研究課題/領域番号 |
23K27313
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補助金の研究課題番号 |
23H02622 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分47020:薬系分析および物理化学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松林 伸幸 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 教授 (20281107)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,200千円 (直接経費: 14,000千円、間接経費: 4,200千円)
2025年度: 6,890千円 (直接経費: 5,300千円、間接経費: 1,590千円)
2024年度: 6,890千円 (直接経費: 5,300千円、間接経費: 1,590千円)
2023年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
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キーワード | 溶媒和 / 構造安定性 / 共溶媒 / MDシミュレーション / 自由エネルギー / 凝集 / 溶液理論 / 分子間相互作用 |
研究開始時の研究の概要 |
タンパク質の構造安定性を向上する手法の開発が強く求められている。本研究では、共溶媒(溶媒環境に含まれる水以外の非反応性成分)の添加がタンパク質構造に及ぼす影響を、分子動力学シミュレーションと溶液統計力学理論によって検討し、構造安定性の変化をもたらすタンパク質-水-共溶媒間の分子間相互作用成分の同定を通じて、共溶媒効果を系統的にモデリングする方法論の確立と共溶媒効果を用いた構造安定性の合理的制御指針の策定を目指す。
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研究実績の概要 |
NACore(11残基)、ヒトアミリン(37残基)、および、ヒトインスリン(51残基)の凝集を研究対象とした。凝集体全体の残基数が200程度になるように会合数の最大値を決め、全原子モデルによる分子動力学シミュレーション(MD)および自由エネルギー計算によって会合数の関数として凝集に関わるエネルギー量を解析した。高濃度でペプチド・タンパク質を含む水溶液の長時間MDを多数流すことで、凝集構造のアンサンブルを生成した。構造アンサンブルの生成は純水溶媒中でのみ行った。共溶媒効果の解析では過剰化学ポテンシャルの共溶媒添加に伴う変化量が検討対象となり、この量は、純水溶媒中でサンプルされたペプチド・タンパク質およびその凝集体に対する溶媒和自由エネルギーを計算すれば求められることが理由である。純水溶媒中での凝集を解析すると、NACore、ヒトアミリン、および、ヒトインスリンの全てにおいて、ペプチド・タンパク質間の相互作用が凝集を促進することが見出された。溶媒である水は、しばしば凝集阻害に働くが、その寄与はペプチド・タンパク質間の相互作用の寄与よりも小さい。溶媒の寄与は溶媒和自由エネルギーで定量化され、その計算にはエネルギー表示溶液理論を用いた。水素結合や分散引力、排除体積項のような相互作用成分も系統的に算出可能である。共溶媒として尿素とグリセロールを用いた。1 M程度までの濃度では溶媒和自由エネルギーは共溶媒濃度に線形であることが示されたため、共溶媒添加に伴うペプチド・タンパク質およびその凝集体の構造変化の寄与は無視できることが分かった。凝集体と単量体の間の溶媒和自由エネルギーの差は、共溶媒添加に伴う凝集平衡の変化に直結し、会合数が大きいほど尿素とグリセロールの凝集阻害効果が大きいことが明らかになった。また、尿素とグリセロールを比較すると効果はグリセロールの方が大きいことも分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ペプチドやタンパク質の凝集に対する共溶媒添加効果の自由エネルギー解析を行っている。解析のプロトコルは、統計力学における変分定理に基づいており、純水溶媒中で大量にサンプルした単量体および凝集体の構造アンサンブルに対して溶媒和自由エネルギー計算を網羅的に行い、溶媒和自由エネルギーの平均から単量体と凝集体の過剰化学ポテンシャル、および、それらの間の平衡に及ぼす共溶媒効果を定量化する。このプロトコルを用いることができるのは、共溶媒濃度が低く溶媒和自由エネルギーの平均値が共溶媒濃度に対して線形に変化する場合であるが、本年度に主たる検討対象とした尿素とグリセロール、および、次年度以降の検討対象に予定しているジオールなどの全てにおいて線形性が確かめられた。共溶媒添加に伴いペプチド・タンパク質およびその凝集体の構造は変化し、構造変化の定量的な取り扱いには計算の極めて難しい配座エントロピーの評価が必要となる。しかし、変分定理によると、上に述べた線形性により構造変化の寄与は無視できる。網羅的な共溶媒効果の解析を進めるための要件が確かめられたことになる。同時に、ペプチド・タンパク質およびその凝集体の構造変化が無視できない場合に適用可能な手法の開発を進めた。この手法では、純水溶媒および共溶媒を含む混合溶媒の両方の溶媒条件での構造サンプリングが必要となるため、計算負荷は今年度の尿素やグリセロールの解析での場合よりも高くなるが、高濃度を含む広い共溶媒組成の検討を行う場合に有効である。新手法は、共溶媒添加に伴う自由エネルギー変化を評価対象とし、その誤差を最小化することで定式化された。溶媒和自由エネルギーの網羅的計算が必要となるが、これは、エネルギー表示溶液理論を用いることで可能である。テスト系における予備的解析を行い、高濃度の共溶媒添加効果が現実的な計算時間で算出可能であることを示した。
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今後の研究の推進方策 |
凝集構造のサンプリング範囲を拡げ、共溶媒の種類を増やす。アモルファス構造を準備しその高濃度MDを行うことでアモルファス凝集体の構造アンサンブルを生成する。同時に、単量体のアモルファス構造も生成するため、単量体の変性に対する共溶媒効果の解析も合わせて行うことになる。アモルファス構造は、高温MDや共溶媒を高濃度で含む系のMDを行うことで生成できる。凝集における核形成の段階ではアモルファス凝集が起きると考えられているものの、現実の実験系におけるアモルファス構造の観察は困難であり、そのため、計算で生成した構造の妥当性の検証は難しい。そこで、多様な条件で生成したアモルファス構造に共通する結果に基づいて議論を展開することにする。共溶媒として、これまでに尿素やグリセロールを検討対象としてきたが、さらに、種々のアルコールやジオールを対象に加える。予備検討として、過剰化学ポテンシャルが共溶媒濃度に対して線形に変化することを既に示している。そこで、サンプリング範囲を拡げたペプチド・タンパク質およびその凝集体の構造に対して溶媒和自由エネルギーへの共溶媒添加効果を計算し、凝集平衡に対する共溶媒添加効果を定量化する。さらに、共溶媒添加効果を規定する分子間相互作用成分の同定を行う。エネルギー表示溶液理論の枠内では溶媒和自由エネルギーが分子間相互作用成分(水素結合、分散引力、排除体積項など)によって構成されることに立脚し、各成分の寄与をペプチド・タンパク質およびその凝集体の構造アンサンブル上で計算し、溶媒和自由エネルギーの共溶媒濃度依存性との相関を解析することで共溶媒添加効果の支配成分を検討する。尿素やグリセロールでは分散引力項が支配的な寄与をする成分であることを既に明らかにしている。共溶媒の種類を増やすことと並行して相関解析を行い、凝集の促進や阻害をもたらす共溶媒分子の構造特性を明らかにする。
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