研究課題/領域番号 |
23K27211
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補助金の研究課題番号 |
23H02519 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分45010:遺伝学関連
小区分45020:進化生物学関連
合同審査対象区分:小区分45010:遺伝学関連、小区分45020:進化生物学関連
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
野澤 佳世 東京工業大学, 生命理工学院, 准教授 (10808554)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,590千円 (直接経費: 14,300千円、間接経費: 4,290千円)
2026年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
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キーワード | クライオ電子顕微鏡解析 / クロマチン / サブヌクレオソーム / 転写 / ゲノム解析 |
研究開始時の研究の概要 |
ゲノムDNAの情報は、ディスク状のヌクレオソーム構造に巻き取られて核内に保存されており、通常ヌクレオソームは、ヒストンH2A、H2B、H3、H4、2分子ずつからなる8量体から構成される。一方、生体内にはサブヌクレオソームと呼ばれるヒストンの含有量やDNAの巻き付き方の異なる構造体が存在しており、ゲノム機能の維持とその高次構造のダイナミクスに多様性を与えている。本研究では、申請者が独自に発見したサブヌクレオソームであるH3-H4オクタソームの生体内での構造と機能を解明し、エピジェネティクス制御の異常がもたらす、がん化や生活習慣病、精神疾患の理解に寄与したいと考えている。
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研究実績の概要 |
一つ目の課題では、H3-H4オクタソーム上で起こるRNAPIIの転写をクライオ電子顕微鏡で可視化することを目的としている。すでに、RNAPIIがヌクレオソームと比較して、H3-H4オクタソームを効率良く転写することを見出しており、この結果はプロモーター付近に予めH2A、H2Bを欠損したH3-H4オクタソームが存在すれば、生物学的に意義があることを示している。一年次の試料作成法の検討では、架橋剤で転写複合体を安定化して、未架橋産物をショ糖密度勾配遠心法で取り除くGradient Fixation (GraFix)法を実施した。その結果、H3-H4オクタソームの入り口で停止するRNAPⅡの姿を捕らえることに成功した。2つ目の課題では、リンカー・ヒストンH1とH3-H4オクタソームのクライオ電子顕微鏡解析を目的としている。一年次は、複合体試料の作成法の検討を通じて、低分解能ではあるがH3-H4オクタソームと結合するH1らしき密度を観察することができた。3つ目の課題では、高等真核生物の細胞から内因性のH3-H4オクタソームを探索・抽出し、そのクライオ電子顕微鏡解析を行うことでH3-H4オクタソームの生体内での機能を明らかにすることを目的としている。一年次は、クロマチン構造の大半がH3とH4から構成されている特定の生物種の組織から、内因性のクロマチンを単離する条件検討を行った。その結果、核の単離とヌクレアーゼ処理を通じて、純度の高いクロマチン試料を精製することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一つ目の課題については、一年次に行った条件検討を通じて、安定な架橋複合体を精製できることが分かった。この試料について東京大学医学部の加速電圧300 kVのクライオ電子顕微鏡を用いてさらなるデータコレクションを行ったところ、H3-H4オクタソームの入り口であるSHL-5位置で停止するRNAPⅡの姿を捕らえることに成功し、複合体の構造中でRNAPIIが、通常のヌクレオソームでは見られない新しいヒストン接触面を形成していることが明らかになった。 2つ目の課題で標的としているH1は、申請者が独自にH3-H4オクタソームとの結合を見出したものである。H1は、ゲノム上のヌクレオソームの固定やクロマチン高次構造の維持に必須の因子であることから、H1とH3-H4オクタソームのクライオ電子顕微鏡解析が実現すれば、H3-H4オクタソームがゲノム構造の基本単位として働きうることが示される。一年次は、複合体試料の作成法の検討を通じて、低分解能ではあるがH3-H4オクタソームと結合するH1らしき密度を観察することができた。通常H1は、ヌクレオソームDNAの中央(ダイアド)でリンカーDNAを束ねるように結合するが、複合体の予備的な構造からは、H3-H4オクタソームのentry/exitのリンカーDNAにH1が1つずつ結合すること(オフ・ダイアド結合様式)が示唆された。 加えて、3つ目の課題については、一年次に、クロマチン構造の大半がH3とH4から構成されているアフリカツメガエルの精子細胞から、内因性のクロマチンを単離する条件検討を行った。広島大学両生類研究センターより、アフリカツメガエルの精巣を供与いただき、精子核の単離とendo/exoヌクレアーゼであるMNaseの処理を通じて、高純度のクロマチン試料を精製することができた。 これらの実績から、本研究課題が大きく進展してたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、昨年度進展があったH3-H4オクタソームとの複合体の構造・機能解析を進めると同時に、このサブヌクレオソームの生体内での存在と機能を明らかにする研究にも着手していきたいと考えている。一つ目の課題では、RNAPIIが新しいヒストン接触面をH3-H4オクタソームと形成していることが分かったが、SHL-5位置は、通常のヌクレオソームでも転写が停止する位置であったため、電子顕微鏡構造からは、何故ヌクレオソームに比べてH3-H4オクタソーム上で優位に転写が進むのかは分からなかった。そのため、2年次では本来 H3-H4オクタソームでは転写が止まらないSHL-1位置(ヌクレオソームでは転写が一時停止する)でRNAPIIを留めるような転写テンプレートを設計し、クライオ電子顕微鏡解析を行うことで、転写効率の違いを生み出す分子機構を解明しようと考えている。 また、2つ目の課題については、今後は、H1とH3-H4オクタソーム複合体について、さらなる高分解能構造の獲得に向けた検討を行うことで、H3-H4オクタソームが高次クロマチン構造に与える影響を解明したいと考えている。 3つ目の課題については、2年次には、アフリカツメガエル精子から得られた内因性のクロマチン抽出物の中からH3-H4オクタソームを単離する方法を確立し、クライオ電子顕微鏡解析用のサンプルを調製する予定である。申請者はこのために、サブヌクレオソームを識別できる抗体を用いることを検討している。申請者はacidic patchを認識する抗体を用いて、核抽出フラクションから通常のヌクレオソームを除去したいと考えている。またこれと並行して、De novoデザインを通じてH3-H4オクタソームBinderの設計も進めているため、その発現・精製系を構築し、H3-H4オクタソームのゲノム局在解析の準備も進めて行きたいと考えている。
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