研究課題/領域番号 |
23K27221
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補助金の研究課題番号 |
23H02530 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分45020:進化生物学関連
小区分45010:遺伝学関連
合同審査対象区分:小区分45010:遺伝学関連、小区分45020:進化生物学関連
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
高橋 文 東京都立大学, 理学研究科, 教授 (90370121)
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研究分担者 |
上村 佳孝 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 准教授 (50366952)
小嶋 徹也 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (80262153)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,980千円 (直接経費: 14,600千円、間接経費: 4,380千円)
2025年度: 4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2024年度: 4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2023年度: 9,490千円 (直接経費: 7,300千円、間接経費: 2,190千円)
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キーワード | 共進化 / 構造変異 / 種分化 / ショウジョウバエ / ニッチ開拓 / 雌雄共進化 / 生殖的隔離 / 形態変異 / 外部生殖器 |
研究開始時の研究の概要 |
生物が様々な環境に適応して形が変わったり、異なる種に分化していったりする背景には、ゲノム中のDNA塩基配列の変化が重要な役割を果たす。オウトウショウジョウバエという昆虫種は、硬い生果に産卵するための肥大化した産卵管を持ち、そのことによって交尾する時の雌雄生殖器の結合に支障が生まれ、上手く噛み合うように雌雄の生殖器の形が急速に変化したことが明らかになった。このような急速な雌雄の形の変化がDNA塩基配列の順番や方向など構造が変わるような変化によって生じた可能性を調べるため、新しく開発する遺伝子操作法を使って原因となった塩基の変化を明らかにしていく研究である。
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研究実績の概要 |
オウトウショウジョウバエ(Drosophila suzukii)は他の種が利用しない新鮮な果実に産卵する。このような新たな産卵場所の開拓をきっかけとして起きた急速な雌雄形態の共進化の背景に、構造突然変異の寄与があったのか、関連する形態形質の原因突然変異を近縁種D. subpulchrellaとの比較により同定することで、明らかにすることを目的とし、研究を推進した。 本年度は、各形態形質について候補となる原因遺伝子に関する情報を整理し、候補遺伝子を絞る作業を進めた。また、繰り返し配列が多く構造変異の頻度の高いゲノム領域を含む第3染色体右腕に挿入した蛍光マーカーを利用した戻し交雑を行い、その領域だけがD. subpulchrella由来のヘテロ接合で、その他の領域がD. suzukii由来のゲノムに置き換わった系統を作成した。この系統の形態計測から、構造変異の頻度の高い第3染色体には、急速な雌雄形態の共進化に関連する複数の形態形質の原因となった変異が存在する可能性が示唆された。 同時に、候補遺伝子の機能解析を行うための準備として、既に熱ショックプロモーターでRNAiによるノックダウンを誘導するための遺伝的ツールが整っているD. melanogasterを用いて、生殖器原基への局所的熱ショックを与える方法を試みた。これについては、基礎生物学研究所で開発されている局所赤外線照射装置(IR-Lego)を利用し、GFPによる発現誘導条件の検討とRNAiによるノックダウンの確認ができ、方法の確立に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、QTL解析結果及び、生殖器原基を用いたRNA-seqの結果から、各形態形質について候補となる原因遺伝子に関する情報を整理し、候補遺伝子を絞る作業を進めた。また、急速な雌雄形態の共進化の背景に、構造突然変異の多いゲノム領域の寄与があったのかを明らかにするため、繰り返し配列が多く構造変異の頻度の高いゲノム領域を含む第3染色体右腕に蛍光マーカーを挿入したD. subpulchrellaの系統を樹立した。このマーカーを利用した戻し交雑を行い、その領域だけがD. subpulchrella由来のヘテロ接合で、その他の領域がD. suzukii由来のゲノムに置き換わった系統を作成した。この系統について、急速な雌雄形態の共進化に関連する複数の形態形質を計測したところ、純粋なD. suzukii系統と比較して有意にD. subpulchrellaよりの形態になっていることが明らかとなった。また、この系統のゲノム配列を確認したところ、第3染色体以外はほぼD. suzukii由来のゲノムに置き換わっていることが確認できた。 同時に、候補遺伝子の機能解析を行うための準備を進めるため、熱ショックを利用した時空間的な遺伝子発現量の操作をする方法の開発を進めた。既に熱ショックプロモーターでRNAiによるノックダウンを誘導するための遺伝的ツールが整っているD. melanogasterを用いて、生殖器原基への局所的熱ショックを与える方法を試みた。これについては、基礎生物学研究所で開発されている局所赤外線照射装置(IR-Lego)を利用した方法を同研究所の共同利用研究として推進し、方法の確立に成功したため、現在投稿論文の執筆を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
急速な雌雄形態の共進化に、構造突然変異の寄与があったのかをD. suzukiiと近縁種D. subpulchrellaとの比較により明らかにするため、繰り返し配列が多く構造変異の頻度の高いゲノム領域を含む第3染色体についてより詳細なDNA塩基配列解析を行う。2種間で構造変化が起きたサイト付近に位置する遺伝子について、蛹ステージにおける生殖器原基での種間発現差が大きいかどうか解析を進める。 上記の方法、及び昨年度までの解析であがってきている外部生殖器形態形質の種間差の候補原因遺伝子について、D. melanogaster を用いたIR-LegoによるRNAiノックダウンを行う。遺伝子発現操作によって得られた外部生殖器の形態形質への影響の分析については、昨年度に引き続き、研究分担者である上村佳孝博士の協力を仰ぐ。その結果、D. melanogasterを用いたノックダウンによる効果が明確な遺伝子については、D. suzukii及びD. subpulchrellaを用いたIR-Legoによる遺伝子操作のための遺伝子組み換え体の作出を行う。 D. suzukiiで特異的に長くなっている雄の前脚に関しては、昨年度までの観察により3齢幼虫の後期までのステージでは種間でのサイズの違いが明らかでなかった。前脚が伸長する蛹期の発生ステージのどこで違いが生じるかについて、解剖により前脚原器を取り出し、主要な転写因子の抗体染色を行うことで明らかにする。種間で違いが生じる発生ステージがわかれば、QTLの結果からあがってきている遺伝子について、研究分担者である小嶋徹也博士の協力のもと抗体染色やin situ ハイブリダイゼーションを行い、種間での発現の違いを解析する。
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