部は疑似絡み合い点となり得るか、また、それらの情報を界面からの距離の関数として明らかにすることを目的とする。
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研究実績の概要 |
高分子界面では材料内部と比較してエネルギー状態が異なるため、その構造・物性をバルク試料からの知見に基づき予測をたてることは困難である。申請者らは、固体界面におけるセグメント運動(ガラス転移領域)に関する検討を行ってきたが、本研究では、時空間スケールの大きな流動領域まで拡張する。具体的には、固体界面近傍にある高分子鎖は流動するか、絡み合うか、トレイン部(後述)は疑似絡み合い点となり得るか、これらの深さ依存性を明らかにすることを目的として、研究を遂行している。 2023年度は、ナノクリープ試験に基づき、界面近傍における分子鎖の流動性について検討を行うことを目的としていたが、想定通りの研究成果が得られた。とくに、固体表面と接触(吸着)した分子鎖は流動しないことを明らかにしている。研究業績として、アメリカ化学会および王立化学会の専門誌を中心とした原著論文を4報発表した。また、講演は招待のみで14回(国際は、7回)であり、著書は3報を執筆している。 得られた学術成果の要約としては、以下に示している。2024年度以降は、これらの研究成果とこれまでの知見を融合させることで、異種固体界面における高分子ダイナミクスの広範な時空間スケールの描像を明らかにし、「高分子界面物性」の体系化を試みる。結果として、高分子複合材料、コーティング・接着、また、積層デバイス分野において新たな設計指針が導入できると期待する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
用いた単分散ポリスチレン(PS)の数平均分子量は180kであり、慣性半径(Rg)の2倍は23.1 nmであった。バルクのガラス転移温度(Tgb)は378 Kであった。スピンキャスト法で調製したPS膜は真空下423 Kにて24時間熱処理した。原子間力顕微鏡(AFM)観察に基づき評価した膜厚は20 nmで2Rgと比較して小さかった。膜上にイオン液体を滴下し、種々の時間、403 Kで保持した。この際、気/液/固3相接触線において、表面張力の垂直成分が法線方向に働くため、表面に隆起が形成される。実験温度の403 KはTgb = 378 K より25 K高く、バルクにおいて分子鎖拡散が可能である。液滴配置時間(t)に依らず、表面隆起および溝が観察された。これは、溝の領域から隆起の方向へPS分子鎖が輸送されたことを意味している。隆起高さおよび溝の深さは、いずれも液滴配置時間に伴い増大した。このうち、溝の深さはt = 3,000 s以降、ほとんど変化しなかった。その後、溝は主に水平方向に広がっていた。t = 3,000および4,000 sにおける溝の深さは約13 nmであり、これは初期膜厚よりも小さかった。これらの結果は、固体界面から7 nm以内に存在するPS分子鎖は、Tgbよりも25 K高い温度において、今回行った実験時間では拡散しないことを示している。したがって、固体界面におけるPS鎖の時空間スケールの大きい分子運動は、バルクと比較して著しく抑制されていることが示唆された。今後は、実験温度・時間スケールをさらに拡張することで、固体界面に存在する分子鎖が動き得るのかどうかをより詳細に評価し、固体界面における高分子鎖の流動ダイナミクスについて議論する。
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今後の研究の推進方策 |
AFMを用いた直接観察に基づき、トレイン部は疑似絡み合い点となり得るかに対する回答を得る。AFM探針の触圧(Ftap)方向は、鉛直下向きから角度φでずれている。したがって、観察時には、面内方向にFtap・sinφの力が分子鎖に印加される。これまでに行った予備検討の結果を述べる。固体基板上に吸着したPS分子鎖は、両端と中央にグロビュール状ドメインを形成し、その間を高さ0.3 nm程度のひも状セグメントが繋いでいる。Ftapが十分に小さい(0.55 nN)場合、形態の経時変化は認められない。一方、Ftap=0.71 nNの場合、小さなグロビュールの箇所で、グロビュールからの部分鎖の引き出しが観測された。流動は複数箇所で発生し、その方向は同様であることから、Ftap・sinφに起因すると考えられる。ここで、大きなグロビュールからのセグメントの引き出しが観測されていないことは注目に値する。これは、トレインセグメントが疑似架橋点として働くため、固体との接触面積が大きいほど、流れにくいと考えることで説明できるが、今後、全原子分子動力学等で検証していく。また、分子鎖中のトレインセグメント分率を変化させたPSやスチレン・ブタジエンゴム(SBR)を用いて、界面吸着分子鎖の凝集状態と流動性に関する関係を視覚的にも明らかにすることを計画している。
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