研究課題/領域番号 |
23K27025
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補助金の研究課題番号 |
23H02332 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分41040:農業環境工学および農業情報工学関連
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
松嶋 卯月 岩手大学, 農学部, 准教授 (70315464)
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研究分担者 |
伊藤 大介 京都大学, 複合原子力科学研究所, 助教 (30630024)
齊藤 泰司 京都大学, 複合原子力科学研究所, 教授 (40283684)
大平 直也 京都大学, 複合原子力科学研究所, 助教 (60881084)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,070千円 (直接経費: 13,900千円、間接経費: 4,170千円)
2027年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2026年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2025年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 8,320千円 (直接経費: 6,400千円、間接経費: 1,920千円)
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キーワード | 植物水分生理 / 塩ストレス / 水ポテンシャル / コマツナ / 馴化 / 灌水法 / 養液栽培 / もみ殻培地 |
研究開始時の研究の概要 |
地球に存在する水の97.5%は海水とされているため,海水を農業に利用できれば生産性が向上する.本研究の最終的な目的は,もみ殻培地をもちいた塩水湛水栽培を,海水を利用した新たな水耕技術として確立することである.そのために,本方法で植物が塩ストレスに馴化するメカニズムを解明する.本研究では,上記の必要要件について,まず,コマツナ根の馴化については「高濃度塩水の養液でも生体機能を維持できるか?」から,また,生長の持続性については「光合成できるか,合成された糖が生長点に移動するか」を明らかにする.
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研究実績の概要 |
本研究は海水に近い3%程度の塩水の利活用する新たな水耕技術の確立を目指したものであり、植物の持続的な生育可能性に焦点を当てた二つの主要な研究目的から成る。 第一の研究目的は、高濃度塩水の養液中でも植物の根が生体機能を維持できるかを検証することであった。この研究において、根が整体機能を保持するために必要な湿潤領域が塩濃度によって変化するかを調査し、塩濃度がもみ殻培地の毛管上昇による平均湿潤高さに影響を与えないことが確認された。特に、植付区では非植付区に比べて平均湿潤高さが有意に高く、湛水に塩が含まれると根による水の再配分(Hydraulic lift)が促進されることが明らかになった。 第二の研究目的では、塩水湛水栽培環境下でのコマツナの光合成速度と生長点への糖の転移が持続するかを調べた。まず,強度の異なる光環境下での光合成速度とクロロフィル蛍光の反応を観察し、塩水区における光化学系Ⅱの機能低下が見られなかったことから、塩分ストレス下でもコマツナの光合成能力が保たれる可能性が示唆された。また、気孔の開度に関する調査から、塩水区では対照区に比べて気孔の開度が有意に低く、これが水分蒸発の抑制に寄与し,同時に光合成速度を低下させることが確認された。一方,生長点への糖の転移については,塩水処理後の葉位ごとの糖分と塩分の分布を解析し、塩に対する慣化過程を詳細に調査した。その結果、下位葉や中位葉が先に耐塩性を獲得し、それが上位葉の耐塩性獲得に影響を与えることが明らかになった。 以上の結果から、本研究は塩水湛水栽培技術の潜在的な有効性が示された。しかし,塩水湛水下における気孔開度の減少にはCO2施用や,塩水湛水下でも気孔が閉じない植物の利用など,何らかの方策が求められる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度までの科学研究費における進捗状況は以下の通りである。 研究開始から現在までの主な活動は、計画通りに進行している。具体的には、2023年に予定されていた4つの研究を実施した。まず、もみ殻培地中の湿潤領域が塩濃度によってどのように変化するかについての調査を行った。その結果、データ解析が行われ、卒業論文研究としてまとめられた。次に、コマツナ根内部の水移動を可視化するために中性子CTを用いる方法を試みた。同様にデータ解析が行われ、京都大学複合原子力科学研究所報告としてまとめられた。また、異なる強度の光に対する光合成速度とクロロフィル蛍光の反応を観察し、その一部については日本農業気象学会で研究発表を行った。残りのデータについては現在解析中である。最後に、コマツナの葉位ごとの水と塩の分布、およびBrixとの関係について調査を行い、その結果も卒業論文研究としてまとめられた。また、得られた数値や画像データは統計処理ソフトウェアRを用いて解析され、初期結果は成果概要に示された。 遭遇した問題とその解決策についても述べる。まず、もみ殻培地中の乾燥領域と湿潤領域にまたがって分布するコマツナ根を画像処理で区別することが難しいという問題があった。この問題に対処するため、根に蛍光試薬を注入し紫外線を当てて発光させる方法を採用した。また、2023年の8月と9月の気温が高くなり、プラスチックハウス内でのコマツナが日焼けやしおれを起こした。この問題に対処するため、ハウス内での暑さ対策として打ち水などを行うことが計画されている。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度以降の研究の推進方策について述べる。 まず、塩水湛水下のコマツナ根にとって生長可能な培地領域の存在を明らかにするために、以下の方法を新しく用いる。根の位置をX線CTで明らかにし、もみ殻培地中における分布の性質を調査する。同時に、根が培地に水を再配分していることを確認するために、重水トレーサを用いた中性子CTを行う。水の位置を特定するためには現状、重水トレーサが有効であるが、共同研究の京都大学複合原子力研究所では、X線CTと同時に中性子CTを行うことが可能である。 その後、確認された位置の培地を採取し、ECおよびNa濃度を測定することで、塩の輸送状況を調査する。その上で、X線CTおよび中性子CTで得られた根の空間分布と、塩および水の分布との関係について明らかにする。予備実験を行った結果、X線CTと中性子CTの空間上の位置を一致させるのが難しかった。その問題を解決するために,培地中に位置合わせ用の小型指示器を設置することで問題に対処する。 次に、塩水湛水下のコマツナ葉が光合成を行い生長しているかを明らかにするために、以下の研究を遂行する。まず、呼吸速度およびクロロフィル蛍光を測定し、光合成の活性を確認する。さらに、塩水湛水処理後の葉にC13を与え、光合成産物の固定状況を調査する。同時に、浸透圧と水ポテンシャルを測定し、ストレスが光合成に与える影響を評価する。また同様の実験をコマツナ根でも行う。コマツナ根の場合は,塩水湛水栽培後のコマツナ根にC13を与え、重水トレーサで水の再分配を確認した部分の根に固定されたC13の存在を確認することで、生長の有無を調査する。さらに、根部分の呼吸速度を測定し、生長と環境ストレスとの関係性を明らかにする。最後に、染色法を用いて根の生死を判別し、塩ストレスに対する遺伝子的変化をPCRを用いて検査する。 以上が、今後の研究の推進方策である。
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