研究課題/領域番号 |
23K27644
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補助金の研究課題番号 |
23H02953 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分54030:感染症内科学関連
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
齊藤 峰輝 川崎医科大学, 医学部, 教授 (40398285)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,590千円 (直接経費: 14,300千円、間接経費: 4,290千円)
2025年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
2024年度: 7,540千円 (直接経費: 5,800千円、間接経費: 1,740千円)
2023年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
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キーワード | 免疫老化 / HTLV-1 / ATL / HAM / T細胞 |
研究開始時の研究の概要 |
HTLV-1関連疾患であるATL及びHAMは根治療法がなく、発症機序解明と発症予防法・治療法の確立が待ち望まれている。これらの疾患では、HTLV-1の転写制御因子Tax及びHBZが感染CD4+T細胞の機能的変化を誘導し、発症に関与することが想定されているが、詳細は不明である。本研究では、Tax及びHBZがCD4+T細胞の機能的変化に及ぼす影響を「免疫細胞の疲弊・老化」に着目して解析することにより、HTLV-1による発がん・慢性炎症の発症・維持機構の解明とATL及びHAMの新規発症予防法・治療法開発につながる研究シーズの創出、さらに将来の臨床応用に向けた研究基盤の構築を目指す。
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研究実績の概要 |
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(Human T cell leukemia virus type 1: HTLV-1)は生体内で主にCD4陽性T細胞に感染し、長い潜伏期間を経て一部の感染者、特に高齢者に成人T細胞白血病(adult T-cell leukemia/lymphoma: ATL)または慢性炎症性疾患のHTLV-1関連脊髄症(HTLV-1 associated myelopathy: HAM)を発症させる。本研究では、HTLV-1の転写制御因子であるTax及びHBZがCD4+T細胞の機能的変化に及ぼす影響を免疫細胞の疲弊・老化に着目して解析することでHTLV-1感染と免疫老化現象との関連を解明し、ATL及びHAMの病態解明と新規発症予防法・治療法開発につながる研究シーズの創出を目指す。本年度は以下の成果を得た。 ① HTLV-1は生体内で1細胞あたり1コピーのウイルスゲノムが染色体DNAに組込まれたプロウイルスとして存在し、細胞分裂により娘細胞へと伝達される。そこで、細胞分裂時に導入遺伝子が細胞周期あたり1回だけ複製し、細胞内で安定的に維持されるエピソーム型プラスミドpCEP4を用いてTaxまたはHBZの発現プラスミドを構築した。プラスミドにはGFP発現ユニットもコードさせ、GFP発現の追跡によるプラスミド導入細胞の同定・回収を可能とした。実際に、非感染細胞にプラスミドを導入してFACSによりGFP発現陽性CD4+T細胞を回収することができた。 ② 先行研究で、制御性T細胞(Treg)の分化や自己免疫疾患発症の抑制、疲弊T細胞の誘導に係る転写因子NR4A2がTaxにより発現誘導されることを示した。そこで、HTLV-1感染者(HAM患者、ATL患者、無症候性キャリア)のPBMCにおけるNR4A2の発現レベルをリアルタイム RT-PCR法で定量した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HTLV-1の転写制御因子Tax, HBZの機能を評価するモデル系として、細胞分裂時に導入遺伝子が細胞周期あたり1回だけ複製し、細胞内で安定的に維持されるエピソーム型プラスミドpCEP4を用いてTaxまたはHBZの発現プラスミドを構築した。プラスミドにはGFP発現ユニットもコードさせてあるため、GFP発現の追跡によりプラスミド導入細胞を同定・回収可能であった。2024年度は、これらの細胞のうちTaxとHBZが発現する細胞集団を選択することで「HTLV-1感染様CD4+T細胞」を作出し、数週間~数ヶ月単位で長期培養する。その過程で各種老化マーカー(p16, SA-β-gal等)の発現を指標に細胞老化の変化を評価する予定である。このように、実験計画は当初の予定通りおおむね順調に進展している。 また、これら細胞における非翻訳RNAを含む細胞遺伝子の発現レベルをRNA-seqにより解析する。細胞間で発現量が異なる「細胞老化の誘導に寄与すると考えられる遺伝子(候補遺伝子)」については、HTLV-1感染者(患者及びキャリア)由来CD4+T細胞やATL細胞等の臨床検体を用いて老化バイオマーカーとしての有用性を検証する。さらに、候補遺伝子のノックダウン実験等により細胞増殖活性やSASP因子発現との関連を検証する。 一方、先行研究でTregの分化や自己免疫疾患発症の抑制、疲弊T細胞の誘導に係る転写因子NR4A2がTaxにより発現誘導されることを示したことから、HTLV-1感染者(HAM患者、ATL患者、無症候性キャリア)及びHTLV-1非感染健常者のPBMCを用いてNR4A2の発現レベルをリアルタイム RT-PCR法で定量し、貴重なデータを得ることができた。 引き続き研究を遂行することで当初の目的を達成できるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き「HTLV-1感染様CD4+T細胞」及び患者検体を用いてHTLV-1感染と免疫老化現象との関連を解析し、病因的意義の解明と疾患バイオマーカーとしての意義を検証するため、以下の実験計画を遂行する。 ① Tax単独、HBZ単独、Tax及びHBZ双方の発現プラスミド、コントロールプラスミドを導入したHTLV-1非感染ヒトT細胞株及び非感染者PBMC(HTLV-1感染様CD4+T細胞)を数週間~数ヶ月単位で長期培養し、各種老化マーカー(p16, SA-β-gal等)の発現を指標に細胞老化の変化を評価する。また、これらの細胞における非翻訳RNAを含む細胞遺伝子の発現レベルをRNA-seqにより解析する。 ② 作出した「HTLV-1感染様CD4+T細胞」及びコントロール細胞を用いて、Menin-Bach2経路により制御される既知の老化関連遺伝子群の発現レベルを定量RT-PCRまたはRNA-seq解析により解析する。各細胞間で発現レベルが有意に異なる遺伝子を「Menin-Bach2経路により制御されるHTLV-1関連細胞老化遺伝子(候補遺伝子)」として選択し、SASP獲得への関与、アポトーシス誘導刺激に対する感受性、免疫老化マ―カーおよびサイトカイン/ケモカインの発現変化との関連について明らかにする。 ③ HTLV-1感染者(HAM患者、ATL患者、無症候性キャリア)のPBMC及びTaxまたはHBZを恒常発現するHTLV-1感染様CD4+T細胞におけるNR4A2、SASP因子の発現レベルと細胞増殖活性を定量し、細胞老化誘導促進への関与を解析する。 以上、一連の解析を通して「HTLV-1感染が免疫細胞の疲弊・老化を持続・加速させることがATLやHAMの発症原因となる」という作業仮説の検証とHTLV-1関連疾患(ATL, HAM)の新規発症予防・治療法開発につながるシーズの発掘を目指す。
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