研究課題/領域番号 |
23K26723
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補助金の研究課題番号 |
23H02030 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分35020:高分子材料関連
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
上木 岳士 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 高分子・バイオ材料研究センター, 主任研究員 (00557415)
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研究分担者 |
中西 淳 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 高分子・バイオ材料研究センター, グループリーダー (60360608)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,850千円 (直接経費: 14,500千円、間接経費: 4,350千円)
2025年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
2024年度: 6,630千円 (直接経費: 5,100千円、間接経費: 1,530千円)
2023年度: 7,280千円 (直接経費: 5,600千円、間接経費: 1,680千円)
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キーワード | イオン液体 / 高分子ゲル / ブロック共重合体 / メカノバイオロジー / レオロジー / イオンゲル / アゾベンゼン / 界面 / 幹細胞 |
研究開始時の研究の概要 |
生命に対する「力」の効果を探求するメカノバイオロジーという学問領域では、材料の粘弾性を自在に制御できる細胞足場材料の登場が待ち望まれている。本研究では時空間分解能に優れる光刺激によって、任意のタイミング、強度、時空間周期で粘弾性をスイッチングできる細胞足場材料を構築する。特に細胞培養空間と相分離し、長期材料安定性に優れる無毒性イオン液体と疎水性ブロック共重合体を組み合わせることで、光刺激のオン-オフをトリガーにした高分子の集合・離散が直ちにゲル材料の粘弾性変化につながる分子設計を実現する。
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研究実績の概要 |
生命に対する「力」の効果を探求するメカノバイオロジーという学問領域では材料の粘弾性を自在に制御できる細胞足場材料の登場が待ち望まれている。しかし、その分子設計難易度の高さから任意のタイミング、強度、時空間周期で弾性率等の力学特性をスイッチングできる細胞足場材料は実現していない。本研究では細胞培養に必須のタンパク質水溶液(培地)と相分離する疎水性イオン液体(IL)中で自己集合する疎水性(ブロックコ)ポリマーの光応答性を利用した細胞足場材料を構築する。本系は本質的に液|液相分離系であるため足場部分は物理ゲルでありながら培地中への高分子の溶出・拡散が抑えられ、長期安定に広範囲の弾性率変化が可能になる。またILのデザイン性による貯蔵/損失弾性率の個別調整や粘弾性液体様の力学環境など従来のハイドロゲル系では実現困難だった緻密な力学物性制御も可能となる。本材料系により、疎水性ILを溶媒に用いた刺激応答性高分子の学理を深化させるとともに、究極の目標である力学刺激のみによる生命現象の操作を目指す。 本年度は高分子を含まない、IL界面そのものを利用した細胞培養に成功した。細胞は疎水性ILの界面に直接接着して「いない」ことが明らかになった。培地に含まれるタンパク質がIL界面に吸着し、極薄の固体薄膜(プロテインナノレイヤー: PNL)を形成、細胞はPNLの力学的頑強性を利用して接着、および自身の生存を維持していることを見出した。疎水性IL界面におけるPNLの形成プロセスは高速原子間力顕微鏡(AFM)を利用した直接観察により可視化され、その力学特性はILの界面配向に影響を受けることを明らかにした。本成果はAdvanced Materials, 2024, 2310105.に掲載された。査読者および編集部からの評価が高く、掲載号の内表紙にてハイライトされることが決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
IL界面における幹細胞の培養に世界で初めて成功し、論文化した。①ILの化学構造が変わると②ILの界面配向が変化し、③PNLの力学特性が変化した結果、④界面の細胞動態(伸展)まで変化する、という生命現象に及ぼすILの階層的な効果を報告した。同報ではILと完全相溶する高分子ネットワークを組みあわせたイオンゲルの細胞動態にも言及した。界面で細胞が伸展しない(十分な固さを持つPNLを与えない)IL界面においても、イオンゲル化させバルク弾性率を高めることで、十分な細胞伸展度が得られる事実を見出した。材料表面の細胞培養を志向した場合、界面すなわちPNLの力学強度のみならず、バルク粘弾性の寄与も無視できないことを示唆する結果である。これは本研究のターゲットである光応答性イオンゲルの評価を今後、進めて行くにあたって極めて重要な知見である。総じて、当初の予定にあった光応答性高分子の設計・合成(後述)に加え、液体界面および完全相溶イオンゲル系における細胞培養の特徴を浮き彫りにしたこと、並びにこれら予備検討の結果をもって論文化に至ることができた状況を鑑みて、上記評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
IL界面およびイオンゲル界面における細胞培養と併行して、当初から予定していた、IL中で光に応じて集合状態を変化させるブロック共重合体の設計も進めている。現在までに汎用疎水性高分子であるポリメタクリル酸メチル(PMMA)が細胞無毒性疎水性ILの一種であるテトラオクチルホスフォニウム トリフルオロメチルスルフォニルイミド([P8,8,8,8][TFSI])中でほ乳類細胞培養温度である30-40℃付近で上限臨界溶液温度(UCST)型相転移を起こすことを見出している。さらにこのMMAに対してアゾベンゼンあるいはオルト位に4つのメトキシ基を導入したことで可視光に応答する、メトキシアゾベンゼンをランダム共重合させた高分子が[P8,8,8,8][TFSI]中で同じくUCST型に相転移し、なおかつそのUCST型相転移温度が、それぞれのアゾベンゼンのフォトクロミック状態に応じて変化することを見出している。来年度はこれら高分子のIL溶液中における相転移現象を利用した粘弾性の制御に着手する。また、これら高分子成分を一セグメントとしたブロック共重合体の合成経路探索を進め、光に応じて粘弾性を変化させるイオンゲル細胞足場材料の構築を進める。
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