研究課題/領域番号 |
23K27502
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補助金の研究課題番号 |
23H02811 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分52010:内科学一般関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
秋下 雅弘 東京大学, 医学部附属病院, 特任研究員 (00261975)
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研究分担者 |
小川 純人 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (20323579)
孫 輔卿 東京大学, 未来ビジョン研究センター, 特任准教授 (20625256)
矢可部 満隆 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (10747265)
細井 達矢 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (70907831)
七尾 道子 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (40876091)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,330千円 (直接経費: 14,100千円、間接経費: 4,230千円)
2025年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2024年度: 6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 6,630千円 (直接経費: 5,100千円、間接経費: 1,530千円)
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キーワード | 慢性炎症 / サルコペニア / 血管老化 / 連関作用 / 液性因子 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の概要は、慢性炎症(inflammaging)に基づく筋肉と血管の老化および疾患の連関機序を原因別に検討することで、骨格筋由来、また血管由来の炎症拡大や波及機序の相違点と共通点を明らかにすることである。そして、サルコペニアと動脈硬化などの血管疾患の連鎖、さらにはフレイル関連臓器の老化や疾患の連鎖を断ち切る予防法や治療法の開発につなぐ内容である。
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研究実績の概要 |
本研究は、サルコペニアと血管疾患の連関機序を液性因子(炎症性サイトカイン、マイオカイン、性ホルモンなど)に着目して、老化基盤である炎症の拡大・波及の分子機序で明らかにすることを目的とする。 今年度は、加齢や廃用による筋委縮に骨格筋内の炎症や炎症性細胞が関連するか、筋委縮が炎症を基盤とする血管疾患の形成や進行に影響を与えるかを検討した。その結果、廃用性筋萎縮において、骨格筋内の炎症性サイトカインの発現上昇、マクロファージの浸潤を認めた。 さらに、加齢による影響を性ホルモン欠乏の条件で検討したところ、筋委縮、炎症性サイトカインの発現増加、マクロファージの浸潤が増悪した。筋肉と血管の連関においては、廃用性筋委縮が血管石灰化や大動脈瘤の形成を促進し、血管の炎症性サイトカイン発現の上昇やマクロファージの浸潤を認めることから炎症の拡大・波及が示された。 この連関機序に寄与する液性因子としてマイオカインであるイリシンに着目し、検討を行った。筋委縮による骨格筋内発現や血中濃度の低下が認められた。さらに、イリシン補充により大動脈瘤の形成が抑制した。
以上の結果から、骨格筋由来で血管保護作用を示す液性因子としてイリシンが同定され、イリシンの制御により骨格筋‐血管の老化・疾患の連鎖を食い止める可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、廃用性筋萎縮モデルマウスを用いて、筋萎縮の進行における筋代謝の変化、炎症の惹起を明確にするとともに、その病態形成の過程におけるテストステロンおよびARの作用機序を明らかにすることを目的として行った。さらに、精巣摘出およびテストステロン補充による廃用性筋萎縮の制御機構を検討し、廃用性筋萎縮の予防及び治療戦略につなげることを試みた。具体的には、雄性C57BL/6マウスの後肢をワイヤーで固定し廃用性筋萎縮を誘導した。またマウスの精巣を摘出しテストステロンの欠乏を誘導、またテストステロンの皮下投与で補充を行った。後肢固定後、経時的に筋力の評価および腓腹筋を用いた組織学的、分子生物学的検討を行った。 後肢固定後3日目に腓腹筋中のAR の発現が有意に低下し、C/EBPδ、MyostatinといったAR関連遺伝子の発現が有意に上昇した。同時に筋分解系(Atrogin1、MuRF1)や炎症系(F4/80、IL-6)遺伝子の発現亢進が見られた。精巣摘出によりAR発現はさらに低下し、後肢固定後の萎縮や筋分解系・炎症系遺伝子の発現上昇が加速したが、これらの変化はテストステロン補充によって改善した。 筋肉と血管の連関においては、廃用性筋萎縮と大動脈瘤との関係を検討した結果、後肢固定後に大動脈瘤を誘導した群では大動脈瘤単独群に比べて、瘤の形成が促進されたこと、老化形質である石灰化の所見が認められた。さらに、石灰化関連遺伝子Runx2の発現上昇、アポトーシス誘導(Gas6/pAkt 生存シグナル経路の低下)が確認できた。筋肉と血管の連関を説明する液性因子としてマイオカインであるイリシンに注目し、後肢固定後は時間依存的にイリシンの発現が低下することを分かった。イリシンの血中濃度も同様に低下した。イリシンの補充により、血中イリシン濃度の上昇とともに、血管石灰化および大動脈瘤の形成が抑制された。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、特に廃用、低栄養による炎症経路の詳細を明らかにする。廃用の場合は、後肢のワイヤー固定モデルを、低栄養の場合は低タンパク食・低脂肪モデルを用いる。骨格筋における炎症機序は、ヒラメ筋(遅筋優位)および腓腹筋(速筋優位)において炎症性細胞(単球、マクロファージ、好中球、樹状細胞、T細胞など)の局在、NFκBの活性、炎症性サイトカイン(IL-6, IL-1β, TNFαなど)の発現などで検討する。さらに、骨格筋のミトコンドリア機能(PGC1aの発現、mtDNA数)やマイオカイン(Myostatin, Iricin、FGF21, Follistatin-related protein1:FSTL-1など)と炎症機序との関係を検討する。骨格筋の質的変化と炎症機序との関係について、筋線維の変遷(type 1とtype 2)、脂肪化、線維化などを経時的に追いながら検討する。さらに、加齢に伴う性ホルモンの低下を慢性炎症の加速要因として位置づけ、性ホルモン欠乏モデル(精巣や卵巣摘出)を用いて、炎症の増悪およびその作用機序を検討する予定である。 骨格筋から血管老化・疾患への遠隔制御に関しては、イリシンの役割を明確にする。ワイヤー固定マウスに血管炎症による大動脈瘤を誘導し、廃用、また加齢の原因により、血管老化や大動脈瘤の形成が促進されるか、その中のイリシンの作用を検討する。さらに、血管における炎症性細胞の浸潤や炎症性サイトカインの発現上昇や炎症経路の詳細を明らかにする。得られた結果を基にして、骨格筋由来の炎症拡大・波及の機序を整理し、炎症制御の中核因子の探索及び同定を推進する予定である。
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