研究課題
基盤研究(B)
本研究では大腸がんを対象に、がん幹細胞と子孫がん細胞に可塑性をもたらす鍵因子の解明、可塑性の克服による大腸がん治療法開発へ向けた基盤整備と展開を目的とする。そのため、遺伝子改変マウス、マウスとヒトの大腸腫瘍およびがんオルガノイド、ヒト大腸がん臨床検体などを用いて、大腸がんを構成する多彩な細胞の活性化シグナル、および細胞間相互作用を時空間的に解析する。それにより大腸がん幹細胞および子孫がん細胞の可塑性を制御する鍵因子を抽出し、それを利用した新規大腸がん治療法の開発に結びつける。
がん組織の時空間的な複雑さは治療抵抗性の大きな原因となる。そのような時空間的な複雑さをもたらす機序のひとつに、がん微小環境やがん細胞内で活性化するシグナルの変化により、がん幹細胞/子孫がん細胞が可塑性をもってダイナミックに変動することがあげられる。本研究では、独自に構築してきた遺伝子改変マウス、ヒト大腸がんオルガノイド、空間的情報を加味した網羅的遺伝子発現解析を行い、がん幹細胞制御因子の抽出、がん幹細胞と微小環境を標的とするcombination therapyの検証など、大腸がん幹細胞の可塑性を制御するメカニズムの解明、新規大腸がん治療法の開発に向けた基板を整備することを目的とした。令和5年度には、マウス大腸がんオルガノイドをTHBS1 KOマウスの直腸に同所移植し、網羅的遺伝子発現解析を行って、がん微小環境およびがん幹細胞性を検討した。それにより、間質細胞フェノタイプの変化、がん細胞と間質細胞に生じるシグナルの変化に基づいた、がん幹細胞・間質の相互作用ネットワークの一部を明らかにすることができた。とくに免疫担当細胞、線維芽細胞等、間質に多く浸潤する細胞群のサブタイプに基づいた役割分担について、一定の知見を得た。また、THBS1を中心とする大腸がんの肝転移メカニズムの一端を明らかにすることができた。さらにそこから得られた情報をヒト大腸がん臨床情報と照合し、がん幹細胞と微小環境、特に免疫担当細胞を標的とするcombination therapyの有望性を確認することもできた。
2: おおむね順調に進展している
令和5年度には、マウス大腸がんオルガノイドをTHBS1 KOマウスの直腸に同所移植し、網羅的遺伝子発現解析を行う実験が順調に進捗した。それに基づき、間質細胞フェノタイプの変化、がん細胞と間質細胞に生じるシグナルの変化、およびがん幹細胞・間質の相互作用ネットワークの一部を明らかにすることができた。さらに、そこから得られた情報をヒト大腸がん臨床情報と照合することができた。また、ヒト大腸がんオルガノイドについても、がん幹細胞に与える環境因子の役割を解析する作業が進むなど、研究はおおむね順調に進展しているものと判断した。
今後は、マウス、ヒト双方の大腸腫瘍において、網羅的発現解析に空間的情報を加味した検討を予定する。新たな遺伝子改変によるin vivoでのネットワーク検証、がん幹細胞と微小環境を標的とするcombination therapyの検証を進めたい。具体的には、腸腫瘍モデルマウスと新たなKOマウスとの交配、小分子化合物、抗体等の全身投与のほか、マウス大腸内視鏡システムを用いた小分子化合物、shRNA等の局所投与も併用する。ヒト大腸がん幹細胞動態可視化オルガノイド培養系やヒト大腸がんxenograftモデルも併用して、がん幹細胞からのリニエージ・トレーシング、がんオルガノイドの増殖に与える影響を短期、長期に検証する。それにより、大腸がん幹細胞の可塑性を制御するメカニズムに迫り、新規大腸がん治療法の開発に結びつける。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 3件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (13件) 備考 (1件)
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