研究課題/領域番号 |
23K28007
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補助金の研究課題番号 |
23H03317 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分59040:栄養学および健康科学関連
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
小林 聡 同志社大学, 生命医科学部, 教授 (50292214)
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研究分担者 |
和久 剛 同志社大学, 生命医科学部, 准教授 (40613584)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,850千円 (直接経費: 14,500千円、間接経費: 4,350千円)
2025年度: 5,980千円 (直接経費: 4,600千円、間接経費: 1,380千円)
2024年度: 5,980千円 (直接経費: 4,600千円、間接経費: 1,380千円)
2023年度: 6,890千円 (直接経費: 5,300千円、間接経費: 1,590千円)
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キーワード | アルギニン / 転写因子 / アミノ酸トランスポータ / マクロピノサイトーシス / がん免疫回避 / 腫瘍微小環境 / 腫瘍増大 / アミノ酸飢餓 / 遺伝子発現 / シグナル伝達 / 転写制御 |
研究開始時の研究の概要 |
タンパク質を構成するアミノ酸がシグナル伝達因子として機能することが明らかにされ、食と医療という観点から大変注目を集めている。しかし生理作用が解明できていないアミノ酸は多く、さらにそれが高次生命現象につながった例も少ない。そのような状況で申請者らは、アルギニン欠乏が転写因子NRF3を活性化しアミノ酸トランスポーターを発現誘導することを発見した。そこで本研究では、アルギニンによるNRF3を介した分子メカニズムと新たな生理作用を解明する。さらにこの知見を、がん細胞がアルギニンを独占することで免疫細胞を疲弊させる「がん免疫回避」につなげる。
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研究実績の概要 |
タンパク質を構成するアミノ酸がシグナル伝達因子として機能することが明らかにされ、食と医療という観点から大変注目を集めている。例えばロイシンはmTorc1シグナル系を活性化して細胞増殖を亢進させる。しかし生理作用が解明できていないアミノ酸はまだ多く、さらにそれが高次生命現象につながった例も少ない。そのような状況で申請者らは、アルギニン欠乏が転写因子NRF3を活性化しアミノ酸トランスポーターを発現誘導することを発見した(基盤研究(B) R2-4)。これは「アルギニン欠乏というシグナル」が転写因子に作用し遺伝子発現を制御する珍しい現象である。そこで本研究では、アルギニンによるNRF3を介した分子メカニズムと新たな生理作用を解明する。本年度の解析によって、まず難治性である膵臓がんの増大機構にNRF3が重要な機能を有することを、NRF3をノックダウンさせたヒト膵臓がん由来PANC1細胞を免疫不全マウスへ膵尾移植するin vivo実験で発見した。一方、同細胞は通常の培養条件では細胞増殖に影響は観察されなかったが、アミノ酸レベルを低下させた培地では著しく細胞生存が低下することも明らかにした。これらの結果は、低栄養状態にある腫瘍微小環境において、膵臓がん細胞の生存にNRF3が重要な機能をもつこと、その1つはアミノ酸取り込みに関わることを強く示唆している。その仮説を支持するように、NRF3が発現制御する遺伝子として、いくつかのアミノ酸トランスポーターを見出した。今後は、このNRF3の膵臓がんの増大の分子メカニズムを細胞レベルとマウス個体レベルの解析で解明する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NRF3によるアルギニンをはじめとするアミノ酸を介した腫瘍増大機構を解明するために、膵臓がんにフォーカスを当てて解析を進めた。なぜならNRF3は膵臓がんで発現亢進し、悪性化と相関が予想されていること、さらに膵臓がんは難治性であり、その克服は喫緊の課題にあるためである。 まずNRF3が高発現しているヒト膵臓がん由来PANC1細胞においてNRF3をノックダウンさせた細胞を樹立し、免疫不全マウスの膵尾に移植した。仮説としては、NRF3ノックダウンにより膵臓の腫瘍悪性化に強く影響が見られると考えていたが、予想外に、腫瘍自体の増殖が全く見られないことを発見した。この結果は、NRF3が膵臓の腫瘍悪性化だけではなく、腫瘍増大機構にも大きな機能を有することを強く示唆する。そこで研究方針を変更し、まずアミノ酸シグナルを介したNRF3による膵臓の腫瘍増大機構の解析に着手した。上述したNRF3ノックダウンPANC1細胞は通常培養では問題なく増殖するため、マウス移植実験が可能であった。このin vitroの細胞レベルの実験結果と、in vivoの移植実験結果の差は、腫瘍微小環境に比して、細胞の培養液中には豊富な栄養素が存在する点にあると考え、アミノ酸量を低下させた培地でNRF3ノックダウン細胞を培養したところ、コントロール細胞に比して著しく生存が低下することを発見した。この結果は、おそらく腫瘍微小環境の低いアミノ酸量によりNRF3が活性化し、アミノ酸トランスポーターやマクロピノサイトーシス関連遺伝子を発現誘導することで、細胞外からのアミノ酸取り込みを活性化し、膵臓の腫瘍増大をもたらしているという仮説を立てた。この仮説を支持するように、いくつかのアミノ酸トランスポーター遺伝子をNRF3標的遺伝子候補として見出した。
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今後の研究の推進方策 |
旧年度、NRF3はアミノ酸取り込みを活性化することで、膵臓がんを増大させている可能性を見出した。そこで、その詳細メカニズムの解明とその腫瘍増大との相関について解析する。 まずNRF3が発現誘導するアミノ酸トランスポーター遺伝子同定する。NRF3ノックダウンさせたPANC1のマイクロアレイデータがすでにあるため、その候補遺伝子を同定することが可能である。さらにNRF3が直接発現制御している可能性を見出すため、公共データベースのクロマチン免疫沈降シークエンス(ChIPシークエンス)データも解析する。さらに、これらインフォマティクス解析の結果を、細胞を用いた分子生物学的解析で標的遺伝子を同定する。またNRF3がこれら遺伝子発現を誘導することで、細胞外からアミノ酸の取り込みを活性化していることを、測定キットで解析する。 次にNRF3が細胞外から取り込みを促進するアミノ酸を同定する。上記解析で同定するアミノ酸トランスポーターが取り込むアミノ酸である可能性が高いため、特定のアミノ酸だけではなく、必須アミノ酸等の広い範囲のアミノ酸を取り込んでいる可能性が高いと現時点で考えている。 最後に、このNRF3によるアミノ酸取り込みが、in vivoにおける腫瘍増大機構に関わることをマウス膵尾移植実験で証明する。まずNRF3を過剰発現させたヒト膵臓がん由来MIAPACA細胞の移植で形成した腫瘍で、その腫瘍微小環境中のアミノ酸レベルが著しく低下していることを質量分析法で同定する(具体的な解析方法については、現在検討中である)。一方、NRF3ノックダウンPANC1細胞に、上記アミノ酸トランスポーターをレンチウイルスで発現させることで、腫瘍退縮がレスキューされるか検討する。以上の結果から、NRF3によるアミノ酸を介した膵臓の腫瘍増大機構が解明されるはずである。
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