研究課題/領域番号 |
23K27995
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補助金の研究課題番号 |
23H03305 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分59040:栄養学および健康科学関連
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
田渕 明子 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 准教授 (40303234)
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研究分担者 |
伊原 大輔 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 助教 (20804561)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,850千円 (直接経費: 14,500千円、間接経費: 4,350千円)
2025年度: 5,460千円 (直接経費: 4,200千円、間接経費: 1,260千円)
2024年度: 6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 7,020千円 (直接経費: 5,400千円、間接経費: 1,620千円)
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キーワード | CREB / SRF / 遺伝子発現 / 同調制御 / 記憶 |
研究開始時の研究の概要 |
認知症克服は、超高齢社会における喫緊の課題であるが、神経細胞死、神経回路の破綻、脳機能の障害を防止する治療法の開発が望まれる。最近、転写因子CREBに加え、別の転写因子SRFも記憶に重要であることが示された。我々は、CREBとSRFに結合する転写コファクターが「同調制御」され、遺伝子発現の場である核に移行すること、アルツハイマー型認知症で認められるAbetaによりそれが阻害されることを発見した。両転写コファクターをニューロセンサー型転写因子と名付け、両者の「同調制御」が従来の「個別制御」では得られない相乗効果として、革新的な記憶改善を引き起こす機構の解明と薬の開発を目指す。
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研究実績の概要 |
認知症克服に向けた治療法の開発を目指し、記憶に関与する転写因子CREBとSRFに結合する転写コファクターCRTC1とMRTFB(別名MKL2)の「同調制御(コレギュレーション)」の機構解明を行っている。また、独自探索系による同調制御を活性化する薬効・栄養成分の探索に向けた基礎検討を行っている。本研究では、CRTC1とMRTFB(別名MKL2)をニューロセンサー型転写因子と名づけ、下記の研究を行った。 ニューロセンサー型転写因子の共通する制御因子として、脱リン酸化酵素カルシニューリンを見出している。先行研究では、CRTC1がカルシニューリンの基質であり、直接脱リン酸化されると核に移行することが明らかになっている。我々は、in vitroホスファターゼアッセイによるバンドシフトにより、MRTFBがカルシニューリンの基質であることを見出した。今年度は、このバンドシフトが再現良く起こり、かつ免疫沈降後の精製MRTFBでも認められていることを示した。現在、本サンプルによる脱リン酸化部位の同定を行っている。 また、ChIP-Seqのデータ解析等を参考にすることにより、MRTFBの核移行に感受性の高い新しい標的遺伝子群を複数同定した。この遺伝子群については、カルシニューリン依存性など、MRTFBの制御機構との整合性を取っている。 さらに、Neuro2a細胞において、ホタルルシフェラーゼアッセイにより探索が可能であることを示した。現在、ラージスケールで得た本成果をスモールスケールにて再現し、多検体スクリーニングへの最適化を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ニューロセンサー型転写因子の共通的な制御因子カルシニューリンがCRTC1とMRTFBを同時に直接脱リン酸化し、同調的に核に移行させることを示唆する結果を得て、さらに再現性も取ることができた。これは、当初の予定であった同調制御の仕組みの一端を解明したことになる。また、このタンパク質修飾が精製後のタンパク質でも維持されていることが分かったため、質量分析により修飾部位の同定を行える段階まで到達した。また、免疫沈降実験が培養神経細胞(細胞レベル)とマウス(個体レベル)の双方で可能になった。これらの成果は、ニューロセンサー型転写因子複合体の実態解明に向けた基礎を構築できたことを意味し、当初の目的であるニューロセンサー型転写因子の機能理解に向けた前進である。 また、神経活動で活性化され、かつMRTFの核移行抑制を引き起こす薬剤により不活性化される遺伝子群を複数明らかにすることができた。本標的遺伝子群は、神経細胞の機能向上に深く関係している可能性がある。本成果は、当初の目的である標的遺伝子群の同定を一部達成したばかりではなく、記憶改善のマーカーや治療薬開発の基礎となることを示唆する。 さらに、Neuro2a細胞において、ニューロセンサー型転写因子を同調的に活性化する薬効・栄養成分の探索は、まだ途中の段階ではあるが、着実に準備が整いつつある。 以上により、本研究は、現段階では概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
【基礎:分子・細胞レベル】MRTFBの脱リン酸化部位の同定を質量分析により明らかにする。同定された部位に関しては、変異導入を行うことにより、核移行の責任部位であるかどうかを検証する。ニューロセンサー型転写因子の更なる機能理解につなげるため、免疫沈降物に含まれる分子を明らかにする予定である。一方で、新しい標的遺伝子群も明らかにしたため、その制御機構解明も併せて行う。 【応用:細胞レベル】ニューロセンサー型転写因子を同調的に活性化する薬効・栄養成分の探索は、系の確立を行い、ライブラリーをスクリーニングにかけ、候補化合物を得る。候補化合物のターゲットは、上記の【基礎:分子・細胞レベル】で得た成果を利用し、効率よく実行する。また、薬効解析として、下記の個体レベルの検証を予定している。 【病態:個体レベル1】認知症モデルマウスに上記で見出した候補化合物を投与し、認知症改善効果が認められるかどうかを検証する。さらに、【基礎:分子・細胞レベル】で得た成果が個体レベルでも認められるかどうかを検証する。 【病態:個体レベル2】我々は、MRTFBの新しい分子種SOLOISTを同定し、細胞レベルにおいて既存のMRTFBとは逆の樹状突起単純化の機能があることを明らかにした。SOLOIST KOマウスを作製し。個体レベルにおいて検証するとともに、行動試験による神経疾患マウスモデルとしての有用性を検証する。また、本マウスを【応用:細胞レベル】で得た候補化合物の薬効を評価にも利用する。
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