研究課題/領域番号 |
23K27206
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補助金の研究課題番号 |
23H02514 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44050:動物生理化学、生理学および行動学関連
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
西住 裕文 福井大学, 学術研究院医学系部門, 准教授 (30292832)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,850千円 (直接経費: 14,500千円、間接経費: 4,350千円)
2025年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
2024年度: 6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 7,020千円 (直接経費: 5,400千円、間接経費: 1,620千円)
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キーワード | 嗅覚 / 意思決定 / 遺伝子改変マウス / 情動行動 / 記憶 |
研究開始時の研究の概要 |
高等生物は、発達期における外環境からの感覚刺激によって脳神経を可塑的に変化させることで、嗜好性・社会性・環境適応性などを獲得する。我々はマウス嗅覚系を用いて、新生仔期における嗅覚刺激が、先天的神経回路の強化や神経地図の精緻化のみならず、その出力判断の抑制もしくは変更を引き起こすことを見出した。新生仔期に特定の匂いを刷り込んでおくと、例えその匂いが先天的に忌避性の匂いであっても、その後は愛着行動を示すようになるのである。これら先行研究に基づき本研究では、匂い刷り込み記憶の機序解明を糸口として、嗅覚情報に基づく意思決定機構の分子・神経回路レベルでの理解を目指す。
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研究実績の概要 |
マウスは個体や種の存続のために、嗅覚系を用いて、餌の探索や仲間の識別、天敵からの回避などの本能判断を下している。一方、これまでの我々の研究から、幼少期に特定の匂いを嗅がせておけば、例えその匂いが先天的に忌避性の匂いであっても、誘引的な匂いとして刷り込み記憶が形成されることが明らかとなってきた。そこで本年度は、幼少期に暴露される匂いに対して、好意的な質感が付与される条件について詳細な検討を行った。 出産後の母マウスの乳首に、忌避性の匂い4-メチルチアゾール(4MT)を塗布した場合、仔マウスは4MTに対して誘引行動を示した。一方、中性の匂いオイゲノール(EG)を塗布しても、仔マウスはEGに対して誘引行動を示さなかった。両条件付けにおいて、どのような違いが誘引的な記憶形成に影響を与えているのかを解析した。その結果、母マウスによる育仔行為の有無と、同腹仔の存在が重要な要素であることを見出した。具体的には、EGを塗布しても母マウスは通常通り育仔をするため、仔マウスはEGを敢えて記憶する必要がない。しかし4MTを塗布した母マウスは神経質となり30分ほど育仔を放棄するため、仔マウスは飢餓感が生じ、母マウスを探し求めるために4MTに対する誘引的な記憶が形成されたと考えられる。実際に、人為的に仔マウスから母マウスを30分間引き離した後、母マウスを戻すと同時にEGを嗅がせる匂い条件付けを行うと、EGに対しても誘引的な記憶が形成された。また、母マウスから引き離されている間、仔マウスを単独にするとこの誘引的な記憶が形成されないことから、同腹仔の存在も重要な要素であることが判明した。そしてこれらの誘引的な匂い記憶は離乳期に限定されることも見出した。以上の結果から、離乳前の仔マウスにとっては、母マウスからの世話と同腹仔の存在が非常に重要であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先天的本能判断が、新生仔期のみならず離乳期でも、環境からの嗅覚情報によって可塑的な修正を受け得ることを、マウスの行動実験から確認することに成功した。さらに、新生仔の臨界期で生じる刷り込み記憶には母親の存在が必須であるが、それに続く離乳期における環境順応には、同腹仔の存在が重要であることを見出したため。
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今後の研究の推進方策 |
1) 先天的本能回路の解明 マウスに天敵臭であるTMTを嗅がせると、忌避行動・すくみ行動・体温低下などの防衛反応が観察される。しかし我々は、TMTに応答する嗅覚受容体の一つOlfr1019を同定し、チャネルロドプシンを用いてOlfr1019を発現する嗅細胞だけを光活性化したところ、すくみ行動だけが誘起されることを見出した。即ちTMTによって誘導される様々な先天的反応は、異なる神経回路を介して独立に制御されていると考えられる。本研究ではまず、Olfr1019の糸球体を介した匂い情報が脳内のどの領野に送られてすくみ行動を誘起するのかを明らかにする。具体的には、神経活動の指標となる最初期遺伝子c-fosなどの発現を指標として、高次脳領野、特に扁桃体・水道周囲灰白質・内側前頭前皮質などを中心に組織学的な解析を行う。そして担当領域を絞ったのち、光遺伝学的手法などを駆使して、すくみ行動を誘起する先天的神経回路を明らかにする。 2) 匂い刷り込みに伴うシナプス分子の発現変化と構造変化の解析 本研究では、匂い刷り込みに伴うシナプス分子の発現変化と構造変化を捉える新たな解析系の構築を試みる。研究協力者である本学医学部の深澤教授は、最先端のイメージング技術を駆使して、記憶形成時の海馬や小脳におけるシナプスの構造や神経伝達物質受容体などの局在を解析する技術に長けている。深澤教授の協力を得て、Q1: 臨界期における匂い刷り込みによって、嗅細胞の軸索と僧帽/房飾細胞の樹状突起の間のシナプス接点にどのような変化が見られるか? Q2: 新生仔期の刷り込みによるシナプス強化と、学習・記憶に伴う発達期のシナプス強化との違いは何なのか? という疑問を明らかにする。具体的には、刷り込みされたシナプスを光学顕微鏡および電子顕微鏡で観察し、その構造や分子局在を高い空間分解能と感度で解析していく。
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