研究課題/領域番号 |
23K27099
|
補助金の研究課題番号 |
23H02406 (2023)
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分43010:分子生物学関連
|
研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
河村 幸男 岩手大学, 農学部, 准教授 (10400186)
|
研究分担者 |
高橋 大輔 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (20784961)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
18,850千円 (直接経費: 14,500千円、間接経費: 4,350千円)
2026年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2025年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2024年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2023年度: 8,190千円 (直接経費: 6,300千円、間接経費: 1,890千円)
|
キーワード | 植物 / 凍結による馴化 / シグナル経路 / 凍結耐性向上メカニズム / 凍結馴化 / 葉緑体 / フォトトロピン / ファイトクロム / 凍結誘導性カルシウムシグナル / RNA-seq解析 / 越冬 / カルシウム |
研究開始時の研究の概要 |
零下の冬を越冬できる植物は、晩秋からの低温を感知することにより馴化し、凍結耐性を強める。さらに低温馴化した植物は、軽い凍結を経験すると更に凍結耐性を上昇させる。この凍結による馴化の研究は、室内実験でその環境を作る事が非常に難しく、分子レベルの研究はほとんど進んでいない。本課題では、植物の越冬中に凍結耐性を大幅に上昇させる凍結による馴化とその分子メカニズムの解明を目的に、1)凍結馴化を引き起こすシグナル経路の解明、2)凍結機械ストレスに着目した凍結耐性向上メカニズムの解明、3)RNA-seq解析による凍結馴化におけるCBF/DREB1s経路の解明および新規の凍結耐性因子の探索、で研究を進める。
|
研究実績の概要 |
1年目の2023年度は、1)凍結馴化の基礎的な解析、2)凍結誘導性カルシウムシグナルの解析、3)光受容体に関する解析、4)葉緑体からのシグナルに関する解析、5)RNA-seq解析による凍結馴化プロセスの解析、を進めた。凍結馴化の基礎的な解析では凍結馴化が生じる条件を検討し、本研究により初めて、凍結そのものが高い凍結耐性を誘導するための必須のトリガーであることを明らかにした。更に、凍結馴化は暗所よりも光条件下の方がより凍結耐性が上昇する一方で、日長の影響を受けないことを示した。光条件下での凍結馴化は非常に高い凍結耐性をもたらす。そこで、その分子メカニズムを明らかにするために、複数の実験を行った。まず、光受容体であるクリプトクロムやフォトトロピン、ファイトクロムの欠損株を用いて解析を行ったところ、phot1phot2欠損株およびphyB欠損株に機能欠損が観察された。次に、葉緑体の影響を見るために、DCMU阻害剤実験および葉緑体シグナルに関与するCSKおよびCAS欠損株を用いて実験をしたところ、DCMU阻害剤のみ影響が観察された。以上より、光条件下での凍結馴化では、光受容体および葉緑体の両方が関与することが示された。カルシウムシグナルに関しては、まず、阻害剤が凍結耐性試験においても有効であるかを、カルシウムシグナルが確実に発生する低温馴化条件において確認を行った。次に、低温顕微鏡およびG-CAMPカルシウムセンサータンパク質を用いた植物非破壊での凍結誘導性カルシウムシグナルの解析で、凍結によりカルシウムシグナルが誘導されることを確認した。RNA-seq解析では、光条件下での凍結馴化において、特に糖代謝に興味深い変化が観察された。以上の結果の一部は、Frontiers in Plant Physiology誌およびPlant, Cell & Environment誌に掲載された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1から2年目においては、計画では、1)凍結誘導性カルシウムシグナルの薬理学的および遺伝学的解析、2)低温顕微鏡による凍結誘導性カルシウムシグナルの解析、3)DCMUを用いた葉緑体でのシグナルに関する解析、4)細胞壁遺伝子欠損株を用いた生理学的実験、を予定していた。基礎実験より凍結馴化プロセスにおいて光が重要な役割を果たすことが明らかになったため、まず、葉緑体シグナルに関する解析を重点的に行った。3のDCMUを用いた解析はほぼすべて終了し、DCMUの効果が凍結耐性の低下だけでなく、凍結下での2次元クロロフィル蛍光観察においてもその効果が見られ、光化学系II以降の電子伝達が凍結馴化プロセスに非常に重要であることが示せた。さらに、光の効果を解析するに、2年目以降に予定をしていた青色光および赤・遠赤色光センサー欠損株を用いた解析、および、葉緑体シグナルに関与するCASおよびCSK欠損株を用いた解析を進めた。その結果、フォトトロピンおよびフィトクロムの関与のみが観察された。さらに、3年目以降に行う予定であったRNA-seq解析による新規凍結耐性因子の探索を行い、糖代謝に興味深い因子を見いだせた。1および2の凍結誘導性カルシウムシグナルの解析に関しては、まず、低温顕微鏡を用いた凍結シグナルの観察から始めた。その結果、インタクトな植物を凍結させたところ、カルシウムシグナルの発生が葉から確認され、さらに、mca1mca2欠損株ではトライコーム以外でのカルシウムシグナルの発生が激減した。しかし、mca1mca2欠損株は凍結馴化化後の凍結耐性への影響は僅かにしか観察されなかった。今後、カルシウムシグナル阻害剤を用いて更に検討する予定である。4の細胞壁に着目した凍結耐性向上メカニズムの解明は、欠損株を入手し2年目より解析を順次行う予定である。以上より、概ね順調に研究が進んでいると判断をした。
|
今後の研究の推進方策 |
2年目の本年度は、計画では、1)凍結誘導性カルシウムシグナルの解析、2)葉緑体からのシグナルに関する解析、3)青色光および赤・遠赤色光センサー欠損株を用いた解析、3)細胞壁およびSYT1に着目した凍結機械ストレス耐性向上メカニズムの解明、4)cbf1~3欠損株における凍結馴化とその解析、を予定していた。いくつかの実験に関しては、既に終了し、葉緑体シグナルに関する実験は計画していたものはすべて終了した。また、青色光および赤・遠赤色光センサーに関しても同様であり、フォトトロピンおよびフィトクロムの関与が明らかとなった。一方で、凍結機械ストレスに着目した凍結耐性向上メカニズムの解明が不十分であるため、本年度は、特に、この点に力点を置いて進めていく予定である。入手したいくつかの細胞壁遺伝子の欠損株は、元の野生株を入手できなかったため、まず、当研究室で使用している野生株とのバッククロスを複数回行う予定である。また、これら細胞壁遺伝子欠損株とsyt1欠損株との二重変異体の作出も進める。これらの変異体作出を進めながら、凍結馴化における細胞壁の役割を検討するために、細胞壁のないプロトプラストを用いた凍結耐性試験を行い、生理学的実験からも細胞壁の役割を検討する予定である。3つのCBF遺伝子は、凍結馴化においてもその初期プロセスで発現することがqPCRにより確認をしているが、低温馴化過程よりもその発現時間は長時間に渡っていた。一方、cbf1~3欠損株を用いた予備的な実験では、凍結馴化後の凍結耐性において大きな変化は観察されなかった。今後、cbf1~3欠損株凍結耐性試験をさらに行い、その生理学的効果を確認すると同時に、CBFおよび下流遺伝子の発現解析もそれぞれの欠損株で行い、凍結馴化におけるCBFの役割を検討していく予定である。
|