研究課題/領域番号 |
23K26762
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補助金の研究課題番号 |
23H02069 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分36020:エネルギー関連化学
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大野 真之 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (30892533)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
19,110千円 (直接経費: 14,700千円、間接経費: 4,410千円)
2025年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2024年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2023年度: 11,310千円 (直接経費: 8,700千円、間接経費: 2,610千円)
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キーワード | 全固体電池 / 固体複合材料 / イオン輸送 / 固体界面化学 / 高濃度複合体 / 固体電解質 / 界面現象 |
研究開始時の研究の概要 |
豊富で安価で大容量と三拍子そろった硫黄正極はその潜在能力を引き出すことができれば蓄電分野にパラダイムシフトを引き起こし得る。しかし硫黄自体のイオン的にも電子的にも絶縁である性質から、利用を目指した複合化により電子やイオンの輸送が大きく妨げられる。本研究ではこれまでの研究による理解をベースに、実際に複合体内部のキャリア輸送の向上を狙う。この目的に向けて、とくに近年台頭する電解質の硫黄正極との親和性を探り、これらの研究を包括的に下支えする高濃度固体界面化学の学術基盤を構築する。
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研究実績の概要 |
硫黄は豊富で安価かつ大きな理論容量を持ち、その利用は蓄電分野にパラダイムシフトを引き起こし得る。絶縁性の硫黄はイオン・電子輸送担体との微細かつ緻密な複合化で蓄電利用が可能となるが、高濃度固体界面を有する複合体内での輸送現象の理解と複合体設計指針は確立されていない。そこで本研究では全固体硫黄正極の実現に向けて、広い電位範囲での高速イオン輸送が可能な複合体設計指針の確立を目指し、さらにそれを下支えする高濃度固体界面化学の学術基盤の構築を目指している。 今期は複合体中のマクロな輸送の向上を広い電位範囲で実現するための施策に取り組んだ。一つはハロゲン系固体電解質の高濃度複合体中での利用である。高濃度複合体内であっても、ハロゲン系固体電解質は高い酸化耐性を示した。しかし興味深いことに、酸化電位における劣化挙動は硫化物のそれとは異なり、たとえば塩化物においては塩素の酸化に伴う劣化の直前に伝導度が上昇した。これは臭化物や他の金属を四面体中心に持つハライドでも観測されたことから、キャリア濃度の少ないハロゲン化物の伝導度が小さいことと関連があることが示唆されている。印加電圧への応答と輸送への影響は硫化物では常にネガティブであったため新たな知見である。 付随して、高濃度複合体中で利用可能な新たな電解質の探索にも乗り出している。ナトリウムイオン伝導ハロゲン化物は高い酸化耐性と高い伝導度が期待されるが、その報告は極めて少なかった。そこで我々はダブルペロブスカイト構造に多くのナトリウム空孔を導入することで大きく歪ませた構造を持つNaTaCl6とNaNbCl6の二つに注目し、その輸送特性を調査した。ほぼ同じ構造を持つに者であるが、輸送特性には大きな差があり、これがinductive effectによるものだと提唱した。これらは新たな物質の設計指針確立に繋がり得る知見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
広い電位範囲での高速イオン輸送が可能な複合体設計指針の確立を目指し、さらにそれを下支えする高濃度固体界面化学の学術基盤の構築を行っている。この目的に向けて、研究開始時には1)複合体内輸送支配因子の掌握と、2)ヘテロ界面導入による適材適所な電解質の運用により、複合体内のイオン輸送向上を図る。またより深い複合体内輸送現象の理解に向け、3)バルク観測技術の高濃度複合体への拡張と、4)複合体中のマクロな輸送現象の可視化、そして、5) 電気化学的観測とマクロ輸送現象可視化情報の融合の五つを重点項目として挙げた。現在までに2、3、4、5に関してはおおむね想定した進捗が見られ、これらに加えて新規物質開発の観点から、高濃度複合体研究に資する成果が出始めている。全体としておおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに、新たな物質の探索や、マクロ輸送の向上手法の検討が特に進んできている。これらの新たな物質設計指針の確立と輸送向上手立ての模索を中心に研究を進めていくが、今期は特に可視化と電気化学測定の融合と、複合体内輸送支配因子の掌握に向けて取り組んでいく。特に輸送支配因子の検討は、新学術領域の公募研究を経て多角的な観測を行い、輸送の劣化と大きく相関するファクターを複数把握した。今後はこれらの知見を踏まえて、どうすれば輸送の向上が可能であるかを検討する。特に、界面近傍での組成の揺らぎの低減に向けた施策の検討を進めている。
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