研究課題/領域番号 |
23K26828
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補助金の研究課題番号 |
23H02135 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38030:応用生物化学関連
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
崔 宰熏 静岡大学, グローバル共創科学部, 教授 (40731633)
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研究分担者 |
道羅 英夫 静岡大学, 理学部, 教授 (10311705)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,590千円 (直接経費: 14,300千円、間接経費: 4,290千円)
2026年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2025年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2024年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2023年度: 5,330千円 (直接経費: 4,100千円、間接経費: 1,230千円)
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キーワード | フェアリーリング / フェアリー化合物 / 相互作用 / フェアリーリング病 / 標的タンパク質 / キノコ形成物質 / 化学コミュニケーション物質 |
研究開始時の研究の概要 |
FCsの標的タンパク質は未だ同定されていない。また、キノコ発生に関わる化学分子も芝から分泌される可能性が極めて高いが、特定には至っていない。本研究では、①FCs標的タンパク質の同定とシグナル伝達の解明、②芝が分泌するキノコ形成物質の探索とその機能解析、③芝と菌類と土壌微生物間の相互作用に関わる化学コミュニケーション物質(植物成長調節物質、子実体形成誘導物質など)の探索とその機能解析を実施することによって、フェアリーリング病の発生機序に関わる分子機構の全貌を明らかにする。
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研究実績の概要 |
フェアリーリングとは、シバが環状に繁茂、枯死した後キノコが発生する現象である。当研究室では、本現象の惹起物質としてコムラサキシメジから2-azahypoxanthine(AHX)とimidazole-4-carboxamide(ICA)を、イネから2-aza-8-oxohypoxanthine(AOH)を見出し、フェアリー化合物(fairy chemicals:FCs)と称している。また、キノコ発生に関わる化学分子も芝から分泌される可能性が極めて高いが、特定には至っていない。ベントグラスの根の酢酸エチル抽出物にコムラサキシメジ菌糸体成長促進活性を見出し、活性物質の単離・構造決定を行なっている。コムラサキシメジに8個存在するNO synthase(NOS)の中で高発現していた4つの組換えNOSが産生するNOがAICAに非酵素的に取り込まれ、AHXが生成することが明らかになった。芝と菌類と土壌微生物間の相互作用に関わる化学コミュニケーション物質の探索を行った。そのために、ノシバとフェアリーリング現象を引き起こすコムラサキシメジなどとの共存培養を行うことでフェアリーリング現象の本質的な解明を試みた。寒天培地でのノシバとコムラサキシメジの共存培養では、表現型と重量測定の結果から、ノシバとコムラサキシメジがお互いに相手の成長を促進することがわかった。また、共存培養を行うことでノシバからFCsが検出された。特にAOHが多量に蓄積していたことから、共存培養を行うことでノシバ地上部の成長促進にはAOHが関与していると考えられる。寒天培地でのノシバとカラカサタケとの共存培養では、ノシバおよびカラカサタケの成長に影響はなかった。土壌でのノシバとコムラサキシメジの共存培養では、ノシバ地上部の成長が促進された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、フェアリーリング現象の化学的基盤に焦点を当て、この現象が起こる理由とその誘発物質についての深い理解を示している。主に、シバ(ノシバとベントグラス)とキノコ(コムラサキシメジ)間の相互作用と、それに伴う特定化合物の発見が研究の進展に寄与している。 1)生物間の相互作用の研究: コムラサキシメジとノシバの共存培養を行い、それぞれの生物が相手の成長を促進することを確認した。この共存培養から、ノシバからFCsが検出されることも確認され、相互作用が化合物の産生に寄与していることが明らかになった。 2)土壌微生物との関連性: 土壌から単離した94種の菌の中で14種がAHXからAOHへの変換活性を示し、これは土壌微生物がフェアリーリング現象において重要な役割を担っていることを示唆している。ある菌株は高濃度のAHXでもAOHに変換する能力があり、この活性がフェアリーリングの形成に寄与している可能性がある。 3)実験方法と進捗: 寒天培地での実験を通じて、ノシバとキノコの相互作用を効果的に研究した。また、土壌での共存培養では、ノシバの地上部の成長が促進されたことから、実際の環境条件下でのフェアリーリング現象の再現にも成功している。 これらの成果は、フェアリーリング現象に対する科学的理解を深め、関連する化合物の生物学的および化学的な性質を解明することに成功している。このような体系的なアプローチが研究の進展を促し、土壌生態系と微生物間の相互作用に新たな光を当てることができている。
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今後の研究の推進方策 |
最終的にはフェアリーリング病の発生機構の全容解明を目指しており、課題① FCs標的タンパク質(受容体?)およびシグナル伝達因子の同定、課題② 芝から子実体形成物質の探索とその作用機構、課題③ 生物間化学コミュニケーションによってのみ産生する物質の探索とその作用機構を明らかにすることが目的である。そこで、課題①を明らかにするために、M2種子集団から、AICAと各FC(ICA, AHX, AOH)に非感受性の変異株を複数単離する。またシグナル伝達因子の変異株であれば、フィードバック制御によってFCs生合成が惹起されて過剰量のFCsが蓄積している可能性があるため、内生FCs量にも注意してシグナル伝達因子の変異株候補を選抜する。課題②のために本研究ではこの活性を指標にして各種クロマトグラフィーにより活性物質を精製し、NMRで構造を決定する。得られた活性物質がフェアリーリング形成菌類および非形成菌類に対して活性を示すか否かを調べ、活性物質が特異的に効果を示すのかを検討する。さらに、同様の方法でノシバとベントグラスに存在する子実体形成を誘導する物質を探索し、子実体を人工的に発生させるポット栽培法を用いて、子実体形成における効果を検証する。課題③ についても、今後、コムラサキシメジとは別にフェアリーリング現象を引き起こす菌および、フェアリーリング現象を引き起こさない菌を用いてのバイオアッセイ、代謝産物の探索、遺伝子差発現解析を無菌および非無菌環境で行うことで、フェアリーリング現象の本質的な解明が行なえる。
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