研究課題/領域番号 |
23K27140
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補助金の研究課題番号 |
23H02447 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分43040:生物物理学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小嶋 誠司 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (70420362)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,330千円 (直接経費: 14,100千円、間接経費: 4,230千円)
2026年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2025年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 5,720千円 (直接経費: 4,400千円、間接経費: 1,320千円)
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キーワード | 細菌べん毛 / 固定子 / 活性化型構造 / イオンチャネル / モーター |
研究開始時の研究の概要 |
全ての生物は、細胞膜を介したイオンの電気化学勾配エネルギー(イオン駆動力)を膜蛋白質により変換して、多様な生命現象に利用している。我々は、細菌がイオン駆動力を利用して運動器官のべん毛を回転させる仕組みの解明を目指している。べん毛は基部に存在するモーターにより回転し、そのエネルギー変換装置である固定子の回転がギアのように回転子に伝搬してモーターを駆動する「固定子回転モデル」が提唱されている。しかしモーターに組込まれて活性化し機能する固定子の実態は未だ明らかではない。本研究では、活性化固定子の性質、特にイオン透過特性や活性制御の仕組み、及び活性化後の固定子構造安定化の解明に挑む。
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研究実績の概要 |
細菌はべん毛を根元のモーターにより回転させ溶液中を遊泳し、固体表面を遊走する。モーターのエネルギー変換装置である固定子は、回転子周囲の細胞壁に固定され活性化するとイオンを流し、回転子と相互作用してモーターを駆動する。本研究では、活性化型固定子変異体を起点とした精製標品と生細胞の解析から、未だ不明な活性化固定子の性質、特にイオン透過特性や活性制御の仕組み、及び活性化後の固定子構造安定化の解明を目指している。本年度は、1) ビブリオ菌Na+駆動型PomA/PomB固定子の精製と人工膜小胞への再構成、2) PomBのリンカー領域を欠失させた変異体の特徴づけ、3) ビブリオ菌側べん毛のH+駆動型LafT/LafU固定子欠失株の作出と特徴づけ、の3点について研究を進めた。1)については、精製したPomA/B固定子について大腸菌の脂質やレシチンを使った人工膜小胞(リポソーム)へ再構成を試みたが、その多くが固定子細胞質領域をリポソーム内腔へ向けておらず、蛍光指示薬Sodium Greenを用いたNa+流の検出には成功しなかった。2) については、PomBのプラグ領域からペプチドグリカン結合(PGB)ドメインまでの80残基を削っても安定且つ充分量の固定子が発現し、わずかながら機能的であることを見出した。機能が回復する変異体を単離したところ、PomBとの相互作用が予想されるPomAの第1膜貫通領域のペリプラズム側の残基に変異同定された。この成果は論文にまとめて発表済みである。3)については、側べん毛の推定固定子をコードする遺伝子lafT/lafUを欠失させたビブリオ菌株を作成したところ、予想通り側べん毛による遊走能が完全に失われ、lafT/lafU遺伝子をプラスミドから発現させることで遊走能が回復することを見出し、側べん毛固定子の実体がLafT/LafU複合体であることを検証できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では大きく分けて3つの課題(1. 活性化型固定子のイオン透過能を測定する、2. 活性化の一連の過程(Aサブユニットの細胞質側で生じた構造変化シグナルによりプラグが開き、PEM構造が変化してPG層に結合する)の分子メカニズムを明らかにする、3. 活性化型構造は安定化されるかどうかを検証する)を掲げている。総合的にみてまずまずの達成度と考えている。1)について、昨年度は有意なNa+流の検出には至らなかったが、PomBのC末端側に付加したStrept-TagIIタグによりこれまでより純度の高いPomA/PomB固定子を精製できるようになり、サンプル調製法は確立できた。またHisタグを用いて精製した固定子は、純度が低いせいか高速AFMで明確な像として観察できなかったが、Strept-TagII精製した標品はダンベル様の粒子として明瞭に観察できており、構造変化のリアルタイム観察にも今後期待が持てる。2)に関しては、PomBのリンカー領域を80残基欠失させると固定子のモーターへの組み込みが大きく低下することから、組み込みシグナルに関与する部位の同定を期待して、運動能を回復した抑圧変異の単離を行った。残念ながら、回転子側やPomAの細胞質側に変異を同定することはできなかったが、構造上プラグ領域に近いPomAの残基に変異が同定されたことから、プラグ近傍の構造変化が活性化シグナルを担う可能性を考えている。3)に関しては、活性化型固定子を安定化すると考えられているFliLの影響を、より明確に検出可能な側べん毛LafT/LafU固定子をクローン化し、欠失株を得ることができた。現在、サルモネラMotA/MotB固定子複合体で同定されている活性化変異(L119P(MotB))に相当する変異をLafUに導入し、活性化型固定子とFliLの相互作用を、変異体を用いて解析する準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
PomA/PomB固定子については、プラグ領域の構造を化学修飾することで変化させ、イオン透過能を活性化することに細胞内で成功している。精製標品ではまだこの実験に成功できていないが、リポソームへの適切な再構成が成功の鍵を握ると考えている。昨年、学会や研究会にて広く情報交換を行うことで、リポソーム形成方法やNa+蛍光指示薬の取り扱いについて多くの助言をいただくことができた。本年度は得られた助言を生かし、リポソームへの適切な再構成法をまず確立したい。また、Na+透過能を検出するには膜内外に十分なイオン駆動力を形成する必要がある。昨年度はチオシアン酸ナトリウムを用いてNa+駆動力の形成を試みたが成功しなかった。今年度はK+-バリノマイシンの系を用いて駆動力形成を試みる。固定子の活性化に伴う構造変化に関しては、高速AFMを用いたリアルタイム観察に加え、初年度に行えなかった活性化型固定子のペプチドグリカン結合能の検討を行いたい。H+駆動型LafT/LafU固定子と、Na+駆動型PomA/PomB固定子では活性化型構造が異なる可能性があり、活性化変異体をさらに単離しながら、クライオ電顕による立体構造解析も念頭において、特徴づけを進めたい。またFliLが活性化型固定子の構造を安定化させる可能性については、FliL/LafT/LafUの三重欠失株を用いて研究を進める。活性化変異固定子、野生型/変異FliLを様々に組み合わせて三重欠失株に発現させ、機能と相互作用を解析し、結合部位の同定や安定化への寄与を生化学的に検討する。FliL/LafT/LafU複合体の精製を試み、クライオ電顕による単粒子解析により構造の解明にも挑みたい。
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