研究課題/領域番号 |
23K27075
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補助金の研究課題番号 |
23H02382 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分42020:獣医学関連
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
海野 年弘 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (90252121)
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研究分担者 |
酒井 洋樹 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (40283288)
齋藤 正一郎 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (60325371)
棚橋 靖行 京都産業大学, 生命科学部, 准教授 (60582418)
松山 勇人 岐阜大学, 応用生物科学部, 准教授 (80345800)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
15,730千円 (直接経費: 12,100千円、間接経費: 3,630千円)
2026年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2025年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2024年度: 6,110千円 (直接経費: 4,700千円、間接経費: 1,410千円)
2023年度: 6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
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キーワード | 過活動膀胱 / 前立腺肥大 / リモデリング / マウスモデル / ムスカリン受容体 |
研究開始時の研究の概要 |
前立腺肥大に伴う下部尿路閉塞では、外来神経を介した膀胱の収縮・弛緩反応および膀胱上皮細胞による膀胱内圧の感知機構が機能的に変化することにより、膀胱肥大をはじめとするリモデリングが起こり、尿失禁や頻尿を主徴とする過活動膀胱の症状を呈する。本研究では、過活動膀胱の病態発現に関わるリモデリング機構を明らかにするため、マウスの過活動膀胱モデルを作製し、膀胱にどのようなリモデリング機構が働くことにより過活動の状態になるのか、神経、平滑筋および間質細胞の時間的機能変化の側面からアプローチする。これらの検討により、過活動膀胱の治療に有効な新規治療薬候補を探索する。
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研究実績の概要 |
本研究では、膀胱にどのようなリモデリング機構が働くことにより過活動膀胱の状態になるのかを明らかにするため、膀胱における各種神経の支配様式、膀胱平滑筋における神経伝達物質受容体、イオンチャネル、ギャプジャンクションの分布および機能、間質細胞やマクロファージの分布および機能が、病態のステージとともにどのように変化するのかを総合的に検討する。また、挑戦的な課題として、膀胱の肥大が進行すると発現する未知神経を介した収縮反応の実態を解明する。これらの検討により、過活動膀胱の治療に有効な新規治療薬候補を探索する。 今年度に得られた成果の概要は以下の通りである。①尿道狭窄によるマウスの過活動膀胱病態モデル(Bladder Outlet Obstruction:BOOモデル)を作製し、その7日後(前期)、2週間後(中期)、および4週間後(後期)に膀胱重量、排尿動態を確認した結果、コントロール群(sham群)と比較して膀胱重量の増加、排尿回数の増加、1回排尿量の低下が経時的に認められ、過活動膀胱モデルを適切に誘導できたことが確認できた。②BOOモデル群の組織像を解析した結果、内皮細胞および平滑筋の異常な増殖は認められなかったが、漿膜側では線維性結合組織の増生が認められ、膀胱壁の肥厚が生じていた。③膀胱標本において経壁電気刺激により内在神経を刺激して誘発した収縮反応を記録、解析したところ、コリン作動性神経性の収縮反応は、sham群と比較してBOOモデル群において有意に増大しており、コリン作動性神経の伝達機構においてリモデリングが生じていることが示唆された。④膀胱および前立腺におけるコリン作動性収縮反応にどのようなイオンチャネルが関与しているか解析した結果、transient receptor potential melastatin (TRPM) 4チャネルの関与が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、当初予定していたBOOモデルの確立とモデルを用いた実験項目をおおむね終了することができた。マウスのBOOモデルでは、ラットのBOOモデルで報告されているような膀胱の肥大および膀胱機能の変化が認められ、モデルとして適切であることが確認できた。また、BOOモデルではコリン作動性神経を介した収縮反応の増大が認められ、この変化が過活動膀胱の病態発現に重要であることが示唆された。 一方、当初研究計画に予定していた、細胞間の興奮伝播に重要なギャップジャンクション(コネキシン)の発現量および機能の変化に関する検討は実施できなかった。これは選定した抗体が機能しなかったためであり、この点については次年度に引き続き検討する予定である。また、間質細胞およびTRPM4チャネルに対する抗体を用いた免疫組織化学実験については、抗体の反応性が弱かったため、別の抗体を使用して再度検討する予定である。 膀胱および前立腺におけるコリン作動性収縮反応の発現にTRPM4チャネルの関与が認められた。前立腺肥大では、その後に過活動膀胱の状態へ移行する症例が多いため、これまで前立腺肥大の治療薬として用いられてきたα1アドレナリン受容体遮断薬とは異なる治療薬として、このイオンチャネルが標的となる可能性を提示することができた。TRPM4チャネルの遮断は膀胱の収縮反応も抑制しうるので、このチャネルの拮抗薬は前立腺肥大に伴う過活動膀胱の新たな治療薬となり得ると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
膀胱におけるコリン作動性神経性の収縮反応が増大していたことから、そのメカニズムを明らかにすることが非常に重要である。収縮反応の増大が、神経性の要因であるのか(支配神経ネットワークの増加、伝達物質放出量の増加等)、あるいは平滑筋側の要因であるのか(ムスカリン受容体数の増加、同受容体の細胞内情報伝達機構の変化等)についてさらに解析を進める予定である。また、膀胱においてコリン作動性神経とともに興奮性支配をしているプリン作動性神経を介した収縮反応がどのような影響を受けているのか、今後検討を加える。 膀胱および前立腺におけるコリン作動性収縮反応にTRPM4チャネルの関与が示唆されたので、このチャネルの機能や分布密度が、BOOモデル群において変化しているのかどうか、免疫組織科学的手法および薬理学的手法を用いてアプローチする。また、TRPM4チャネルが過活動膀胱の病態発現に関わっているかどうかをさらに追及するため、同チャネルのノックアウトマウスを用いてBOOモデルを作製し、病態の進行や発現の程度がどのような影響を受けるのか、検討する予定である。さらに、transient receptor potential canonical (TRPC)4チャネルおよびpiezo1チャネルについても、収縮反応の発現に関与しているのか検討する。 コリン作動性収縮の発現には、TRPM4チャネルをはじめとする陽イオンチャネルの活性化による細胞膜の脱分極、およびその後の活動電位放電頻度の増加が重要であるが、その他にも収縮タンパク系のCa2+感受性を増加させる経路も関与しており、この経路についてもBOOモデル群でどのような影響を受けているのか、検討を加える予定である。Ca2+感受性を増加させる経路については、収縮反応と細胞内Ca2+濃度の同時測定法を用いて解析する。
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