研究課題/領域番号 |
23K27859
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補助金の研究課題番号 |
23H03169 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分58030:衛生学および公衆衛生学分野関連:実験系を含まない
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
堀口 兵剛 北里大学, 医学部, 教授 (90254002)
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研究分担者 |
大森 由紀 北里大学, 医学部, 助教 (30415971)
松川 岳久 順天堂大学, 医学部, 准教授 (60453586)
小松田 敦 秋田大学, 医学系研究科, 非常勤講師 (70272044)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,980千円 (直接経費: 14,600千円、間接経費: 4,380千円)
2025年度: 5,720千円 (直接経費: 4,400千円、間接経費: 1,320千円)
2024年度: 4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2023年度: 7,540千円 (直接経費: 5,800千円、間接経費: 1,740千円)
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キーワード | カドミウム / 土壌汚染 / 秋田県 / 富山県 / 農業従事者 / 米 / 尿細管障害 / カドミウム腎症 |
研究開始時の研究の概要 |
秋田県のカドミウム(Cd)土壌汚染地域において自家産米摂取により過剰なCd曝露を受けた農業従事者を中心に住民健康調査を実施する。調査は集落毎に地元自治会館において健康診断形式で実施する。受診者から末梢血と尿を採取し、骨密度測定を行う。腎機能、骨代謝、造血能などに関する検査及び血液中、尿中のCd濃度の測定を行う。一方、当該地域の医療機関において腎機能低下を示す患者を対象にCd腎症スクリーニングを補完的に実施する。これらにより、秋田県のCd汚染地域の全体像解明及びCd腎症・イタイイタイ病患者の効率的探索と保健指導・診療の実施を図る。さらに富山県でもCd腎症スクリーニングの実施を試みる。
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研究実績の概要 |
平成21年より秋田県のカドミウム(Cd)土壌汚染地域で40歳以上の男女農業従事者を対象とする住民健康調査を継続して実施してきた。昨年度に北部の小坂町の5つの集落、南部の横手市の1つの集落、対照の東成瀬村の2つの集落で実施した住民健康調査でのそれぞれの受診者38名、33名、76名の自家産米・血液・尿中のCd等の元素濃度を今年度に測定した。小坂町は令和元年の2つの集落の受診者と合わせて86名を解析対象者とした(対照は平成25・26年の三種町での受診者144名)。東成瀬村はその前年度の受診者80名と合わせ、156名を南部の対照群とした。 小坂町の米中Cd濃度はいずれの集落でも対照より高く、4検体で基準値以上であったが、横手市のそれはいずれも高くなく、基準値以下であった。また、小坂町・横手市ともに米中ヒ素濃度の上昇は見られなかった。血中・尿中Cd濃度は小坂町と横手市ほぼすべての集落で男女とも対照よりも高い傾向にあった。小坂町の尿中β2-ミクログロブリン(β2MG)濃度は2つの集落で対照より2倍以上の高い値が見られ、横手市のそれは対照と有意な差はなかったが、Cd腎症を疑う女性が1名存在した。小坂町・横手市ともに骨密度は対照よりも低くはなかった。 今年度は新規の住民健康調査を小坂町の3集落、横手市の5集落において実施し、それぞれ21名、147名、計168名の受診者が得られた。現在元素濃度測定中である(4月に実施した横手市の26名以外)。 Cd腎症スクリーニングを実施している横手市と湯沢市の3つの医療機関において、種々の進行段階の3名のCd腎症患者、2名の高度Cd体内蓄積患者、1名のCd腎症疑い患者を追跡したところ、腎尿細管機能低下の進行度合いは様々であるが、骨代謝異常は現れていなかった。 以上より、今後も住民健康調査と医療機関におけるCd腎症スクリーニングを継続して実施する必要があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
秋田県北部のカドミウム(Cd)土壌汚染地域は小坂鉱山・精錬所周囲とそこからの小坂川・米代川下流域と尾去沢鉱山・精錬所周囲とそこからの別所川下流域に広がっていると考えられるが、現時点までにそのほぼ全領域及び対照地域(三種町)において住民健康調査を実施した。その結果、ほぼすべての地域で住民の血中・尿中Cd濃度は対照よりも高く、一部の住民では腎尿細管機能の低下、すなわちCd腎症の発症が疑われた。さらに最もCd汚染の影響を受けていた尾去沢鉱山周囲のひとつの集落において11年間の追跡調査を実施したところ、高度のCd曝露を受けた住民の中で新たなCd腎症の発症が見られた。 南部のCd土壌汚染地域は吉乃鉱山や増田鉱山などからの成瀬川下流域の灌漑水田に広がっており、主に増田、平鹿、十文字などの行政区域にまたがっている。また、その対照地域として鉱山より成瀬川上流に位置する東成瀬村での調査を実施した。現時点ではまだ多くの未調査地域が残されているが、これまでの調査結果では、住民の血中・尿中Cd濃度は対照よりも高く、Cd腎症と考えられる人も見つかっている。 秋田県内の医療機関におけるCd腎症スクリーニングについては、北部ではこれまでに数十名のCd腎症を疑う患者が見つかっており、特に明らかな骨代謝異常を伴い、「イタイイタイ病」と判定することができると考えられる1名の高齢の女性が存在した。南部では現在までに数名の高度Cd曝露を伴う腎尿細管障害を示し、Cd腎症を疑う患者が見つかっている。また、富山県の旧Cd土壌汚染地域のCd腎症スクリーニングについては、これまでの研究協力医療機関である富山大学附属病院と富山西総合病院に加え、新たに2つの診療所から研究協力が得られることになった。 このように、住民健康調査とCd腎症スクリーニングは、ともにおおむね順調に進捗していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在は令和5年度の住民健康調査で得られた142名分の自家産米・血液・尿の検体の元素濃度をICP-MSにより測定しており、結果が出たら個別に報告書を送付し、集落での全体報告会も実施する予定である。 これまでに秋田県北部のCd土壌汚染地域(大館、鹿角、小坂)で実施した住民健康調査及び医療機関でのCd腎症スクリーニングにより、これらの地域の農業従事者を中心とする住民におけるCd曝露とその健康影響についての全体像がほぼ明らかになってきた。すなわち、現在では種々の対策により米中Cd濃度は低減しているが、住民のCd曝露レベルは過去の摂取量を反映して高く、特に小坂鉱山と尾去沢鉱山の周囲で高度のCd曝露を受けてCd腎症を発症している人がいることが判明した。しかし、未調査の集落が小坂町で1つ、鹿角市で2つ残されているため、今後はこれらの集落で住民健康調査を実施する計画を立てている。令和6年度には上記の小坂町の集落で実施する予定である。 秋田県南部のCd土壌汚染地域(横手)では、現時点では住民健康調査を実施できたのは鉱山に近い1つの集落、増田地域の約半数の集落、平鹿地域では1つの集落であり、増田地域の他の集落、平鹿地域の別の1つの集落、十文字地域の2つの集落では現在調査進行中である。従って、令和6年度は上記の進行中の集落において継続して住民健診調査を実施する予定である。 秋田県各地と富山県の医療機関でのCd腎症スクリーニングも住民健康調査と並行して今後も継続して実施する。 さらに、Cd汚染の影響の大きかった集落での追跡調査、Cd以外の他の元素の関与についての検討、メタロチオネイン遺伝子多型とCd曝露に対する感受性との関連の解明などについても取り組む予定である。
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