研究課題/領域番号 |
23K27447
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補助金の研究課題番号 |
23H02756 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分50010:腫瘍生物学関連
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研究機関 | 公益財団法人佐々木研究所 |
研究代表者 |
中岡 博史 公益財団法人佐々木研究所, 附属研究所, 部長 (70611193)
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研究分担者 |
椙村 春彦 公益財団法人佐々木研究所, 附属研究所, 研究所所長 (00196742)
吉原 弘祐 新潟大学, 医歯学系, 教授 (40547535)
国定 充 神戸大学, 医学研究科, 非常勤講師 (80566969)
須田 一暁 新潟大学, 医歯学総合研究科, 特任講師 (80650621)
福本 毅 神戸大学, 医学研究科, 准教授 (80778770)
後藤 明輝 秋田大学, 医学系研究科, 教授 (90317090)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,590千円 (直接経費: 14,300千円、間接経費: 4,290千円)
2026年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2025年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
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キーワード | 正常組織 / がん関連遺伝子 / 体細胞変異 / 変異クローン / 空間的増殖 |
研究開始時の研究の概要 |
子宮内膜、皮膚、肺、胃において、一見正常な組織や前がん病変を採取し、組織透明化、譲歩組織マーカーによる蛍光染色、シート顕微鏡を用いた三次元イメージング解析を行い、クローン性増殖に関わる特徴的な三次元構造を探索する。組織の構造特性を理解した上で、細分化した組織から上皮成分と間質成分(線維芽細胞、免疫細胞、血管内皮細胞)を選択的に回収し、空間的な位置情報を保持した状態でゲノム解析・エピゲノム解析を行う。変異クローンによって占有された領域と変異クローンによる増殖が限定的な領域のエピゲノム表現型を比較することにより、変異クローンの空間的増殖を誘導する遺伝・環境相互作用の組織特異性について検討する。
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研究実績の概要 |
本年度は正常子宮内膜における層別トランスクリプトーム解析および肺腺がんの前がん病変である上皮内腺がんのエクソーム解析を行った。 正常子宮内膜における地下茎構造を介した変異クローンの増殖を誘導する上皮‐間質の相互作用を同定するため、正常子宮内膜における層別トランスクリプトーム解析を行った。生殖年齢にある10例の女性から提供を受けた子宮内膜を基底層(地下茎構造)、子宮内腔を被覆する表層、その中間に位置する機能層に層別化し、上皮細胞および間質細胞をレーザーマイクロダイセクション法で選択的に採取し、RNAシーケンシングによるトランスクリプトーム解析を行った。レーザーマイクロダイセクション法で選択的に採取した微量な検体から、クオリティの高いRNAシーケンシングを行うための実験系を確立した。子宮内膜の各層に特徴的な遺伝子発現パターンを同定するためのバイオインフォマティクス解析を行った。遺伝子発現プロファイルに対して主成分分析を行ったところ、同じ上皮細胞でも採取した層に応じて遺伝子発現パターンが異なることが分かった。まず、表層上皮は機能層上皮および基底層の地下茎構造を構成する上皮とは異なるクラスターを形成し、遺伝子発現パターンに顕著な差異があることが分かった。一方、機能層と基底層は連続した上皮組織であるため全体的に類似した遺伝子発現パターンを示すものの、両者の間で発現量に統計学的に有意な差異が認められる遺伝子群が検出された。 上皮内肺腺がんのエクソーム解析の結果、ドライバー変異、体細胞変異負荷、変異シグナチャー、コピー数変化、免疫細胞浸潤のプロファイルと臨床情報の関連について検討した。さらに、早期肺腺がんにおける病理像とゲノム変化の関連についても精査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
子宮内膜において各層の上皮細胞と間質細胞を標的とし、レーザーマイクロダイセクション法で採取した微量検体から高質なRNAを抽出し、トランスクリプトーム解析を行うための実験系が確立できた。上皮細胞および間質細胞のマーカー遺伝子の発現パターンから、標的とした細胞種を適切に分取できており、遺伝子発現プロファイリングも適切に実施できていることが確認できた。正常子宮内膜における層別トランスクリプトーム解析によって、同じ細胞種でも採取した層に応じて遺伝子発現パターンが異なることが分かった。また、子宮内膜上皮の幹細胞/前駆細胞マーカーと考えられている遺伝子が基底層の地下茎構造を構成する上皮において高発現していることが確認できた。さらに、他の組織において上皮幹細胞/前駆細胞マーカーとして報告されている複数の遺伝子が地下茎構造において高発現していることが分かり、新たな子宮内膜上皮の幹細胞/前駆細胞マーカーの候補となる遺伝子を見出すことができた。これらの結果から、子宮内膜基底層に存在する地下茎構造が幹細胞や前駆細胞のニッチとして機能し、子宮内膜の組織再生に寄与していることが示唆された。 上皮内肺腺がんにおいて、ドライバー遺伝子と喫煙習慣の組み合わせに応じて、体細胞変異負荷やコピー数変化について特徴的なプロファイルを示すことが分かった。この結果から、患者の喫煙習慣によって変化する肺の微小環境に対して、より高い適合性を示し、選択的に有利となる遺伝子変異に差異がある可能性が示唆された。 上記のような結果が得られたことから、進捗状況はおおむね順調であると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
正常子宮内膜における層別トランスクリプトーム解析によって、同じ細胞種でも採取した層に応じて遺伝子発現パターンが異なることを示し、各層の上皮細胞および間質細胞における遺伝子発現パターンの特徴を捉えることができた。正常子宮内膜における層別トランスクリプトーム解析に用いるサンプル数を増やし、より正確な遺伝子発現プロファイルを取得する。地下茎構造を介した変異クローンの増殖を誘導する上皮‐間質の相互作用を同定するために、上皮細胞における体細胞変異保有状態と周辺の間質成分に含まれる線維芽細胞、血管内皮細胞、免疫細胞などの遺伝子発現状態を同時に評価可能な実験系を確立する。単一細胞レベルでのトランスクリプトーム解析や空間オミクス解析を視野に入れ、試料の採取や実験手法の検討を進める。 上皮内肺腺がんにおいて、患者の喫煙習慣に応じて、ドライバー遺伝子変異、体細胞変異負荷やコピー数変化のパターンが異なっていたことから、喫煙状態に応じて変化する微小環境に対して、高い適応性を示し、選択的に有利となる遺伝子変異に差異があるという仮説が考えられる。上記の可能性について検討を進めるためにもイメージング解析とゲノム解析を統合したアプローチが有効であると考えられる。病理学の専門家である共同研究者がメンバーに加わっている利点を活かす。 また、皮膚や胃を対象とした正常細胞や前がん病変におけるゲノム解析や組織のイメージング解析を進める。
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