研究課題/領域番号 |
23K27252
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補助金の研究課題番号 |
23H02561 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分45050:自然人類学関連
小区分45060:応用人類学関連
合同審査対象区分:小区分45050:自然人類学関連、小区分45060:応用人類学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
河村 正二 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (40282727)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,590千円 (直接経費: 14,300千円、間接経費: 4,290千円)
2027年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2026年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2025年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2024年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2023年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
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キーワード | 感覚進化 / 霊長類 / 嗅覚 / 味覚 / 色覚 |
研究開始時の研究の概要 |
ヒトを含む霊長類の感覚系はトレードオフを含む複雑な進化を遂げたと考えられ、その相互関係の実態は明らかでない。嗅覚、味覚、色覚には巨大な多重遺伝子群であるGタンパク質共役受容体(GPCR)という共通の構造的基盤をもつ受容体が関わる。本課題では多様な分類群の霊長類に対し小断片解読型大規模並列DNA配列決定を前提に上記GPCR感覚遺伝子群をゲノムから濃縮単離することで、高深度・高精度な配列取得と種間・種内配列多様性解析を行う。これにより霊長類GPCR感覚遺伝子群の構成を明らかにし、これらの感覚の進化の全体像を検証する。
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研究実績の概要 |
苦味の知覚は、動物が潜在的に有毒な化合物を摂取するのを防ぐ上で重要である。全ゲノムアセンブリ(WGA)データにより、苦味受容体(TAS2R)遺伝子は、霊長類において数十の無傷および欠損した遺伝子を含む多重遺伝子ファミリーを構成することが明らかになった。しかし、一般に入手可能なWGAデータは、特に多重遺伝子族において不完全であることが多い。本課題では、8種の雑食性オナガザル亜科と2種の葉食性コロブス亜科を含む、多様な食性を持つ10種のオナガザル科霊長類のTAS2R遺伝子をそれらのゲノムDNA試料から特異的に回収するtargeted capture(TC)のアプローチを採用した。オナガザル科の共通祖先において無傷であったTAS2R遺伝子(祖先オナガザル科無傷TAS2R遺伝子セット)を入手可能なWGAデータを元に推定し、それらすべてのTAS2RのRNAプローブを設計した。TCに続いて、ショートリードながらも高深度の大規模並列シーケンシングを行った。TCはWGAデータベースよりも多くの無傷のTAS2R遺伝子を回収することに成功した。オナガザル科の共通祖先で多数の遺伝子「誕生」が確認され、コロブス亜科の共通祖先とオナガザル亜科の共通祖先は、それぞれ4つの遺伝子「死亡」と3つの遺伝子誕生という対照的な軌跡をたどっていることがわかった。無傷のTAS2R遺伝子の数は、オナガザル亜科と比較して、コロブス亜科で著しく減少していた。誕生または死亡のイベントは、ほとんどすべての系統樹の枝で発生しており、無傷の遺伝子の構成に種間の多様性をもたらしていた。これらの結果は、無傷のTAS2R遺伝子の進化的変化が複雑なプロセスであることを示しており、植物食性の動物がより多くのTAS2R遺伝子を持つという単純で一般的な予測を否定し、採食特性の適応と解毒能力の進化を理解する上で重要な意味を持つ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
雑食のサルと葉食特化したサルの苦味センサーを調査した結果、食物に占める植物の割合が高くなると苦味センサーの種類が増えるという一般的な予測は必ずしも成り立たず、解毒能の獲得など様々な要因により苦味センサーのレパートリーは動的・柔軟に進化することを示すことができた。本課題は、葉食に特化したコロブス亜科と雑食性のオナガザル亜科からなるオナガザル科のサルに注目し、これらのサルの苦味受容体(TAS2R)遺伝子ファミリーの遺伝子構成を比較した。その結果、苦味を含む葉の採食が増加したオナガザル科の共通祖先と雑食性のオナガザル亜科の共通祖先ではTAS2R 遺伝子の数が大きく増加したのに対し、葉食に特化し葉の消化と解毒能を身に着けたコロブス亜科の共通祖先では逆にTAS2R 遺伝子の種類を減らしたことを明らかにした。本成果は、ヒトを含む霊長類の味覚形成の進化史を理解する上で重要な参考情報となることが考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト:嗅覚受容体(OR)遺伝子、苦味受容体(TAS2R)遺伝子、旨味・甘味受容体(TAS1R)、色覚オプシン遺伝子および中立比較対象ゲノム領域に対して実施したtargeted capture によって得たこれらのDNA塩基配列データを使って、集団内および集団間のこれらの感覚遺伝子多様性を明らかにする。 チンパンジー・ボノボ:上記遺伝子に対して実施したtargeted capture によって得たこれらのDNA塩基配列データを使って、ヒトと比較することでこれらの遺伝子群のヒト特異的変異、Pan属特異的変異、チンパンジー特異的変異、ボノボ特異的変異を明らかにする。 テナガザル科:同様にtargeted capture によって得たこれらのDNA塩基配列データを使って、進化的に不安定なクロマチンの中で、これらの多重遺伝子族がどのように遺伝子レパートリーを維持あるいは欠落してきたかを明らかにする。 オナガザル科:同様にtargeted capture によって得たDNA塩基配列データを使って、雑食性のオナガザル亜科と葉食に特化したコロブス亜科の間で苦味受容体以外のこれらの遺伝子レパートリーがどのように分化したかを明らかにする。 広鼻猿小目:同様にtargeted captureによって得たこれらのDNA塩基配列データを使って、食性と色覚の多様な広鼻猿類の種間でこれらの遺伝子群のレパートリーがどのように多様化してきたかを明らかにする。 メガネザル下目および曲鼻猿亜目:同様にtargeted capture によって得たこれらのDNA塩基配列データを使って、霊長類進化の基部におけるこれら遺伝子群のレパートリーを特定し、様々な霊長類に分岐していく過程でこれら遺伝子群のレパートリーがどのように多様化してきたのかを明らかにする。
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