研究課題/領域番号 |
23K27677
|
補助金の研究課題番号 |
23H02986 (2023)
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分55020:消化器外科学関連
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
藤井 正幸 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (00867575)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
18,850千円 (直接経費: 14,500千円、間接経費: 4,350千円)
2025年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2024年度: 6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 7,930千円 (直接経費: 6,100千円、間接経費: 1,830千円)
|
キーワード | 大腸癌 / 転移 / オルガノイド / シングルセル解析 / 異種移植 / 大腸がん |
研究開始時の研究の概要 |
転移はがん死の主たる原因である一方で、がん細胞の転移プロセスについては不明な点が多い。原発巣から血中に散布されたがん細胞の多くは遠隔臓器に到達し、転移として生着、増殖する前に死滅してしまう。従って、この転移超初期のフェーズには転移チェックポイントが存在すると換言できる。しかしながら、同フェーズにおけるがん細胞の解析は、微小な転移細胞を回収する技術の欠如により困難であった。本研究では新規技術でこの制約を克服し、ヒト大腸がん肝転移の超初期像に迫る。転移チェックポイントを構成する環境因子やシグナルを同定し、得られた知見を集約することで従来の化学療法とはことなる転移の予防、治療法を創出する。
|
研究実績の概要 |
1. 異種移植モデルを用いた大腸がん肝転移ダイナミクス解析 研究代表者は以前の患者由来オルガノイドを用いた研究で、転移巣由来オルガノイドは原発巣由来オルガノイドと比較して、異種移植モデルにおいて高い転移能を有することを見出している(Fujii et al., Cell Stem Cell 2016)。本研究では、この異種移植肝転移モデルおよび高転移能オルガノイド、低転移能オルガノイドを用い、大腸がん肝転移のダイナミクス解析を行った。既存のデータと同様に、移植後後期(2ヶ月)では両者の転移能に顕著な差異が認められた。より早期のフェーズでの観察を行ったところ、低転移能オルガノイドは移植後2週間程度で肝臓よりウォッシュアウトされた。高転移能オルガノイドも移植後2週間でほとんど駆逐されたが一部のマイクロ転移は残存し、これらが以降のマクロ転移へ成長すると考えられた。したがって、転移能は転移初期における頑強性によって左右されることが示唆された。
2. 初期マイクロ転移巣の純化方法の開発 マイクロ転移はその腫瘍量の少なさから解析が困難である。異種移植肝転移モデルにおいても同様であり、全肝を用いる手法では、膨大なマウス肝細胞に埋もれた転移巣を純化するのは難しい。本研究では、コラゲナーゼ灌流を用いることで肝細胞を実質から分離し、グリソンに残存するマイクロ転移を効率的に回収することが可能であることを見出した。この手法を用い、さらにオルガノイドをあらかじめ蛍光タンパクでラベルすることで、ソーティングによってマウス肝臓から早期マイクロ転移巣を純化することが可能となった。回収可能な細胞数はオルガノイドの転移能や移植後日数に左右されるものの、以降のRNAシーケンス等の分子生物学的解析には足りることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
転移初期のマイクロ転移巣を高純度で回収する手法は、本研究課題の基盤となる技術である。これまで、酵素処理した全肝のソーティングや、抗体磁気ビーズを用いた上皮細胞の濃縮等を試行を行ったが、満足できる細胞数および純度は得られなかった。本年度の試行錯誤によって、肝臓灌流を用いることで回収効率を飛躍的に向上させることが可能となった。回収した転移巣から抽出したRNAは、予備実験においてRNAシーケンスに利用可能であることを確認している。また、低転移能オルガノイドにおいても、移植後7日程度であれば、解析可能な細胞数を確保できることを確認した。したがって、次年度以降、移植後1週間までの複数タイムポイントの解析が可能となり、高い時間分解能で初期肝転移のダイナミクスを理解することができると期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
1. 超早期肝転移巣のダイナミックな分子生物学的解析 技術開発により、初期マイクロ肝転移巣の純化が可能になった。転移初期フェーズにおけるダイナミクスを高い時間分解能で解析するため、数ポイントの時系列でサンプルを取得する。具体的には、GFPによって蛍光ラベルした腫瘍オルガノイド(500,000細胞相当)をNOGマウスの脾臓に移植し、移植後1, 4, 7日後に灌流およびセルソーターを用いて転移巣を単離する。得られた転移細胞は細胞数に応じてバルクRNAシーケンス、シングルセルRNAシーケンス、ATACシーケンス等に用いる。我々は以前、CRISPRスクリーニングを用いて、大腸腫瘍オルガノイドの転移表現系に寄与する遺伝子を同定した。転移能を有さない野生型オルガノイドおよび高い転移能を有するノックアウトオルガノイドを用い、その差分を解析することで、転移に関係するシグナル、プログラムや転写因子ネットワークを抽出する。
2. 超早期大腸腫瘍転移を対象とした統合解析および治療開発 項目1で取得した早期転移細胞のオミクスデータを統合的に解析し、転移初期フェーズにおける分子生物学的変化を把握する。特にシングルセル解析を時系列で実施し、単一細胞レベルでのトランスクリプトーム変化や、特定の細胞サブタイプあるいは状態の出現、消失を補足し、これらの変化を駆動するシグナルや摂動を類推する。転移時に活性化あるいは不活化し、機能的意義を有すると推察される候補シグナルについては、上記の野生型およびノックアウトオルガノイドを用いて、コロニー形成や増殖など、in vitroでのオルガノイド表現系へのインパクトを検証する。このようなシグナルや分子は転移の抑制あるいは予防の標的となることが考えられ、遺伝学的摂動や阻害剤投与が転移フェノタイプに与える影響を検討する。
|