研究課題/領域番号 |
23K26798
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補助金の研究課題番号 |
23H02105 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分37030:ケミカルバイオロジー関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
多喜 正泰 名古屋大学, 物質科学国際研究センター(WPI), 特任准教授 (70378850)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,850千円 (直接経費: 14,500千円、間接経費: 4,350千円)
2025年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
2024年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2023年度: 8,060千円 (直接経費: 6,200千円、間接経費: 1,860千円)
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キーワード | 脂質代謝 / 蛍光プローブ / 蛍光イメージング / オルガネラ / 蛍光寿命 / 脂肪滴 / 蛍光寿命イメージング / 環境応答性 / 脂質構成 / コレステロール / 定量解析 |
研究開始時の研究の概要 |
脂質滴は,オルガネラ膜接触場を介して様々なオルガネラと連携しながらエネルギー代謝や脂質代謝を制御している.脂肪滴へのコレステロールエステルの蓄積は,細胞機能に大きな影響を及ぼすものであるが,その機構は不明である.本研究では,脂肪滴蛍光プローブを用いて,オルガネラ膜接触場を介した脂肪滴へのコレステロール輸送を1脂肪滴レベルで高精度に解析するための技術を創出する.具体的には,脂肪滴を長時間に渡って観察できる新たな蛍光プローブの創出,および脂質組成を解析するための新技術を構築し,細胞内コレステロールの輸送機構解明に繋げる.
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研究実績の概要 |
脂質滴は,エネルギー代謝や脂質代謝において中心的な役割を果たすオルガネラであり,膜接触場 (MCS) を介して様々なオルガネラと連携しながら機能を発揮している.脂肪滴の主成分は,トリアシルグリセロール (TAG),ジアシルグリセロール (DAG),コレステロールエステル (CE)などの中性脂肪である.脂肪滴へのCEの蓄積は,細胞機能に大きな影響を及ぼすものであるが,その機構は不明である.本課題は,脂質組成に応じて異なる蛍光挙動を示す脂肪滴蛍光プローブを開発し,MCSを介した脂肪滴へのCE輸送を1脂肪滴レベルで高精度に解析するための技術の創出を目的とする. 今年度は,「長時間観察を可能とする環境応答性脂肪滴プローブの創出」をテーマに2つの化合物を合成し,その機能を評価した.LipiPB Redは電子求引性官能基であるホスホリル基2つで架橋したラダー型骨格に,ジフェニルアミノ基を連結させた極性応答蛍光プローブである.TAG/DAG構成比が異なる人工脂肪滴中を用いて検証したところ,DAGの増加に従って蛍光寿命の短寿命化が認められた.一方,当初の予想とは異なり,CE濃度に対する依存性は認められなかった.CE濃度に対する蛍光応答を示すためには,極性応答ではなく別の分子設計戦略が必要である.しかし,TAG/DAG構成比に対しては十分な応答性が認められたことから,LipiPB Redを用いて細胞染色を実施した.本プローブは高い脂肪滴選択性と優れた耐光性を有することを明らかにした. また,今年度は数日にも及ぶ脂肪滴動態の追跡を実現するため,脂肪滴内脂質と共有結合可能な新たな蛍光プローブの創製に取り組んだ.末端にアルケンを有する脂肪酸を合成し,人工脂肪滴内で反応性確認後,生成物をNMRおよびMSで確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電子求引性官能基であるホスホリル基2つで架橋したラダー型骨格に,ジフェニルアミノ基を連結させた脂肪滴蛍光プローブは,予想通り優れた耐光性を有していることを確認した.また,アクセプター性を強くすることにより,非常に高い環境応答性が認められ,TAGとDAGの組成比に応じて蛍光寿命が異なることを明らかにした.一方で,CE濃度に対しては,濃度依存性は認められなかったことから,極性応答ではなく,粘度応答性を付与するなど,別の設計戦略が必要であることがわかり,現在開発に取り組んでいる.また,今年度は数日にも及ぶ脂肪滴動態の追跡を実現するため,脂肪滴内脂質と共有結合可能な新たな蛍光プローブの創製に取り組んだ.これを実現するために,逆電子要請型Diels-Alder反応に着目し,テトラジン部位を導入した疎水性蛍光色素LipiCoを創製した.また,反応相手として,末端にアルケンを有する脂肪酸を合成した.人工脂肪滴内で反応性確認し,生成物をNMRおよび質量分析により確認した.さらに末端アルケン脂肪酸で処理した細胞に対してLipiCoを添加すると,脂肪滴から著しい蛍光増大が認められ,脂肪滴内での共有結合形成が示唆された.以上の結果は当初の計画通りであり,研究は概ね順調に進行していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
試験管内における評価は順調に進んでいることから,次は細胞内脂肪滴を用いて本プローブの有用性を実証していく.様々な細胞種についてプローブで染色し,蛍光寿命顕微鏡による観察を実施する.脂肪的特性に不均一性が認められた場合は,脂肪滴の脂質組成の違い,および脂質組成に影響を与える外的要因を明らかにする.さらに,長時間におよぶタイムラプスイメージングを行い,脂肪滴動態を追跡する.一方,開発したプローブはCEに対する濃度依存性が認められなかったことから,粘度応答性を付与するために色素骨格に可動部を導入し,今課題の達成を目指す.CE濃度と蛍光寿命の相関性を確認後,細胞内に導入し,その機能を評価する. 共有結合型脂肪滴プローブに関しては,当初の予定通り,超長時間の脂肪的動態の観察を目指す.脂肪細胞内で脂肪滴を共有ラベル化し,卵巣癌細胞と共培養する.また,培地にWnt3aタンパク質を添加し,1週間続けて観察することで,脂肪細胞の脱分化過程を追跡する.阻害剤の効果についても同時に検証し,脂肪細胞が癌細胞増殖に及ぼす効果について検討する. さらに脂肪滴内の脂質組成を定量解析するために,ナノピペット技術を活用した新たな分析技術を確立する.まず,細胞のFLIMイメージングを行いながら,狙った脂肪滴を回収する.これを可溶化処理後,質量分析によって脂質組成を解析する.脂肪滴が大きく,回収量が十分ある場合は,LC/MSによってCEエステル含有量を定量化する.蛍光画像から類推される脂肪滴の体積を元にCE濃度を算出することができる.最後に,回収した脂肪滴の蛍光寿命とCE濃度の相関性について検証することで,FLIM画像の定量化を図る.
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