研究課題/領域番号 |
23K27196
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補助金の研究課題番号 |
23H02504 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44030:植物分子および生理科学関連
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
菓子野 康浩 兵庫県立大学, 理学研究科, 准教授 (20221872)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
19,110千円 (直接経費: 14,700千円、間接経費: 4,410千円)
2025年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2024年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2023年度: 9,880千円 (直接経費: 7,600千円、間接経費: 2,280千円)
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キーワード | 光化学系II / アカリオクロリス / 遠赤色光 / クロロフィルd / 天然光合成 |
研究開始時の研究の概要 |
海洋性シアノバクテリアAcaryochlorisの仲間は、酸素発生反応の場となる光化学系II(系II)の主要色素が例外的にクロロフィル (Chl)dであり 、可視光ではなく遠赤色光で駆動される。本研究では、Acaryochloris marina系IIの構造を原子レベルで明らかにして、エネルギーの低い遠赤色光で系IIの光化学反応が可能となる仕組みを明らかにする。また、分光学的特性が異なる他のAcaryochloris属6株について、それぞれの生存戦略と合 わせ、タンパク質構造の相異を比較検討する。これらを通して天然光合成の動作原理をより深く理解し、効率的な人工光合成設計にも資する。
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研究実績の概要 |
Acaryochloris marinaから、より穏和な光化学系II(系II)複合体の精製法の開発に取り組んだ。数々の検討にも関わらず、酸素発生活性を保持した標品を得ることができなかったため、まずアカリオクロリスの光合成の特徴である遠赤色光を捉えて光合成を行う仕組みの解明に力点を置いた構造解析を進めることにした。その結果、光化学反応活性を保持し、クライオ電子顕微鏡(CryoEM)での高解像度構造解析に耐える良好な標品を得ることができた。CryoEM解析を行い、3Aを切る良好な分解能を得ることができた。初期評価により、反応中心複合体2量体に4つの光捕集色素タンパク質が結合していて、18のサブユニットタンパク質で構成されていること、マンガンは結合していないことが確認された。また生化学的解析を進め、CryoEM構造解析を支援した。一方、CryoEM解析により、他種系II複合体には含まれない未知のタンパク質の存在が明らかとなり、部分的なアミノ酸配列も得られた。その部分的配列とMS分析により、ゲノム解析では想定されていなかった新規タンパク質を突き止めた。 結合クロロフィル分子は、暫定的に単位複合体あたり102分子であった。また、高分解能CryoEM解析とHPLC分析により、これまでの系II複合体構造の報告では例のないゼアキサンチンの存在が明らかになった。構造解析でのプラストキノンの側鎖の長さの不確定さを、HPLC解析により解決した。 この研究により、アカリオクロリスの系II複合体構造の高分解能データを得ることができた。さらに構造精密化を進めることにより、遠赤色光を使って光合成を行うための光捕集機能や捉えた光エネルギーの伝達経路の解明に繋げることができる。また、可視光よりも低いエネルギーを使って、可視光を使う他の酸素発生型光合成生物と同様の強い酸化力を生み出す仕組みの解明に繋がる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酸素発生活性はなくなっていたものの、系IIの反応中心活性を保持し、クライオ電子顕微鏡での高解像度構造解析に耐えうる良好な光化学系II標品をアカリオクロリスから得ることができた。つまり、純度、均質性、複合体の全体的な構造の健全性が保たれた形で複合体を精製することができたと言える。この標品を用いてクライオ電子顕微鏡解析を行ったところ、3Aを切る高分解能のデータを得ることができた。この高分解能データを用いて構造決定を進め、反応中心複合体2量体に4つの光捕集色素タンパク質が結合している全体構造と、18のサブユニットタンパク質で構成されていることが判明した。他の酸素発生型光合成生物の光化学系II複合体には存在しない未知のタンパク質の存在が明らかとなった。このタンパク質について、MS分析を併用することにより、ゲノム解析でも推定されていなかったタンパク質を同定することができた。生化学的なタンパク質解析やHPLC等による色素分析を行って構造決定を支援し、構造モデルが構築された。構造精密化のための基盤ができたと言える。このように、順調に研究が進んだ。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究で得られたクライオ電子顕微鏡解析のデータを基に、構造精密化を進める。この過程では、とくに反応中心P713の周りとP713に続く電子伝達反応に関わるコファクター、および色素分子等の結合位置や周辺のアミノ酸側鎖との相対的位置関係も重点的に解析する。膜タンパク質複合体の存在形態は、脂質が密接に関与しており、クライオ電子顕微鏡による構造解析では、脂質分子の存在も推定されている。構造解析の精密化の際にも詳細な脂質組成の情報が不可欠なので、精製した系II複合体の脂質組成を、所有済みのGC-MSや薄層クロマトグラフィーにより分析し、構造精密化を支援する。このようにして、できるだけ令和6年度中の構造決定を目指す。そして、近赤外光の低いエネルギーで大きな酸化還元電位を得る仕組みを明らかにする。このために、構造に基づいた理論計算も進めていく。そして、明らかになってきた構造を基に、構造を裏付けるための分光学的解析を行う。また、光合成色素間の光エネルギー伝達の仕組みについての解析も進める。 Acaryochloris属には、全7株が単離されている。それらを利用し、光化学系IIの酸化側の水分解系を保持した状態での精製を検討する。そのような複合体を精製することができたら、クライオ電子顕微鏡解析に付し、水分解系周りの構造解析を行い、可視光を利用する他の酸素発生光合成生物の光化学系II複合体のすでに明らかにされている構造との相異を詳らかにする。また、それら7株は、それぞれ分光学的特性の顕著な相異が明らかにされているので、それぞれから精製した光化学系II複合体のタンパク質構造を比較解析し、分光学的特性の相異と関連付ける。 このようにして、可視光よりもエネルギーの低い遠赤色光を使って酸素発生型光合成を遂行する仕組みを明らかにする。
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