研究課題/領域番号 |
23K28025
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補助金の研究課題番号 |
23H03335 (2023)
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 基金 (2024) 補助金 (2023) |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分59040:栄養学および健康科学関連
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
森川 吉博 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (60230108)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
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配分額 *注記 |
18,590千円 (直接経費: 14,300千円、間接経費: 4,290千円)
2026年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2025年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2024年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2023年度: 5,850千円 (直接経費: 4,500千円、間接経費: 1,350千円)
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キーワード | 肝癌 / 老化 / 非アルコール性脂肪肝炎 / 運動 / オンコスタチンM |
研究開始時の研究の概要 |
肝癌は罹患率の高い癌の一つであり、近年、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が原因となって発症する代謝性肝癌が増加している。加齢に伴い発症する癌の機序として、細胞老化とそれを排除するクリアランス機構の関与が明らかとなり、肝癌においても、老化肝細胞の癌化が示唆されている。代謝性肝癌の発症抑制に対する運動療法の効果が示唆されてきたが、老化肝細胞とそのクリアランス機構に対する運動療法の効果は不明である。本研究では、代謝性肝癌の発症における老化細胞クリアランス機構に対する運動療法の効果と運動時に増加する新規のマイオカインであるオンコスタチンMの関与を解明する。
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研究実績の概要 |
研究代表者は、オンコスタチンM(OSM)がNAFLDや付随する炎症を抑制すること、及びその発現が中等度の急性トレッドミル走行運動(15 m/min、1時間)により骨格筋で増加することを発見した。代謝性肝疾患の運動による治療効果におけるOSMの関与が示唆されたため、肝や血中においてOSMの発現を誘導する運動を検討した。上記の中等度急性トレッドミル走行運動では、肝におけるOSMの発現増加は見られなかったが、トレッドミルによる疲労困憊運動(10 m/minで5分間走行し、その後、2分ごとに2 m/minずつ速度を上げ、疲労困憊するまで走行)では、骨格筋や血中に加えて、肝における発現増加を認めた。 変異型N-Rasの過発現やDENによる発癌モデルでは、肝において老化肝細胞が認められ、それらが免疫細胞により排除されることが重要な発癌抑制機構として報告されている(Kang et al., Nature, 2011; Mossanen et al., Gastroenterology, 2019)。STAMモデルにおける老化肝細胞とそのクリアランスに関与する免疫細胞を検討した。NASH期(8週齢)の肝でOSMはF4/80陽性のマクロファージで発現し、p21やSA-β-gal陽性の老化肝細胞が認められた。また、プレリミナリーではあるが(n = 1)、マクロファージやNK細胞、CD8陽性T細胞がコントロール(4週齢)、NAFLD期(6週齢)、NASH期と病期が進行するにつれて増加していた。これらの結果より、STAMモデルにおいても、老化細胞とそのクリアランス機構が存在している可能性が示唆された。 NASH期から4週間ランニングホイールにより慢性自発走行運動を行ったところ、肝表面の色調変化や結節数の低下、SA-β-gal陽性の老化肝細胞数の減少傾向、及びNKT細胞数の増加傾向を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度遂行予定であった実験内容のうち、運動による肝におけるOSMの発現の検討、およびSTAMモデルにおけるOSMの発現細胞の検討はおおむね終了している。STAMモデルにおける老化肝細胞とそのクリアランス機構の検討については、現在、条件検討を行い、準備を進めているところであり、次年度以降に、免疫細胞浸潤のメカニズムなどの詳細な検討を遂行する予定である。特に本年度は、運動強度として、ランニングホイールによる慢性的な自発走行運動がSTAMモデルの老化肝細胞のクリアランス機構に及ぼす影響について検討を行った。その結果、ランニングホイールによる慢性的な自発走行運動により、非運動群と比較して運動群で、肝表面の色調変化や結節数の低下、SA-β-gal陽性の老化肝細胞数の減少傾向、及びNKT細胞数の増加傾向が認められたことより、慢性の自発運動が老化肝細胞のクリアランス機構を誘導する可能性が示唆された。運動が肝癌の発生抑制に効果的であるという報告はあるが(Arfianti et al., J Hepatol, 2020)、そのメカニズムとして老化肝細胞のクリアランス機構を検討した報告はない。本年度の結果は、肝癌の発癌機構として注目を集めている老化肝細胞とそのクリアランス機構が運動により誘導される可能性を示したものであり、NASHを基盤とした肝癌の発症における運動の役割を解明する上で大いに役立つ結果である。次年度以降でこれらの詳細なメカニズムを解明していきたいと考えている。以上のことより、本年度の研究は、おおむね順調に進行していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の結果より、野生型STAMモデルのNASH期に老化肝細胞が認められた。また、慢性運動負荷(ランニングホイールによる自発運動)により、老化肝細胞の数が減少傾向にあった。次年度以降は、運動による老化肝細胞の数的変化を、老化肝細胞に発現するセルサイクル関連分子であるp21やp16を指標として詳細に検討するとともに、老化肝細胞のクリアランスに関与するケモカイン(CCL2, CXCL10など)や、それらにより誘導される免疫細胞(NK細胞、T細胞、マクロファージなど)の増減についても詳細に検討し、運動が老化肝細胞のクリアランス機構に及ぼす影響を明らかにする。 初年度の結果より、高強度の単回の運動により、肝におけるOSMの発現が増加した。これらの結果より、OSMは運動による老化肝細胞クリアランス機構に関与している可能性が考えられる。そこで、OSMRKOマウスを用いてSTAMモデルを作製し、運動による老化肝細胞のクリアランス機構を上記の方法で検討することで、OSMのシグナルが運動時の老化肝細胞のクリアランス機構に及ぼす影響を明らかにする。また、野生型マウスのSTAMモデルに対してOSMを投与し、老化肝細胞数とそのクリアランス機構を検討することで、OSMの肝癌発症に対する抑制効果とそのメカニズムを明らかにする。 STAMモデルのNASH期の肝でOSMRβの発現が認められた類洞内皮細胞などを、磁気ビーズやセルソーターなどにより分取し、OSMの直接的な作用(細胞数・細胞タイプの変化や、炎症性サイトカイン・ケモカインの発現など)を検討する。また、細胞種特異的にOSMRβを欠損するコンディショナルマウスを用いてSTAMモデルを作製し、発癌の増減や、老化肝細胞数や免疫細胞の動態を上記の方法により検討する。この実験により、老化肝細胞のクリアランス機構におけるOSMの役割を明らかにする。
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