研究課題/領域番号 |
23K27435
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補助金の研究課題番号 |
23H02744 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分50010:腫瘍生物学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
早河 翼 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (60777655)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,720千円 (直接経費: 14,400千円、間接経費: 4,320千円)
2025年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2024年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
2023年度: 7,020千円 (直接経費: 5,400千円、間接経費: 1,620千円)
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キーワード | 胃癌 / 糖鎖 / ゴルジ体 |
研究開始時の研究の概要 |
胃癌進展におけるMUC6変異や異常糖鎖の機能は未解明であったが、申請者が作成したMuc6欠損マウスにおいて異常な糖鎖構造をもつ未分化細胞・化生細胞が増生し胃癌を自然発症することが分かり、ムチン・糖鎖の異常が癌促進的機能を有することが示唆された。マンノース発現胃癌細胞ではゴルジ体変形を伴うゴルジ体ストレスが生じており、随伴するRas経路活性化が確認された。本研究では胃癌細胞に生じる異常糖鎖の発現機序と、糖鎖合成工場であるゴルジ体に付随して生じる癌特異的ストレス反応の機序を解明し、これらを標的とした胃癌新規治療を開発する。
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研究実績の概要 |
胃癌は本邦およびアジア各国において、高いピロリ菌感染率の影響により発生数・死亡数ともに頻度の高い癌種である。特に手術不能の進行胃癌に対する化学療法の奏効率は芳しくなく、免疫チェックポイント阻害剤やHER2標的化合物の使用により一部の症例では予後の延長が報告されているものの、大多数の進行胃癌に対して画期的な治療薬と呼べる新薬はいまだ報告されていない。新規に作成したMuc6欠損(Muc6-/-)マウスの胃では、粘膜下浸潤を伴う胃癌が自然発症した。腫瘍組織のレクチンアレイにより、腫瘍細胞特異的に結合するレクチンを複数同定することに成功した。これらのレクチンは正常組織では無~低発現のN型糖鎖であるマンノースに結合するものであることが分かり、質量分析を用いた糖鎖解析および免疫染色により、腫瘍特異的なマンノースの発現も確認できた。マンノース結合Bananaレクチンは、特にMUC6発現の低下するヒト胃癌組織・細胞株で結合親和性が高いことも分かった。細胞障害性緑膿菌毒素(PE38)を結合させたBananaレクチン化合物を精製し、マンノース発現胃癌細胞株に投与したところin vitroでの殺細胞効果が確認できている。さらに、in vivoでの投与が可能な遺伝子改変rBanana(H84T)レクチンおよびこれにPE38を結合させたLDCを精製済みであり、Muc6欠損マウスへの投与により腫瘍細胞の殺傷効果も確認できている。これらのデータを元に、すでにMuc6欠損胃癌における異常マンノース発現とこれを標的としたレクチン薬物複合体について特許申請を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Muc6欠損マウスの結合レクチン網羅解析により同定した、腫瘍特異的マンノースに結合するBananaレクチンを用い、胃癌標的レクチン薬物複合体(LDC)の開発を行った。これにより効率的かつ選択的に標的細胞に治療薬を誘導することを目指した。 Bananaレクチンのin vivoへの投与にあたっては非特異的血球凝集作用が問題となる。Bananaレクチンの場合には84番目アミノ酸に変異(ヒスチジン→スレオニン)を加えることで、凝集作用を阻害しつつ本来の結合能を保持させることが可能であった。共同研究者の産業技術総合研究所館野浩章氏の協力の元、H84T変異型recombinant Banana(H84T)レクチンを精製済みで、赤血球凝集試験にてその血球 凝集能が阻害されていることも確認できた。 作製したrBanana(H84T)レクチンに、細胞障害性薬剤を結合させ、マンノース発現・非発現胃癌細胞株への障害効果をin vitroで確認できた。これにより、腫瘍細胞特異的なマンノース糖鎖・結合レクチンを同定し、より標的治療や病変検出に応用可能なLDCを作製可能であることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
異常糖鎖・ゴルジ体ストレス間相互作用機序解明と化合物スクリーニング Muc6欠損腫瘍細胞ではゴルジ体の変性・蛋白発現異常を伴うゴルジ体ストレスが生じている。生体内の糖鎖発現を再現可能な改変オルガノイド培養系を用い、ゴルジ体ストレス誘導後の分子学的変化を解析する。ゴルジ体局在とマンノース結合を蛍光標識可能な培養系と化合物スクリーニングパネルにより、ゴルジ体ストレスとマンノース 発現を阻害する化合物の探索を行う。その抗腫瘍効果をマウスモデル・胃癌細胞株培養系で検証するとともに、LDC開発へつなげる。 異常糖鎖修飾とゴルジ体ストレス応答依存的なオンコプロテインの機能解析 異常糖鎖・ゴルジ体ストレスと関連するオンコプロテインの同定とその機能解析を行う。GOLPH3蛋白の機能解析のため、Muc6-/-Golph3-/-マウスを作製して腫瘍形成能を比較するとともに、RNAseq・proteome・糖鎖解析を行ってその機序を検証する。ゴルジ体でのRas・Raf活性化を評価可能なRaf1-RBD-RFP/Raf1-RBD-Lucベクターを用い、ゴルジ体ストレス・異常糖鎖発現下におけるゴルジ体内Ras・Raf活性化状態とその意義を検証する。マンノース修飾を受けるクラステリン蛋白質に着目し、オンコプロテインとしての機能を解析するとともに特異的抗体の作製を試みる。
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