研究課題/領域番号 |
23K27091
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補助金の研究課題番号 |
23H02398 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分42030:動物生命科学関連
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研究機関 | 麻布大学 |
研究代表者 |
大我 政敏 麻布大学, 獣医学部, 講師 (40644886)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,720千円 (直接経費: 14,400千円、間接経費: 4,320千円)
2026年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2025年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2023年度: 7,280千円 (直接経費: 5,600千円、間接経費: 1,680千円)
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キーワード | 円形精子細胞注入 / エピゲノム / 低産仔率改善 / 円形精子細胞 / エピゲノム異常 / 円形精子細胞注入胚 |
研究開始時の研究の概要 |
円形精子細胞は減数分裂直後の雄性配偶子であり、精子を作ることができずに不妊に苦しむ男性であっても有する可能性があり、彼らの不妊治療の最後の頼みの綱となる。つまり、この円形精子細胞細胞を未受精卵へ注入することで、子供を得ることができるのである。しかしながら、その成功率はマウスを用いた場合で20%程度であり、成熟した精子を注入した場合と比較して3分の1程度と極めて低い。そのため、この技術の普及は妨げられている。本研究では、これまでに我々が見出したエピゲノムの異常を修正することで、円形精子細胞注入胚の低い産仔作出効率を改善することを試みる。
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研究実績の概要 |
まず、Histone H3.3のKM変異体 (H3.3K27M)の過剰発現によって、1細胞期Round spermatid injection (ROSI)胚におけるH3K27me3の異常な高メチル化の修正を確認することができた。そこで、エピゲノム異常修正によるROSI胚の発生率がIntracytoplasmic sperm injection(ICSI)胚と同等レベルまで向上するかを調べた。まだ未確定ではあるが、H3.3K27M をコードするmRNAの導入タイミングを受精前にした場合、胚発生に対する阻害効果が見られてしまった。一方、受精後に行った場合は胚発生の阻害作用を回避できた。この方法でも胚盤胞期までの発生では胚発生率の改善は見られなかったが、今後は胚移植を行い、着床後胚発生を検証する必要がある。まだ少数であるがROSIによる産仔作出には成功したので、検証の系は概ね確立できたと考えている。 他に、ROSI胚におけるH3K27me3の異常性が、本当にround spermatidからのエピゲノムの持ち込みによるのかを調べた。具体的には、メチル化反応の際のメチル基のドナーとなる、S-adenosylmethionine (SAM)の合成経路を阻害するCBR-5884(CBR)処理をしたROSI胚についてH3K27me3の免疫染色を行った。結果は予想に反して、CBR処理はH3K27me3の大幅な減少を生じていた。持ち込みであれば、SAMを消費するde novoのメチル化に依存しないはずであるが、CBR処理によって顕著に減少したため、異常なH3K27me3はROSI胚中でde novoに生じたメチル化であることが示唆された。これまでは、持ち込みであると想定していたため、脱メチル化活性を優勢にするためにH3.3K27M変異体を用いて来た。しかしながら、CBRを用いた実験から必ずしもこの観点が最適でない可能性を見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍後の不妊治療ニーズの高まりにより、ROSI胚作成のための顕微鏡関連機器の材料不足が生じた。その結果、今年度は本研究に必要な機器の購入に歯止めが掛かってしまった。年が明けてからようやく機器の納品がなされ、ROSI胚を作成できる機器のセットアップが完了した。今後はより速やかに必要なデータが収集できるようになるはずである。上記のように当研究室でもROSI胚の産仔を得られるようになったことは大きな進捗である。 加えて、上記のように当初計画していたアプローチではROSI胚のエピゲノム修正は達成できたが、胚発生の改善は認められなかった。そのため手法の検討が必要となったため、やや遅れているかとも考えた。しかし、CBRを用いた実験から、試すべきアプローチ方法の選択肢が一挙に増え、まだまだ目標を達成できる可能性は残されている。また、H3K27me3をTSA処理により改善する試みや、新たにH3K36me3が顕著な異常として見出すことができたことを論文として発表することができた(Ooga et al., 2023)ので、総合的には概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
上記では1細胞期のROSI胚において、異常なH3K27me3の修正ができたと述べたが、実際には、H3.3K27Mによる脱メチル化作用が2細胞期になっても過剰に働いてしまい、低メチル化状態となる新たなエピゲノム異常を生じる結果になってしまった。胚発生率が向上しなかったのは、この低メチル化が影響をしているのかは定かではないが、この低メチル化状態は回避すべきである。また、CBRを使用した実験からROSI胚におけるH3K27me3の異常な高メチル化は、単純なround spermatidからの持ち込みだけでは説明できないと考えることができる。このことは、脱メチル化活性を増強するアプローチだけでなく、メチル化活性を阻害するアプローチの有効性を示唆している。そこで今年度は、H3K27me3のメチル化反応を触媒する、メチル化酵素(EED)をごく短時間で分解することができ、さらにその分解の解除を容易に行えるProtac EED degrader-1のROSI胚の胚発生向上効果について検証を行う。なお、卵子由来側のH3K27me3は、CBRを用いた予備実験から、1細胞期の間にはde novoのメチル化反応に対する依存性が低いことがわかっているため、Protac EED degrader-1によるメチル化酵素阻害による影響は僅少であろうと期待している。一方で、RNA-seq解析の結果から、ROSI胚ではH3K27me3に対する脱メチル化酵素であるKdm6bの発現量がICSI胚の半分程度であることが分かっている。この低発現のせいでH3K27me3が異常な高レベルになっている可能性もあるので、Kdm6bの強制発現もエピゲノム修正のアプローチとして検証していく。
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